ソムリエの追言 51
「恐れるな!ホストテイスティング」
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「テイスティングはいかがいたしますか?」
レストランでボトルを注文すると、ソムリエが抜栓したコルクのにおいをくんくん嗅いで二、三回頷いた後に言う、お決まりのセリフです。
注文したワインに、ブショネなどの劣化がないかどうかチェックする場面ですが、このホストテイスティング、ワイン入門書などでは「儀式的な要素が強く、色・香り・味をささっとチェック(する素振を)して、にっこり頷けばOK」とか「男を上げるチャンスです、スマートにこなして出来る男をアピールしましょう!」という様な事が堂々と書かれています。
確かにここで、ワインについてのウンチクなど長々語るのはあまりお勧め出来ませんが、香りと味のチェックはしっかり行った方が良いでしょう、というより行うべきなのです!
テイスティングと言っても、ワインが劣化しているかどうかを見るだけではありません。ちゃんとした飲み頃の温度で提供されているかどうか、これをチェックする事が非常に重要なのです。冷蔵庫からそのまま冷たい赤ワインを持ってくるようなお店もありますが、冷やしすぎのワインでは味も香りもするどくとがっていて、ふくらみや余韻も小さく、劣化をチェックしようにもそのワインがどういう状態なのかよく判りません。
逆にエアコンや調理場の近くに置かれたボトルは温まっていて、生温かくぬるりとした質感や、ひどい時にはむせ返るようなアルコール臭を強く感じます。この状態でテイスティングと言われても困りますが、そもそも生ぬるいワインなんて飲んでも美味しくありませんよね。
最初にボトルを注文した時にお店の方が「ご注文いただいた、シャトー〇〇 2000年です」とボトルを持ってきてくれたら、そっとボトルに触れてみるのも一つの手です。直接手で触れればある程度の温度が分かり、適温のボトルと交換してくれるかもしれません。
在庫はすべて冷たく(温かく)なってしまっているという事であれば、冷えすぎたワインはしばらく置いておくか、デキャンタージュをすれば多少温度も早く上がります。逆に温まってしまったワインはシャンパンクーラーで5分程冷やせば、随分味が締まって美味しく飲めます。
赤ワインだからと言って、シャンパンクーラーに入れる事をためらう必要はありません、要はせっかくのワインを美味しく飲めるかどうかが一番重要なのですから。
代表的な劣化のブショネ、皆様も耳にした事があるのではないでしょうか?
レストランでのワイン劣化はほとんどがこれです。
ブショネの発生率はコルクの品質が低かった昔のワインに多く、コルクの品質向上やシリコンコルク、スクリューキャップの普及で減少傾向にあるようですが、それでも世界全体では20本に1本程度の割合で発生すると言われています。
その一方で「今までブショネに当たった事がない」と答える消費者が全体の過半数で51.4%、「50本飲んだ内の1本程度」と答える消費者が44.7%という結果もでています。多くの人がブショネに当たっても、気づかないもしくは「何かおかしい」と思ってもそのまま飲んでいるという事になります。 私の感覚だと30本に1本ぐらいの割合でしょうか、統計の数字が正しければ私も何本か見過ごしているという事ですが・・・。
確かにこのブショネの香り、経験してみないとなかなか判りづらいものです。 詳しい人から「これがブショネです」と劣化したワインを2、3回教えてもらえれば感覚として覚えやすいのですが、ワイン指南書には「コルク臭、腐ったコルクの臭い」なんてぶっきらぼうな説明がされています。
これでは「果物はフルーティーな香りがします」と言っているのとあまり変わらないですね。そもそも腐ったコルクの臭いなんて、嗅いだ事がある人の方が少ないのではないでしょうか?
劣化にも程度があるので、それがワインの個性なのか劣化なのか判別が微妙なものもあれば、明らかに劣化と判るものまで差があります。
私なりに説明すると軽度のものから、「部屋干しした生乾きの洗濯物→神保町の古本屋さん→雨に濡れて放置された段ボール→影干しした雑巾」といった具合に段階分けして捉えています。
軽度のブショネは特別な異臭がするというよりも、本来感じられるべき香りや果実味が極端に低い、こもったような感じがあります。 ソムリエとして働いていた私が言うのはおかしな事かもしれませんが、実はコルクの臭いだけでブショネと判別できるような極度の劣化ワインには、滅多に出会いません。
上の表現でいうと濡れた段ボールあたりからはコルクを嗅いで発見できますが、実際ほとんどの劣化ワインは飲んでみないと分からないというのが本音です。
つまりソムリエのコルクチェックをパスしたワインでも、劣化している可能性は十分にあり得ます。 ただし抜栓したてのワインは健全な状態であっても香りが十分にたたない(香りが閉じていると表現します)場合があるので、軽度のブショネと判断がつきにくいかもしれません。
香りが閉じているワインと、劣化によって香りが失われているワイン。
この二つを見分ける方法ですが、私はテイスティングで少量注がれたワインを飲んだ後に、少しおかしいと感じたら空になったグラスをもう一度嗅ぐようにしています。この時に木の香りに混じって少しカビくさい、湿っぽい香りが残っていれば、ブショネと考えられます。
単純に味の好みと違ったという理由ではなく、そのワインが劣化したものであれば健全なボトルと交換してもらえます、勇気をもって店員さんに確認してみましょう!
また、コルク臭も通常の香りと同様に酸素に触れる事で香りが強くなるので、デキャンタージュした後でも少しおかしいと感じたら引け目を感じる必要はありません、勇気をもって訴えましょう。
お客様から指摘を受け、担当者が自分でも確認してみて「その通りだ」と感じた時にはさっとボトルを交換してくれる、この柔軟性がレストランには欲しいですね。
確認々々で新しいボトルが出てくるのにやたらと時間がかかったり、なんだかんだと理由をつけてボトルチェンジを断るような店には「二度といくものか!」と思ってしまいます。
本来レストランなどで食事をするのに、こちらが色々と勉強して知識を蓄えなければ相手にされないというのは本末転倒です。
良いお店ほど、何も知らずに来店されたお客様が快適な時間を過ごせるようなサービスをしてくれるはずです。テイスティングのやり方が解らなければ、そのお客様に恥をかかすことなく対応してくれるでしょうし、注文の仕方が分からなければさりげなくアドバイスしてくれるでしょう。
お店の品格や値段が高いのは結構ですが、従業員の態度まで高飛車では、楽しい食事は望めないですね。よく格好つけてコルクを抜いた後、コルクの匂いを嗅いでいる店員さんの姿は何とも滑稽なものです。
【 道上 雄峰 】
幼年時代フランス・ボルドーで育つ。
当時日本のワインが余りにもコストパフォーマンスが悪く憤りを感じ、自身での輸入販売を開始。
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