奥 義久 の 映画鑑賞記
2020年6月
*私自身の評価を☆にしました。☆5つが満点です。(★は☆の1/2)
2020/6/01「理由なき反抗」1955年作品
4月8日以降非常事態宣言で閉鎖されていた映画館が一部開館し
ました。マスク着用、熱を測る、席の販売は前後左右を開けるなどの
コロナ対策がされています。コロナと共生の時代になったのでしょうか?早くワクチンが誕生して元の生活に戻りたいと思います。
さて、久しぶりの映画館です。配給会社がコロナ対策で新作の公開を延期したため、リバイバル作品と閉館前の継続作品が上映されています。その中で劇場再開の初鑑賞作品としてジェームズ・ディーンの代表作「理由なき反抗」を選びました。ディーンはこの作品の公開1か月前に自動車事故で24歳の若さでなくなりました。芸歴4年、主演級の役者として半年のディーンが本作における屈折した若者の反抗の表現は名演技として、死してもアカデミー賞にノミネートされました。初主演作「エデンの東」(この作品で初主演アカデミー賞にノミネート)、エリザベス・テイラー、ロック・ハドソンと共演した「ジャイアンツ」でディーン作品は見てきましたが、本作は初めての鑑賞でした。あらためてジェームズ・ディーンの凄さがわかる名作です。ヒロインはナタリー・ウッド、「ウェストサイド物語」で魅せた輝くばかりの美しさはまだありませんが、その片鱗をみせています。本作はスケールの大きい大作とかアクションでないので、コロナが気になる方はDVDを借りて自宅でもいいので、この名作を堪能してください。
最後にディーンの次回作は「傷だらけの栄光」でした。ディーンが事故死したため代役はポール・ニューマンが演じます。この映画に次代のスター、スティーヴ・マックィーンがノンクレジットでデビューしていますし、ディーンの恋人ピア・アンジェリも主演しています。面白い因縁です。
2020/06/06「ハリエット」☆☆☆☆
アメリカでは誰もが知っている奴隷解放運動家ハリエット・タブマンの半生を描いた真実の物語。ハリエットを演じるのは、ミュージカル「カラー。パープル」でブロードウェイ・デビューした実力派女優シンシア・エリヴァ。本作では第92回アカデミー賞で主演女優賞と歌曲賞のダブル・ノミネートの快挙となった。劇中ではシンシアの演技だけでなく歌にも注目して欲しい。
「ANNA/アナ」☆☆☆☆
フランスのヒットメーカー、リュック・ベッソン監督が「ニキータ」「レオン」「LUSY/ルーシー」に続く闘うヒロインを創り上げた。アナを演じるのはロシアのスーパーモデルとして活躍していたサッシャ・ルス。ベッソンに見いだされ2017年「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」で映画デビュー。1年間を準備期間としてマーシャルアーツ等を学び本作の主役を演じられるスキルを身に着けた。圧巻なのは武器もなしに40人のボディーガードを倒すシーン。KGBの上司役にヘレン・ミレン。さすがにアカデミー賞女優だけに画面が引き締まる。他にルーク・エヴァンズ、キリアン・マーフイが共演している。映画館再開後に映画館の大画面で上映するにふさわしいノンストップアクションといえる。
2020/06/07「ポップ・スター」☆☆☆
13歳で衝撃のデビューを「レオン」で飾り、「スター・ウォーズ」でスターの地位を築き、「ブラック・スワン」でアカデミー主演女優賞を獲得したナタリー・ポートマンが、今作では若くしてスターになった歌手セレステ役で歌と踊りに新境地を開いている。マネージャー役にジュード・ロウ、姉のエリーにスティーシー・マーティンが扮している。物語は2部構成で1部はテロにあいながらスターの道に進むセレステとそれを支える姉エリーを描いている。2部は酒とドラッグに溺れながらもツアーを成功されるセレステを描いている。ポートマンの熱演以上に若き日のセレステと2部ではセレステの娘を演じたラフィー・キャシディの二役が注目です。脚本が今一つなので、同じ音楽ものとしては「アリー/スター誕生」のような感銘が得られなかった。
「ルース・エドガー」☆☆☆★
アフリカ出身のルースは文武に秀でた17歳の高校生、通学する高校からもオバマの再来と呼ばれ期待されている。同じアフリカ系の教師がレポートからルースの危険思想を感じ、ロッカーを改めると危険物が出てくる。彼は本当に優等生なのか、それとも・・・。
2019年のサンダンス映画祭で絶賛を博した映画らしく、まさにサスペンフルなヒューマンドラマとして見ごたえがある。ルースを演じるケルヴィン・ハリソン・JRの好演と養父母を演じるティム・ロス、ナオミ・ワッツ、教師役のオクタヴィア・スペンサーの脇を固める実力派スターが見せる迫真の演技は高品質のドラマを誕生させた。
2020/06/09「罪と女王」☆☆☆
デンマークで初めて女性監督がデンマーク・アカデミー賞作品賞を受賞した作品。本作は作品賞だけでなく監督賞、主演女優賞等9部門を獲得した傑作の誕生となった。物語は児童保護を専門とする弁護士アンヌの元にスウェーデンにいる前妻の息子グスタフが暴力事件により退学になり、やって来る。アンヌは二人の娘同様に家族として扱い、親しさが行き過ぎた行為に発展していく。その事が姉に知られ、家庭の崩壊を避ける為グスタフを切り捨てる決断をする。知的な女性が“女”の性に目ざめさらに大人の女として若い純真な男を破滅に向かわせる難役をトリーヌ・ディアホルムが熱演している。女の怖さを感じる作品。
2020/06/11「ひまわり」1970年作品
イタリアの恋愛映画の名作。巨匠ヴィットリオ・デ・シーカ監督、ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニ競演、そしてヘンリー・マンシーニ作曲の名曲。甘く切ないメロディが観客を映画の世界に引き込んでいく。第2次世界大戦のソ連戦線で行方不明になった夫を探すためにイタリアからソ連に向かったジョバンナ(ローレン)が、捜し求めた末に観たものは美しいロシア娘と幼い子と暮らす夫の姿だった。ソ連の広大なイメージをひまわり畑で描き、映画史に残る美しいシーンを作りあげた。ロシア娘を演じるリュドミラ・サベーリェワはこの後「戦争と平和」のヒロイン役を射止めている。
2020/06/12「コリーニ事件」☆☆☆★
現役弁護士が書いた問題作の映画化。新米弁護士ライネンは国選弁護人としてある殺人事件を担当することになる。被害者は少年時代からの恩人である事を知り辞退を考えるが、悩んだ末に事件を担当する。黙秘して口を閉ざす被告人コリーニ。殺人の動機を調べてたどり着いたのは、第2次世界大戦で起きた悲劇と戦後の司法スキャンダルだった。良質なミステリーであり、この事件が引き金となりドイツ連邦法務省は「過去再検討委員会」を立ち上げた。
映画の主人公ライネン弁護士を演じるのは、ドイツの若手俳優エリアス・ムバレク、被害者の娘でライネンのかつての恋人にはアレクサンドラ・マリア・ララ、特筆すべきは、イタリアの名優フランコ・ネロがコリーニ役で存在感を示している。
2020/06/13「15年後のラブソング」☆☆☆
イギリスの港町とアメリカの田舎町、出会う事がないはずの二人があるネットの記事からメル友、そして不思議な三角関係になっていく。表舞台から姿を消した伝説のロックシンガー、タッカー・クロウにイーサン・ホーク、長年のパートナーとの間に隙間風が吹き始めたアラフォー美女アニーにローズ・バーン、アニーの腐れ縁の恋人でタッカー・クロウに心酔するダンカンにクリス・オダウトが扮している。3人の見事なアンサンブルは大人になり切れない夢見る中年達にピッタリ。特にイーサンの弾き語りシーンの歌声には、ミュージシャンがハマリ役に感じる。さらにタッカーの子供を演じるアジー・ロバートソンのチャーミングな魅力は最高!
「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」☆☆☆★
ベストセラー「若草物語」の誕生秘話。過去と現在が交差した手法の映画は数多いいが、今回は物語の進行が見えにくくなっている。
せっかくのアカデミー賞6部門ノミネートも衣装デザイン賞一冠はこの難解さが減点?ではなかろうか?物語の中身は難解ではないのだから、もっとシンプルなシナリオにすべきと思う。主人公の次女ジョーにシアーシャ・ローナン、長女メグにエマ・ワトソン、四女のエイミーに「ミッドサマー」でブレイクしたフローレンス・ピュー、三女ベスはエリザ・スカンレン、4姉妹に係わる男優人はティモシー・シャラメ、ルイ・ガレル、クリス・クーパー、4姉妹の母親にローラ・ダーン、叔母役にメリル・ストリープという豪華キャストだけに残念な出来が悔やまれる。
2020/06/16「その手に触れるまで」☆☆☆☆★
ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌの兄弟は「ロゼッタ」と「ある子供」でパルムドールを2度獲得。本作も第72回カンヌ国際映画祭の監督賞を受賞した。映画は13歳の少年アメッドがイスラム指導者に感化され過激思想にのめりこんでゆく。少年の一途な宗教心はある事件を起こし少年院に入ることになるが、そこで出会った人々との交流は微妙に少年の心を揺るがしていく。アメッド役のイディル・ベン・アディの存在感ある演技はベルギー・アカデミー賞の有望若手男優賞を獲得、共演の先生役ミリアム・アケディウは助演女優賞を受賞する等、キャストの活躍もこの作品の価値を高めている。また、今作の見どころは純真な少年の宗教心を利用した狂信的に信ずる心の怖さを訴える。イスラム教徒は過激派ばかりではないが、婦女子を使った自爆テロへの警鐘を伝えた作品である。
ラストシーンで奏でるシューベルトの美しいピアノソナタは少年の未来を信じた音色に聞こえる。
2020/06/17「三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実」☆☆☆☆
1969年5月13日世界的な作家三島由紀夫と東大全共闘の“伝説の討論会”が開催された。天皇崇拝者の三島(右翼)と体制打倒の全共闘(左翼)の討論は一触即発の危険をはらんでいたが、会い入れない論点の中に互いに秩序ある社会を構成しようとする考え方が、三島由紀夫が「君たちの熱情は信じます」との言葉になって締めくくられる。お互いをリスペクトした有意義な討論会という印象がある。TBSが保存していたこの討論映像に当時の参加者のインタビューを織り交ぜて最高のドキュメンタリーが完成している。学生たちの熱き想い(もちろん連合赤軍のような殺人を起こす集団は論外)を現代の若者に感じて欲しい。
2020/06/18「在りし日の歌」☆☆☆☆★
1980年代から2010年代までの時を重ね、喜びも悲しみも分かち合った夫婦30年の物語。この物語の主人公ヤオジュンとリーユンは一人っ子政策の犠牲となり、リーユンが二人目の子を中絶、その後水難事故で一人っ子のシンシンを失くし故郷を去る。新たな地での生活の中で迎えた養子との対立等を経て二人で生きて行く夫婦を通し、懸命に生きる市井の人々を描いた愛の物語でもある。ヤオジュンを演じるワン・ジンチュンとリーユン役のヨウ・メイは本作でベルリン国際映画祭の最優秀男優賞と女優賞のW受賞という快挙を成し遂げた。素晴らしい作品と素晴らしい演技、さらに日本では卒業式の定番となったいる“蛍の光”が効果的に使われている。中国では、時がながれても変わらない友情と愛情を歌った歌詞になっている。ヤオジュン夫婦の愛情、シンシンの事後で疎遠となった親友の家族との友情を“蛍の光”のメロディが優しく響きわたる。
2020/06/19「エジソンズ・ゲーム」☆☆☆★
発明家トーマス・エジソンと実業家ウェスティングハウスの電流対決を軸に男のプライドをかけた熾烈な争いを描く。伝記と違いエジソンが相手を倒す為の世論の操作をするところは天才発明王の善人でなく野望に充ちた人間臭い男に描いている。エジソンにはベネディクト・カンバーバッチ、ウェスティングハウスにはマイケル・シャノンが扮し、他に科学者テスラ役でニコラス・ホルト、エジソンの助手でトム・ホランドが共演している。ラストのシカゴ万博会場で、お互いに“トム”“ジョージ”と呼ぶ場面は互いに相手をリスペクトしている事がわかる印象に残るシーンと思う。
2020/06/21「今宵、212号室で」☆☆☆
結婚20年のマリアとリシャールの関係は家族、マリアの奔放な性格は若い恋人とのアバンチュールを楽しんでいるが、妻一筋のリシャールには理解不能。浮気した妻を怒りに任せて追い出してしまう。マリアは住まいの真向かいのホテルにチェックインするが、そこには若き日の夫が現れる。ホテルの部屋でマジカルな一夜が訪れる。フランス版ウッディ・アレン作品といった洒落たラブコメディ。アレン作品に比べると評価は低いがシャンソンの名曲で救われる。主演のキアラ・マストロヤンニは言わずと知れたマルチェロ・マストロヤンニとカトリーヌ・ドヌーヴの娘。両親のDNAが開花して本作でカンヌ映画祭ある視点部門最優秀演技賞を受賞!
「ドクター・ドリトル」☆☆☆
動物と話せるドリトル先生は100年以上も愛され続けているベストセラー。本作はシリーズ12巻の第2巻「ドクター・ドリトル航海記」を基に映画化されている。病気に犯されたヴィクトリア女王を助けるため伝説の島に向かって旅立つ。子供向け作品だけに海洋アドベンチャー作品としては迫力不足。動物たちとドリトル先生のチームワーク、つまり仲間動物達との友情が作品の主軸となっている。内容はB級でも出演者はドクター・ドリトルにロバート・ダウニー・Jr、海賊王にアントニオ・バンデラス、声の出演になるが、オウムのポリーにエマ・トンプソン、ゴリラにラミ・マレック、アヒルにオクタヴィア・スペンサー、イヌにトム・ホランド、キツネにマリオン・コティヤール等々のオールスターキャスト。
2020/06/23「ペイン・アンド・グローリー」☆☆☆
スペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督の初の自伝的作品。主人公の映画監督サルバドールは背中の痛み、喉のつまり等の体調不良と愛する母の死で引きこもり引退生活同然の生活をしている。そんな時32年前に撮った作品の再上映の話が来て、人生が再び動き出していく。サルバドール役のアントニオ・バンデラスは本作でカンヌ国際映画祭の主演男優賞に輝いた。新境地を開いた好演である。スペインNo1女優のペネロペ・クルスがサルバドールの回想シーンで母親役を演じているが、本作のヒロイン役は私見だが、サルバドールのマネージャー兼助手で存在感ある演技を見せたノラ・ナバスと思う。晩年の人生も心掛け一つと訴える人生賛歌の映画だが、アルモドバルのマスタベーションと思えて☆一つ評価を落とした。
2020/06/25「赦しのちから」☆☆☆
キリスト教のメッセージを伝えるという映画作りをしているケンドリック兄弟がプロデュースする第6作目の作品。今回は日本語題名通り“赦す”をテーマにしている。クロスカントリーに打ち込む少女ハンナは孤独を紛らわすための盗癖がある。15年前にハンナを捨て病床にいる父トーマス、トーマスを憎み続けるハンナの祖母、それぞれの思いが複雑に絡む中、ハンナは州大会のレースに挑む。主人公のクロスカントリー部コーチを演じるのはケンドリック兄弟のアレックスで、監督と共同脚本も兼任している。ハンナ役は本作が映画デビューのアリン・ライト=トンプソン、初主演と思えない演技を見せている。前作「祈りのちから」の主演プリシラ・シャイラーが校長役で出演。ハンナの心を開かせるイエスの教えを伝える重要な役回りを演じている。キリスト教のメッセージを考えなくともコーチの夫婦愛、スポコンドラマの要素もあり楽しめる作品に仕上がっている。
2020/06/26「ランボー ラスト・ブラッド」☆☆☆★
1982年製作された「ランボー」から約40年、08年の第4作からも12年の時が経てランボーは“家族”といえる人々と平穏な生活をしていた。その生活は、娘同様のガブリエルがメキシコ人身売買カルテルにさらわれた時、ランボーの怒りは頂点に達し、かつての戦士としての血がカルテルとの戦闘準備をする。もちろんランボー役はシルベスター・スタローン、73歳になっても強靭な身体は変わらない。「ランボー」の原題はFirst Bloodで本作はLast Blood、題名をみてもわかるように原点回帰の作品で最終章となっている。
久しぶりの痛快アクション・エンターテインメント作品は誰もが楽しめる作品である。
2020/06/28「グッド・ボーイズ」☆☆☆★
小学校6年生の仲良し3人組が同級生から初キス・パーティーに誘われる。マックスは初恋の相手と初キスをしたいが、まだキス未経験。近所のお姉さんをのぞき見しようとパパのドローンを勝手に使ったらドローンが事故に。マックスたちはお金を工面してドローンを買いにモールを目指すが・・・。3人組の友情とドタバタ事件を描いたアメリカン・コメディの傑作。マックス役は「ワンダー君は太陽」の天才子役ジェイコブ・トレンブレイが演じている。
「ワイルド・ローズ」☆☆☆☆
本年度のいくつかの映画音楽賞を獲得した主題歌「GLASGOW」、そして世界中のインディペンデンス映画祭で作品賞、主演女優賞を獲得した注目作品。二人の幼子を抱えながらメジャー歌手の夢を追い続けるローズには刑務所暮らしの過去もある。子育てを母親任せにしてきたが、夢に一歩近づいた時ローズが出した答えは?ローズ役には英国の新鋭ジェシー・バクリー、歌も全曲を自ら歌い高評価を得ている。ローズの母親役には「リトルダンサー」でアカデミー助演女優賞にノミネートされたジュリー・ウォルターズが演じ、画面を引き締める好演を見せている。小品だが見て損のない傑作。