奥 義久 の 映画鑑賞記
2019年7月
19/7/2 「ニューヨーク最高の訳あり物件」
モデルのジェイドは、デザイナーデビューのショーを控え、大忙しだが
満足な暮らしをしていたが、突然夫のニックから離婚を告げられる。
そんな時に前妻のマリアが訪ねて来て、部屋の所有件の半分を主張する。
ジェイドとマリアはライフスタイルも性格も真逆で人生をかけた闘いが始まるが、共同生活は思わね方向に進んで行く。ドイツの名匠マルガレーテ・フォン・トロッタが初めてコメディの監督をし、ウッディ・アレンを彷彿させると評価された作品。
ジェイド役はノルウェー出身のイングリット・ボルゾ・ベルダル、マリア役はドイツを代表する女優カッチャ・リーマン。二人の演技派女優の熱演も見事。
19/7/3 「新聞記者」
大学新設計画に隠された極秘情報を追う新聞記者と元上司の死の真想を追求する内閣情報室の官僚。二人の出会いが衝撃の事実を明らかにする。
新聞記者役に韓国の人気女優シム・ウンキョン、官僚役は松坂桃李のW主演。共演者は本田翼、北村有起哉、田中哲司。官邸とメディアの裏側を描く興味ある題材だが、主人公シムが演じる役が韓国人とのハーフの設定だが、日本語の台詞のイントネーションが今一つである。
ハーフの設定の必要性がある内容とは思えない。
緊迫したドラマの中で台詞の言い回しに問題があるのは残念な事である。
19/7/7 「ゴールデン・リバー」
黄金が繋いだ4人が思わぬ結末を向かえる異色西部劇。
ヴェネチア国際映画祭の銀獅子賞を始め、セザール賞4部門獲得という高評価
の作品。
手を組む4人には、ジョン・C・ライリー、ホアキン・フェニックス、
ジェイク・ギレンホール、リズ・アーメッドという一癖ある個性俳優が揃った。西部劇の制作本数が少なくなり、映画館で西部劇を見る機会が少なくなった
今日だが、このような作品が誕生したことにより、かつての西部劇の名作
「駅馬車」「荒野の決闘」「大いなる西部」「リオ・ブ ラボー」「OK牧場の決闘」「シェーン」そして日本映画のリメイク「荒野の七人」「荒野の用心棒」と数多く誕生した西部劇エンターテイメントの復活を期待したい。
19/7/8 「Girl/ガール」
バレリーナを夢見るトランジェンダーのララ。ララを全力で支える父親と
自分自身の夢のため、努力する少女の焦りと苦悩を描いた感動作。
第71回カンヌ国際映画祭の新人監督賞を受賞。本年の必見作の一本。
主人公ララを演じたベルギーの新星ルーカス・ドンのデビュー作。
19/7/9 「COLD WAR あの歌、2つの心」
1949年、冷戦のポーランドでピアニストのヴィクトルと歌手志望の
ズーラは音楽舞踊学校で出会い恋に落ちる。
西側の音楽を愛するヴィクトルはパリに亡命する。歌手になったズーラは
ヴィクトルと再会し同棲するが、ある日ポーランドに帰国してしまう。
ズーラを愛するあまりにポーランドに戻るヴィクトルには、過酷な運命が
待ち受けている。
時代に流された男女の美しく情熱的なラブストーリーを陰影の深いモノクロ
画面で美しく表現している。
「イーダ」で第87回アカデミー外国語
映画賞に輝いたパヴェウ・パヴリコフスキ監督が再びオスカー最有力の作品を創り上げた。オスカーは逃したものの第71回カンヌ国際映画祭で見事に
監督賞を受賞した。主人公ズーラにはヨアンナ・クリーク。
本作でヨーロッパ映画賞女優賞受賞。
ヴィクトル役はポーランドの人気俳優トマシュ・コットが演じている。
19/7/13 「さらば愛しきアウトロー」
1969年「明日に向かって撃て!」で大ブレイクし、73年再びポール・ニューマンとW主演した「スティング」でアカデミー賞にノミネートされた。
その後「華麗なるギャツビー」「大統領の陰謀」「愛と悲しみの果て」
等で70年代~80年代の2枚目の大スターの地位を確立した。
その後監督業にも進出、98年の監督第5作目「モンタナの風に抱かれて」
では初主演も兼ねた。
近年2枚目の顔にも多くのしわが目立ち主演作も少なくなっていた。
本年は「アベンジャーズ/エンドゲーム」にカメオ出演をしている。
今作はロバート・レッドフォードの俳優引退作と名をうっての公開作品。
物語は16回の脱獄と銀行強盗を繰り返した74歳の老強盗フォレスト・タッカーの晩年の物語。
共演陣もケイシー・アフレック、ダニー・クローバー、シシー・スペイセクという名優揃いでロバートの引退に花を添えている。
「ダイナー」
美しく華やかな色彩美で映画を表現する蜷川実花が初めてアクション
エンターテイメントに挑戦。
色彩美へのこだわりも忘れず、美しい映画を創り出している。
殺し屋専用の食堂で起こる激しいバトルに注目。
蜷川監督ならではの豪華メンバーが集結。
藤原竜也、玉城ティナ、窪田正孝、武田真治、斎藤工、小栗旬、土屋アンナ、真矢ミキ、奥田瑛二らが主要キャストとして参加。
19/7/14 「ペトラは静かに対峙する」
有名な彫刻家ジャウメを父かどうか調べる為画家ペトラがジャウメ邸
を訪れる。カタルーニャ地方の美しい自然を背景に複雑な人間関係が
織りなす愛憎劇。作品の進行も時系列でなく、音楽もほとんどない舞
劇のような芝居は、眠気を誘う映画である。良質な作品だけに監督の
表現が強すぎるのが残念。ペトラ役のバルバラ・レニーの好演は見
逃がせない。
19/7/20 「マーウェン」
ヘイトクライム(増悪犯罪)により、過去の記憶をなくし襲撃の後遺症に苦しむマークは、フィギアの撮影をする事により空想の世界にのめり込む。
やがて地域の人の応援もありマークの写真が評価され、避けていた暴行事件の裁判でも証言しようと再生への途に進んで行く。
2010年にこのマークの物語がドキュメンタリー映画として公開さると、多くの映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を獲得した。
「フォレスト・ガンプ 一期一会」の名匠ロバート・ゼメキス監督がこの作品をフィクションとして映画化。マーク役にスティーヴ・カレルが起用され、
ファンタジックなフィギアの世界を取り入れ、マークの再生の物語を創り上げた。
フィギアの世界の主人公ホーギー大尉もカレルが演じている。
19/7/21「ワイルドライフ」
壊れゆく家族を14歳の少年を通して描いた作品。夫婦の物語であり、少年の成長の物語でもある。
個性派俳優ポール・ダノの初監督作。
寂しさから夫を裏切る母親役にキャリー・マリガン、男のプライドから
失業を選んだ父親にジェイク・ギレンホールそして息子役はエド・オクセンボールド。
母の浮気相手には名バイプレーヤーのビル・キャンプが演じている。
家族とは何かを考えさせ、ラストは温かい余韻が残る秀作である。
「存在のない子供たち」
ベイルートの貧民街で育ったゼインは出生証明書もなく学校には行けず路上で物売りをする毎日。一番仲のいいすぐ下の妹が11歳で強制結婚させられ、怒りと悲しみで家を飛び出したが、そこで待つものはさらなる過酷な運命だった。
そして両親を裁判所に告発する。「僕を生んだ罪で」と。
ゼイン役のゼイン・アル=ラフィーアをはじめ、ほとんどの出演者は似た
境遇の素人が集められた。
中東の貧困と移民の問題をするどく追及した問題作。
監督・脚本・主演(ゼインの弁護士役)はレバノン出身のナディーン・ラバキー。
カンヌ国際映画祭ではパルムドール受賞の「万引き家族」の対抗馬の作品だった。
グルンプリは逃がしたが見事に審査員賞、エキュメニカル審査員賞の二冠を獲得した。
「天気の子」
前作「君の名は」で、国内外で注目をあびた新海誠の待望の新作。
今回は天候の調和が狂っていく現代の中で出会った中学生の淡い恋物語を
軸に自然汚染による天候不順に警鐘を鳴らす作品となっている。
新海ワールドのアニメーションは風景がリアルに再現され、実写を観ている感覚にとらわれる。
「君の名は」よりもわかりやすいテーマだけにファミリーでも楽しめる作品。
19/7/24「東京喰種 トーキョーグールS」
原作漫画が映画・アニメ・ゲーム・舞台になった人気作品の映画第2弾。
今回は松田翔太演じる美食家月山が異常なほどに主人公金木に興味を持つ。グール同志の壮絶なバトルが始まる、第1作同様に金木に窪田正孝、ヒロインのトーカに山本舞香、他にも第1作のメンバーが顔を揃えている。
19/7/27 「アルキメデスの大戦」
天才数学者が数学の力で大型戦艦建造を阻止しようと奮闘する姿を描いた
異色戦争映画。
主人公櫂直を演じる菅田将暉が会議室で難しい数式を書きながらの説明は
数学者としてのリアリティがあり、見事な役者魂を見せていた。
撮影終了の時共演者から拍手が沸いたのがうなずける。
その共演者たちは日本を代表する演技派が揃った。
舘ひろし、國村隼、橋爪功、田中泯、小日向文世、笑福亭鶴瓶そして若手
では柄本佑、浜辺美波という豪華メンバーである。
さすがに山崎貴監督作品である。
作品の出来もエンターテイメント性もあり、出来映えの高い作品に仕上がっている。
19/7/28「よこがお」
「淵に立つ」でカンヌ国際映画祭の審査員賞を受賞した深田晃司監督の最新作。深田監督が、天才的演技センスがあると評価する女優・筒井真理子のためにオリジナル脚本を書きおろした。
ある事件に親戚の子が加害者として逮捕される。
加害者家族とみなされた主人公市子は仕事、婚約者、住まいと総てを失う。この事件の時に味方と思った友の裏切りが市子を追い詰めていく。
市子役はもちろん筒井真理子、彼女を裏切る友人役に市川実日子。
二人の迫真の演技が素晴らしい。
19/7/28※魅惑のライブ~3大テノールに捧ぐ【特別上映版】
「イル・ヴォーロwithプラシド・ドミンゴ」
フィレンツェ、サンタ・クローチェ広場に2万人の大観衆が集まった。
3大テノールと言われたドミンゴ・カレーラス・パヴァロッティの後継者
”イル・ヴォーロ”はワールドツアーの凱旋公演を、プラシド・ドミンゴを
ゲスト指揮者として迎え真夏の夕べに野外コンサートを開いた。
このコンサートを記録したのが本作品である。
実演でなくとも圧巻の歌唱力と美しいハーモニーは最高に素晴らしい。
曲目はオペラだけでなく、ポール・アンカの「マイ・ウェイ」、”ウェスト・サイド物語”から「マリア」「トゥナイト」を唄って聞かせた。
3大テノールを生で聞く事は出来 なかったが、新3大テノールと呼ぶべき”イル・ヴォーロ”の次回日本公演のさいはぜひ生の歌声を聞きたいと思った。