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        第62回

         

        アジアを襲う2大危機:水と食糧の不足(後編)

         

        浜田和幸

         

        ウェブで読む:http://foomii.com/00096/2017042110000038363

        EPUBダウンロード:http://foomii.com/00096-38964.epub

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         25億人に達すると予測されるアジアの人口が必要な食を確保するためには現在の2倍の食糧が必要とされる。そのためには、これまで以上に貴重な水資源を有効活用することが必要とされる。

        その切り札となるのが日本の造水技術であり、節水技術と言えるだろう。アジアの中でも特に人口増加の著しい中国とインドにおいては、海水の淡水化プラントや汚水の浄化施設などへの投資が「焦眉の急」となっている。

         

         見方を変えれば、これこそ日本がアジアのために救世主となる大きなチャンスなのである。日本の水技術が今ほど求められている時はないと言えるだろう。こうした水関連技術をどのような形で世界の食糧問題の解決に活かすことができるかどうか。日本の存在感が試されているといえよう。

         

         ユネスコの調査によれば、世界で使われている水の70%は農業、特に灌漑に使われていると言う。現実にはそれほど水を使わなくとも農業を営むことは十分可能である。なぜなら、伝統的に農作物はその土地の気候に適応したものが育っているからである。

        たとえ雨量が少なくても限られた水で育つ野菜や果物は数多く存在している。

         

         しかし、近年は生産高を増すために遺伝子組換え作物が普及するようになってきた。こうしたハイブリッド種から育つ作物は伝統的な地場の作物と比べ大量の水を必要としている。そのため世界各地で地下水を大量に汲み上げ灌漑用に使うケースが増えてきた。

        従来、川や湖、池、貯水池などの水で十分賄われていた農業用の水需要がそれだけでは不十分ということになり、大規模な地下水の利用が必要とされるようになってきた。

         

         こうした事態を重く見たユネスコでは地下水の過剰な汲み上げに対し警告を発している。しかし、そうした警告はこれまでのところ無視される一方である。地下水は人々にとって欠かせない水の供給分の4分の1程度を賄っている。これは世界共通の状況と言われている。ということは世界各地で地下水が大量に消費された結果、農業用の地下水が不足するのみならず、飲料用の水源地も失われ始めているのである。20世紀が石油を巡る争いの世紀であったとすれば、21世紀はこのような水を巡る争奪戦が営まれる時代と言っても過言ではないだろう。

         

         香港大学の地理学者デービッド・チャン氏によれば、「過去500年の間に8000回を超える戦争が発生したが、その原因は水不足が引き起こした水源地を巡る争いという性格のものが圧倒的に多い」という。人類はこれまで限られた資源を巡り紛争や対立を繰り返してきた。今後は水を巡る争奪戦が益々激化するに違いない。

        すでに世界各地において、ピーク・ウォーターが過ぎており、自然の水循環だけでは世界の人々の水需要が賄えない時代に入っているからだ。

         

         

         国連が明らかにした調査報告によれば、世界人口の3分の1以上が水不足に直面しているという。

        2020年までに我々の使う水の使用量は現在より40%以上も増大すると言われている。

        そして2025年までには世界人口の3分の2は、必要な水が十分利用できないウォーターストレス状況に陥っていると予測される。中でも状況が厳しいと見られているのが中国である。

        急速な経済発展を達成する過程で、大量の水を利用する必要に迫られる中国は自然の循環を遙かに上回るペースで農業や工業に水を利用してきた。

        また、環境対策を十分に施さなかったため、水源地が次々と汚染されるか、あるいは枯渇するという状況に追い込まれている。

         

         すべての技術にはプラスとマイナスの両面が存在する。

        日本には純粋な技術神話が根付いているが、技術の進化とともにそれを利用する一人一人の消費者の心も進化しなければ、結果的には技術に飲み込まれることもあり得る。

         

         日本の淡水化技術は、中東諸国で幅広く利用されている。

        石油はうなるほどあるが、水のない国が多いためである。

        海水を淡水化する技術は豊かな資源を持つ中東産油国にとっては欠かせない技術である。

        中東にとどまらず、オーストラリアやスペイン、中国、インド、そしてアメリカといった国々でも近年海水の淡水化プラントが相次いで建設され稼働し始めている。

        その多くは日本の技術を組み込んだプラントである。

         

         世界野生基金(WWF)によれば現在世界には一万カ所以上の海水の淡水化プラントが稼働している。

        今後もその増加の勢いは留まるところがなさそうだ。もちろん最大の淡水化プラント密集地は中東産油国である。

        これらの地域では水需要の60%以上をこうした日本の技術を応用した造水プラントで賄っている。

         

         しかし、WWFの専門家に言わせれば「こうした淡水化プラントは海洋生物の多様性に対し危機的状況をもたらしている」と警告を発している。

        海水から塩分を抜きとる際に様々な化学処理を行う淡水化プラント。

        そこから発生する廃棄物が海洋汚染を引き起こし、海洋生物に対し悪影響をもたらしているという指摘である。

        いわゆるエコシステムが破壊されつつあるというわけだ。

         

         海水の淡水化や工場排水のリサイクルなど様々な水の浄化技術が世界の水問題の解決にとって切り札と見なされているが、そうしたプロセスの中で新たな環境破壊の問題の種が生まれていることに対しても眼をつむっている訳にはいかないだろう。

        結局のところ我々一人ひとりが水を利用する際の賢明な使い方に工夫をこらすしか、この問題の究極の解決策はないだろう。

         

        次号「第63回」(428日発行)もどうぞお楽しみに! 

         

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        著者:浜田和幸

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