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        第56回

         人類の未来を左右するか?ロボット革命と延命ビジネス(後編)

         

        浜田和幸

         

        ウェブで読む:http://foomii.com/00096/2017030310000037543

        EPUBダウンロード:http://foomii.com/00096-38143.epub

        ──────────────────────────

         と同時に、人間の生命や寿命という観点からも、新たな動きが顕在化している。世界に先駆け、超高齢化社会に突入する日本。健康長寿は誰もが望むところである。

        そんな中、日本人研究者が主導する「サーチュイン遺伝子」が世界的な注目を集めるようになった。

        なぜなら「サーチュイン」は、細菌からヒトに至るまで、ほぼすべての生物の中に宿っており、栄養の変化や環境が及ぼす刺激に対応し、生物の生存を保証するパワーを秘めているからだ。

         

         こうした背景には、「NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)」と呼ばれる人間をはじめ全ての生き物の体内に存在している天然のタンパク質が人体の老化防止や寿命の制御に重要な役割を担っている可能性が徐々に明らかになってきたことが影響している。

         

         実は、この分野での研究をリードしているのは日本人である。米国ワシントン大学の今井眞一郎教授らによる研究グループが、サーチュイン遺伝子について様々な実験を繰り返し、この遺伝子を活性化させることにより、人間の長寿命化が可能になるとの見通しを明らかにしたからである。

         

        その結果、世界中の人々がその実用化に期待を寄せるようになった、いずれにせよ、新たな生物学上の発見が病理学的にも注目され、肥満や糖尿病の新しい創薬として実用化が期待されているのである。

        国民の7割近くが糖尿病というアラブ産油国では、特に需要が高まると思われる。

        当然、各国の医薬品メーカーや医療機関がこぞって関心を寄せているようだ。

         

         今井教授によれば、「通常、あらゆる生物の細胞にNMNは含まれているのだが、加齢とともに減っていく傾向にある」とのこと。そこで、こうした細胞内のタンパク質の1種であるNMNを増やすことができれば、衰えた細胞が元の若々しい臓器の再生に繋がると仮定されている。

        さらにはアルツハイマー病についても、早い段階からこのNMNを取り入れていれば、病気の発症も抑えられるという。

         

         それでなくとも、「先進国の寿命は1日5時間のペースで伸びている」といわれるほどだ。サーチュイン遺伝子を味方につければ、2045年には平均寿命は100歳を超えるどころか、若返りも可能になるに違いない。その可能性は日々、現実化しつつある。

         

         2014年12月、科学史上最大と呼ばれる寿命延長のためのバイオテクノロジー会議がアメリカで開催された。ハーバード大学をはじめ、世界の名だたる延命、生命科学の専門家が一堂に会し、かつてないほど創造的な研究成果が相次いで発表された。

         

         たとえば、マウスを使った実験であるが、人間に例えれば60歳の高齢者を20歳の青年に若返らせる研究の成果も発表された。

        これこそがNMNの力である。何しろ、糖尿病のマウスを使った実験で、肥満状態にあるマウスにNMNを一週間飲ませた結果、血糖値が大幅に低下した。

        糖尿病も改善し、老化した膵臓の機能も蘇ったと報告されている。夢のような話だが、「60歳を過ぎた女性が20代に若返り、出産も可能になる」という。

         

         近年、遺伝子の解析スピードが急速に上がっており、ビッグデータの解析手法を使うことにより、長寿遺伝子の解析も長足の進歩を遂げている。

        その研究対象になっているのがサーチュイン遺伝子に他ならない。現在、7種類のサーチュイン遺伝子の存在が確認されている。

        普段は眠っているこれらの遺伝子を覚醒させることで、大幅な延命効果が期待できるというから、アラブの大富豪に限らず、ビル・ゲイツやウォーレン・バフェトなど世界の富裕層の間ではこの話題でもちきりのようだ。

         

         世界全体で見れば、このようなアンチエイジングのマーケットは約30兆円規模に膨らんでいる。

        60歳以上が全体に占める比率も現在は10%程度であるが、

        2050年までには22%に拡大することが確実視されているほどだ、こうした世界的な延命効果を可能としているのは、遺伝子や

        幹細胞研究をはじめナノテクノロジーを応用した予防医学に他ならない。

         

         

         そうした動きをグーグルは新たなビジネスチャンスとして捉え、ビッグデータの技術を最大限に活用し、人間の寿命をコントロールする究極のゴールを目指す方針を打ち上げたのである。

        「現在の平均余命を少なくとも20年、目標としては100年~200年は延命できるようにしたい」というわけだ。

        それを可能にする新薬の研究開発に取り組み始めたのである。

         

         人間の身体は60兆個といわれる膨大な数の細胞から成り立っている。

        しかし、元をたどれば、一つ一つの細胞は極めて小さなものに過ぎない。

        そこで、この一つ一つの細胞のメタボリズムを飛躍的に高めることにより、人間全体の運動能力を強化しようという発想が底辺に流れている。グーグルの共同創業者の1人であるラリー・ペイジ氏は、ヘッドハンティングをした未来学者カッツウェル博士とともに、

        2045年を目標に、「人間の頭脳を現在より10億倍強化する計画」を温めている。

         

         言い換えれば、人間の頭脳をビッグデータ化するとともに、人間の肉体や生命を永久化しようとする試みといえよう。

        「人間とマシーンの合体」とも受け止められる。

        これを単なる空想の産物と笑い飛ばすのか、あるいは、科学的な

        ニューベンチャーとして真剣に受け止めるのか。

        どちらの視点に立つかによって、人類と地球の未来が大きく左右されることになるに違いない。

         

        次号「第57回」(310日発行)もどうぞお楽しみに!

         

         

         

         

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        著者:浜田和幸

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