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         2020年6月5日発行

        世界の最新トレンドとビジネスチャンス

        第205回

        コロナ危機の裏で深刻化する食糧問題と加熱する種子争奪戦争(中編) 

        浜田和幸

         

        ウェブで読む:https://foomii.com/00096/2020060510000066693

         

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        あまり知られていないが、アフガニスタンは40年前には豊かな農業の輸出国であった。アメリカ軍はアフガニスタン侵攻に際し、「2007年までには同国が再び食糧に関して自給自足のできる体制に引き上げる」と謳っていた。しかし、目標の年をはるかに超えた2020年の現在、食糧の自給自足は「絵にかいた餅」に終わっている。

         

        その背景には戦争後の復興計画が進んではいるものの、

        実際にその恩恵を被っているのは地元の農民や市民ではなくケモニクスに代表されるようなアメリカの援助ビジネスに携わっている企業が中心となっているからだ。

        いずれにせよアフガニスタンの農業を復興させるために最も重要な資源は種子である。

         

        2002年、アメリカとオーストラリア政府が資金を提供し、34の組織が協力し「国際農業リサーチ研究グループ」が誕生した。そしてこのグループの指導を受ける形で「アフガニスタンの農業復興のための未来の収穫コンソーシアム」と呼ばれる組織が旗揚げした。何と、その主たる活動は

        アフガニスタンの農民たちが長年にわたり育ててきた穀物の種子を捨てさせ、新たにアメリカが開発した種子を広めることであった。

         

        アメリカもヨーロッパ各国政府もアフガニスタンにおいて、自国に有利な新たな種子産業を育成しようと深慮遠謀を企てていたのである。最終的にアメリカが勝利を収め、外国の企業やアグリビジネスに門戸が開放される際に、最も有利な条件でこの新興市場を押さえようと目論んでいたわけだ。

         

        その目的を達成するため、アメリカ政府はわざわざ法律の改正まで行い、アフガニスタンの農民たちが自分たちの種を保存し、次の年に植え付けることができないようにしたのである。2008年10月、世界食糧機構が音頭をとり、アフガニスタンの首都カブールでは「アフガニスタン全国種子協会」がお目見えした。まさにアメリカの目指す、自国製の種子をアフガニスタンで長期にわたり広めようとする計画の本格的スタートであった。

         

        その一方で、アメリカ軍に抵抗するタリバン側の勢力も自らが開発した種子を農民たちに提供することで信頼を得ようと躍起になってきた。要は、米軍が提供する種子とタリバンが提供する種子の間で熾烈な市場争奪戦争が展開されているわけだ。とは言え、いずれの種子も無料ではない。確かに当初は無償で配られるが、長い目で見ればどちらの種子にも毒が盛り込まれているようなもの。米軍とタリバン勢力との「出口の見えない戦争」に翻弄され続けているアフガニスタンの国民や農民たちにとって、この種子戦争という新たな戦場で、どちらの側に立つのか厳しい選択を迫られてきたといえよう。

         

        イラクにおける情勢も極めて似通っている。

        イラクは「文明のゆりかご」と呼ばれるほどで、農業に関しても数千年の長い歴史を誇ってきた。しかし、イラク戦争が終わり米軍による占領統治が続く中で、今やイラクはアメリカの小麦や米産業にとっては最大のお得意先となっている。アメリカ政府はイラクを占領することにより、石油だけではなく巨大な市場を手に入れたと言っても過言ではない。

        15億ドルに達する食糧マーケットがアメリカの企業に

        開放されたからである。

         

        短期間でイラクの農業や食糧流通システムはアメリカに全面的に依存するようになってしまった。

        米軍はかつて巨大農業企業カーギルの役員であったアムスタッズ氏を引き抜き、米軍の対イラク農業支援事業の責任者に据えた。アフガニスタンで行ったのと同じように米軍は

        イラクにおいても同国の法律を改正させ、アメリカからの

        輸入品、特に食糧に関してアメリカ依存を強める政策を徹底的に実行したのである。

         

        その結果、イラクにおいては自前の農業生産や食糧ビジネスはほぼ壊滅状態に陥ってしまった。そうした上で、米軍はアメリカ産の種子を積極的に広めているわけだ。本来イラクの農民たちが豊かな土壌や長い農業経験に基づき大切に

        伝承してきた種子を全て捨てさせたのである。

        イラクにとって、小麦は最大の食糧源であったが、今では

        アメリカの種子メーカーが提供する種子やアメリカの穀物会社から必要な小麦やトウモロコシなどを大量に輸入せざるを得ない状況に立ち至っている。

         

        アメリカ政府は2006年以降、3億4300万ドルを投入し、イラクに対する二つの新たな農業支援策を開始した。一つは「アグリビジネス育成計画」。もう一つは「民間セクター育成並びに雇用増進計画」である。いずれもUSAIDが始めたものだが、実際に日々の業務を推進するのはアメリカのルイス・バーガー・グループ。同社は世界最大規模を誇るインフラ整備や開発を専門とするコンサル会社である。

         

        これら二つのプログラムを通じてイラクにおける新たな食糧産業に対する投資を加速させようと考えたのである。

        しかも注目すべき動きは、こうした農業や職業訓練の計画がすべて軍事作戦の中に組み込まれていることである。

        アメリカ政府はイラク復興支援の名目で2億5000万ドルの予算を計上し、580を超える農業関連プロジェクトを展開している。問題はこれらのプロジェクトの97%以上が現地の米軍司令本部によって決済が行われていることであろう。表向きは農業支援を通じての復興事業とされているが、実際に資金の流れやプロジェクトの進行状況を確認する

        立場にあるのは米軍なのである。

         

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        著者:浜田和幸

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