奥 義久 の 映画鑑賞記
2019年12月
*10月から私自身の評価を☆にしました。☆5つが満点です。
(★は☆の1/2)
2019/12/01 「THE INFORMER 三秒間の死角」☆☆☆☆
英国推理作家協会賞、スウェーデン最優秀犯罪小説賞を受賞したベストセラー小説を「ジョン・ウィック」のプロデューサーが映画化。文句なしの面白いサスペンス映画に仕上がっている。物語はFBIの情報屋ピートが立ち会った麻薬取引現場でNY市警の刑事が射殺される事件が起こる。マフィアのボス“将軍”はNY市警の追求をかわす為、ピートを刑務所に送り込み刑務所内の麻薬取引を仕切る事を命じる。FBIもこの証拠をつかむ事で“将軍”を逮捕出来るとピートに協力を命じるが、捜査官ウィルコックスの上司モンゴメリーは最後にピートを切り捨てる事を命じる。ピートは自力で脱出を計ることになる。ピート役はジョエル・キナマン、FBI捜査官にロザムンド・パイク、その上司にクライヴ・オーウェンが
演じている。ラストの余韻を残した終わり方も上出来のノワール・サスペンスだ。
「ファイティング・ファミリー」☆☆☆★
イギリスの田舎町でレスリング・ジムを経営するナイトーは家族ぐるみのプロレスラー、子供たちの夢は世界一のプロレス団体WWEに参加し、試合する事。その夢をかなえたのは二人の兄でなく末娘のサラヤ。リング名ペイジの実話を元プロレスラーのドウェン・ジョンソンがプロデュースしたエンターテインメント作品。
物語はWWEのトライアウトに参加して、厳しい訓練を乗り越えて王者になるまでを描いているが、この作品は単なるスポーツドラマでなく家族愛の物語である。特にクリスマス休暇で帰って来たペイジは、ボロボロの状態で辞めたいと兄ザックに相談する。その時に兄の取った行動は本当の家族愛を感じさせる。ペイジ役フローレンス・ピューとザック役ジャック・ロウデンの好演は、次世代の若手俳優として注目したい。
2019/12/07「アイリッシュマン」☆☆☆☆★
巨匠マーティン・スコセッシ監督の集大成ともいうべき作品だが、製作費が膨れ上がりパラマウント映画が全米配給権を手放し、Netflixが出資してNet配信が主体となったため劇場公開はメジャー館での上映はされなかった。主演にロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシという豪華組み合わせで、1970年代の労働運動とマフィアの関わり、大物の組合委員長失踪事件をからませた物語。3時間以上の作品だが、長さを全く感じさせない。
「ルパン三世 THE FIRST」☆☆☆
ルパン・アニメ第1作「カリオストロの城」から40年。待望の3DCG作品として新たな物語が誕生した。監督・脚本が山崎貴ということで面白さが保証されたようなもの。家族揃って楽しめる作品。
2019/12/8「ラスト・クリスマス」☆☆☆
クリスマスの定番ソング“ラスト・クリスマス”の名曲から誕生したクリスマスの愛の物語。主人公ケイトは自己中のため友達を失い落ち込んでるところにハンサムな青年トムが現れる。ケイトの心を癒してくれる存在になりつつも彼との距離が縮まらない。ケイトにはエミリー・クラーク、トムにはヘンリー・ゴールディングが演じている。名曲を聴きながらロマンチィックで切ない物語が楽しめる。カップルにお勧めの映画。
「LORO 欲望のイタリア」☆☆☆★
イタリアの名匠パオロ・ソレンティーノがスキャンダルまみれのイタリアノも元首相ベルルスコーニをモデルに描く官能エンターテインメント作品。ベルルスコーニを演じるのはイタリアの名優
トニ・セルヴィッロ。ソレンティーノ監督の前作「グレート・ビューティー/追憶のローマ」でもタッグを組んでるだけに本作でもスキャンダルまみれのイタリア首相を怪演といえる存在感ある演技で見せつけている。
2019/12/11「種をまく人」☆☆☆
バルカン半島で開催されるテッサロニキ国際映画祭(第57回)の最優秀監督賞と主演女優賞(竹内涼乃)の2冠を獲得した作品。
物語はダウン症の妹を故意か過失かで死なせた10歳の少女知恵の嘘から家族崩壊が始まる。知恵は現場に一緒にいた叔父光雄が妹を落としたと嘘をつく。黙って罪を被る光雄、嘘に耐えられなくなった知恵は母親に真実を告げるが、黙っているように言われ知恵の心の傷はさらに大きくなる。一人の少女の嘘とそれを取り巻く大人たちの姿から人間の心の闇を追求した問題作である。ラストで知恵が父親と手を繋いで歩くシーンは明るい未来の前兆、家族再生の予感を表現していると感じる。但し、もう一人の主人公光雄の未来には言及してない。観客の創造に委ねているのだろうか?
映画はテーマが暗いため、いやされるような音楽が欲しかった。残念なことに、この作品は効果音だけで音楽がない。意図的な演出かもしれないが暗いテーマがより一層暗くなる感じがするのと、前半のカット割りが音楽がないため家庭ビデオのような感覚になる。
竹内洋介監督の才能は充分感じられる秀作だけに、もう少しきめの細かい演出をして欲しかった。次回作に期待したい。
2019/12/15「屍人荘の殺人」☆☆
国内の主要ミステリー賞4冠達成という宣伝文句に騙されてしまった。映画は本格ミステリーというより、ゾンビが出現したりしての中で起きる密室殺人で、探偵も本職でなく学生が謎解きを簡単にしてしまう。小学生探偵のコナンの延長線上のような作品で時間の余っている人か神木隆之介のファンならどうぞという感じ。他にも、若手の人気スター浜辺美波、中村倫也は競演しているが、久々に「お金返して」と言いたい映画。
2019/12/16「カツベン」☆☆☆★
「Shall we ダンス?」の名匠周防正行監督の5年ぶりの新作。映画好きのための映画へのリスペクトを込めたエンターテインメント作品。100年前のサイレントトーキー時代に活躍した活動弁士を夢見る青年を主人公にして描く、恋あり、涙あり、アクションありの映画の面白さを詰め込んだ傑作。主役の夢見る青年を演じるのは成田凌、線の細さはあるが好演している。相手役が黒島結菜。脇を固める役者たちは、永瀬正敏、高良健吾、竹中直人、井上真央、小日向文世そして竹野内豊といった主役をはれるスターたち。さすがに周防監督ならではの豪華オールキャスト作品となった。1日前に駄作の日本映画を見た事もあり、面白さ倍増(失礼)でした。
2019/12/17「ジュマンジ ネクスト・レベル」☆☆☆★
シリーズ3作目。前作で高校生だった4人の仲間も大学生になり離れ離れ。スペンサーはあの時の興奮を忘れられずに壊れたゲーム機をいじり始めると“ジュマンジ”の世界に吸い込まれてしまう。仲間達もスペンサーを助ける為に“ジュマンジ”の世界に向かう。そこはかつてのジャングルの世界でなく砂漠あり、吊り橋あり、氷山ありの一段レベルアップした世界が待ち受けている。ゲームクリアして無事に現実世界に戻る事が出来るのか?監督ジェイク・カスダン、ゲーム世界の主人公ドウェイン・ジョンソンも前作からの続投で、前作以上のゲームが楽しめる。
2019/12/21「STAR WARS スカイウォーカーの夜明け」☆☆☆☆
銀河系の帝国とレジスタンスの戦いが完結する。祖父ダース・ベイダーの後継者として暗黒の支配者となったカイロ・レンと伝説のジェダイ、ルーク・スカイウォーカーの遺志を継ぎシス帝国に挑むレイ。二人のフォースの力が最終決戦に向かう。今作ではレイの出生の秘密が明かされ、ラストシーンでの名前をつげる場面ではレイの意思が表現されている。また、迫力あるアクションシーンは完結編にふさわしく、映画史に残る出来映えといえる。
「テッド・バンディ」☆☆☆
1970年代30人以上の美女を惨殺したテッド・バンディの半生を描いた作品。テッドが逮捕されてからの法廷劇の要素が強い作品となっているので、テッド自らが弁護士役を演ずるIQ160の頭脳の持ち主が何故連続殺人を行うにいたったかの人物の掘り下げが弱い。収穫はテッド役のザック・エフロンが単なる二枚目スターから演技派に脱却した事と名優ジョン・マルコヴィッチが判事役で画面を引き締めている。
「FOR REAL-戻らない瞬間、残されるもの。–」☆☆★
横浜DeNAベイスターズの2019年シーズンのドキュメンタリー。2019年シーズンは前年Bクラスに終わった悔しさをバネに戦った男たちのドラマのドキュメンタリー。特に今年にこだわる選手をクローズアップしている。その中で来期メジャーに移る筒香の最後の言葉とチームメイトと抱き合うシーンは胸にこみ上がるものがある。ベイスターズファンだけでなくスポーツを愛する人にはお勧め。
2019/12/23「家族を想うとき」☆☆☆★
名匠ケン・ローチ監督が引退宣言を撤回して取りたかったテーマは家族の絆。マイホームを夢みる父親は個人事業主とは名ばかりの宅配ドライバー。毎日14時間の仕事が家族のためのはずが、家族を壊していく。家族の幸せとは何かを問いかける。主人公役も介護福祉士の母親役も二人の子供たちも、すべてオーデションで選んだ俳優たち。スターがいないだけリアルな家族が誕生している。
2019/12/26「読まれなかった小説」☆☆☆
「雪の轍」でカンヌ映画祭のパルムドールを受賞したトルコの鬼才ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の最新作。作家を夢見る青年シオンと競馬好きの定年間近な父親。相容れない親子が息子の書いた本を読み親子の絆が繋がる。かたぐるしい映画の背景にバッハの音楽とトルコ北西部の美しい海辺の街、トロイ遺跡等が織り込まれて、感動のラストを迎える作品。シオンが著名な作家に挑む議論と父親に対する言葉使いは感動のエピソードにふさわしくない軽薄な場面であり、本作の減点材料である。
2019/12/29「男はつらいよ50 お帰り寅さん」☆☆☆★
1969年8月に第1作が公開されてから50年。主人公車寅次郎ことフーテンの寅さんを渥美清が1995年の第48作まで26年間演じきった。一人の俳優が演じた最も長い映画シリーズとしてギネス認定をされている。(49作目は1996年8月に渥美清が他界した翌年に特別編集編が作成)その国民的映画の50周年を記念して50年をかけて作られた寅さんの家族のその後と寅さんの思い出を描く感動作が誕生した。主人公は寅さんの妹さくらの子満男。満男は若くして妻を亡くし中学3年の娘と2人暮らし。困った時に相談に乗ってくれる伯父寅次郎とも会えず、心の穴が埋めらずにいた時に高校時代の恋人泉と再会する。俳優陣はもちろん今までのレギュラー陣が演じている。50年の歳月がなつかしくなる。
「THE UPSIDE –最強のふたり–」☆☆☆★
フランス映画の大ヒット作「最強のふたり」のハリウッドのリメイク作品。フィリップ役は「トランポ ハリウッドに最も嫌われた男」でアカデミー賞にノミネートされたブライアン・クランストンがフランス版の名優フランソワ・クリュゼに勝るとも劣らない好演を見せている。フランス版ではあまり出番がなかった秘書役はニコール・キッドマンが出演して、デル役のケヴィン・ハートとともにフィリップを支える重要な役割になっている。アメリカ版もフランス版同様で元気の出る楽しめる作品に仕上がっている。
2019/12/30「再会の夏」☆☆☆★
「最強のふたり」のフランソワ・クリュゼの最新作。第1次世界大戦後フランスの片田舎の留置所の前で吠え続ける一匹の犬がいる。
留置所に収監されているモルラックは勲章を授与された英雄だが、国家を侮辱した罪で軍法会議をまつ身、軍判事のランティエ少佐が動機の解明と裁判にかけるか否かを判断するためにやって来る。少佐役がフランソワ・クリュゼ、モルラック役に「ダリダ~あまい囁き~」でダリダの恋人を演じ注目をあびたニコラ・デュヴォシュルが演じている。少佐とモルラックの会話等は舞台劇を見ているような緊迫感があり、またボースロン(ドーベルマンの原種犬)のイェーガーの存在が大きい。
「私のちいさなお葬式」☆☆☆
久しぶりのロシア映画を鑑賞した。ロシア映画のイメージはトルストイの「戦争と平和」のような大河ドラマであり、ロシアを舞台の作品はデビット・リーン監督の「ドクトル・ジバゴ」のように美しいメロディが広大な大地の美しい景観に流れる作品である。本作のような小品のコメディは日本ではめずらしい。小品だがロシアの名優3人の競演が最高の演技を見せている。余命宣告された老母エレーナは忙しい息子に迷惑をかけないため自らの葬式準備をする。必要な死亡診断書を手に入れるところや役所の交渉等はまじめにエリーナは考えて行動している。シリアスなドラマの中に笑いの要素があるシリアス・コメディ(こんな言葉はないと思う)といえる。シニア層と介護の年寄りを抱える人にはぜひ鑑賞してほしい。(1月16日までシネスイッチ銀座)
2019/12/31「パリの恋人たち」☆☆☆★
パリを舞台に大人の恋を描いた作品。3年間同居の恋人マリアンヌが友人の子を身ごもり結婚。数年後に夫が事故死して関係修復。男の未練がましさは古今東西一緒だが、アベルにも若い恋人エヴが出来たり、波乱万丈の恋の行方だが大人の女マリアンヌが一枚上手。アベルを演じたルイ・ガルが監督も兼ねている。「ミッドナイトインパリ」の鬼才ウディ・アレンを彷彿させる、期待の新人監督の誕生だ。マリアンヌ役レティシア・カスタは国際的モデルからキャリアをスタートさせ、本作のミステリアスな役で好演、エヴ役はジョニー・デップの娘として知られているリリー=ローズ・デップだが、本作でセザール賞有望若手女優賞にノミネートされる評価を得た。二人の女優の演技のも注目してほしい。
「冬時間のパリ」☆☆☆
同じ日に同じパリを舞台にした同じ大人の恋の駆け引きをテーマにした映画を観た。本作は「アクトレス 女たちの舞台」の名匠オリヴィエ・アサイヤス監督作品で、主演もジュリエット・ビノシュ、ギヨーム・カネ、ヴァンサン・マケーニュといった名優たち。「パリの恋人たち」と比べたら1枚も2枚もレベルの高い映画を期待したが、残念ながら失敗か?出版業界を舞台に二組の夫婦の物語だが、こちらはウディ・アレンを意識しすぎたのか洒落た小粋な会話で楽しませるはずが、喋る・喋る・喋るの喋り過ぎ、ウディ・アレン作品のような大人の洒落た会話と楽しめる映画を目標にしたにもかかわらず、空回りのマスターベーションになってしまった。