2020年8月7日発行
世界の最新トレンドとビジネスチャンス
第212回
史上最悪の経済情勢下で進むアメリカの大統領選挙(前編)
浜田和幸
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政治、経済、軍事とあらゆる分野で世界最強の地位を誇ってきた超大国アメリカの土台が崩れ始めている。
新型コロナウィルスの感染者数でも死亡者数でも世界最悪の記録を更新中だ。
追い打ちをかけるように、アメリカ各地では人種差別に反対するデモや破壊行為が過激化する一方になってきた。
8月6日に発表された統計に依れば、第二四半期のGDPは通年ベースで32.9%の減少となり、アメリカ史上最悪の数字である。
COVID-19拡大の影響もあり、観光業や飲食業の落ち込みは半端ない。
全米レストラン協会に依れば、少なくとも15%のレストランは廃業に追い込まれているとのこと。
州別で見れば、観光客依存度の高いハワイ、ネバダ、ニューヨーク各州の状況は特にひどい。
航空会社や鉄道会社も人員削減に追い込まれ、クルーズ船はほぼ開店休業中だ。
また、新車販売の低迷から自動車産業の中心地ミシガン州も景気後退の嵐に見舞われている。外出も思うに任せないため、自動車を買う動きはないに等しい。
各州の知事が発令した都市封鎖(ロックダウン)の影響もあり、在宅勤務や外出制限が広がり、企業の業績も悪化に歯止めがかからない。
結果的に、全米の失業者数はうなぎ上りである。
何と失業保険を申請する人の数は19週連続で毎週100万人を超えている。過去5カ月で5400万人が新規に失業給付金を申請したことになる。
全米の勤労者数は1億5200万人と言われており、3人に1人は失業者ということだ。
GAFAに代表されるようなIT関連企業やテレワークで大躍進のズームなどは絶好調のようであるが、大半のビジネスは活気を失ってしまった。
いわば、一握りの超儲かり企業と、その他のほとんど全部は破綻寸前という格差社会になったというわけだ。
少し前までは「1%の富裕層と99%の貧困層」と言われていたアメリカが、今では「0.1%の超リッチと99.9%のプアに分断されてしまった」と言っても過言ではない。
ブルームバーグが報道した全米統計局の調査に依れば、7月半ばの時点で「3000万人のアメリカ人が日々の食事に窮している」とのこと。
確かに、食糧を無料で配布する各地のフードバンクには長い行列ができている。
トランプ大統領の別荘のあるフロリダ州でも、フードバンクには常に長蛇の列が見られる。「家計調査」で明らかになったのだが、2390万人が「日によっては十分な食事がとれない」と答え、542万人が「しばしば食事にこと欠く」と言うから驚く。
これでは「超大国」という看板など有名無実であろう。
景気悪化の引き金となった新型コロナウィルスであるが、その終息は見通せない。
特効薬やワクチンの開発も進んでいるようだが、副作用の影響も懸念され、市場に出回るのはいつになるのか。
ワクチン開発に熱心なビル・ゲイツ氏は「年内には完成する。遅くとも年明けには」との見通しを述べているが、WHOのテドロス・アダノム事務局長に言わせれば、「期待はしているが、永遠に完成しないかも知れない」と厳しい見方になるようだ。
白人警察官が黒人容疑者の首を絞めて殺害した事件がきっかけとなり、全米に広がった人種差別反対や白人至上主義を象徴するような歴史的銅像の破壊も収まる気配が見られない。BLM(黒人の命は大切だ)運動は過激化するばかりで、各地の警察署が放火されたり、白人の女性や子供までもが殺されたりする事態に陥っている。こうした危機的状況に対して、効果的な歯止めをかけられない政府への不満や不信は高まるばかりだ。
トランプ政権が実行している対策といえば、ドル紙幣の増刷一本やり。未曾有の感染症対策と称して、アメリカ政府がこの6月ひと月間に発行したドル紙幣の総額は8640億ドルだった。この金額はアメリカ建国以来200年間に発行された全ての金額を上回るもの。まさに国家破綻以外の何物でもない無責任な増刷ぶりである。世界に例を見ない超インフレばらまき政策といえるだろう。ドル紙幣の価値は額面の1%と言われる有様だ。金(ゴールド)に投資マネーが流れるのも当然であろう。
更には、感染の第二波や第三波が確実なため、改めてロックダウン宣言する都市が相次いでいる。企業の側も防衛策として人員削減に取り組まざるを得ないだろう。その典型例がメイシーズやウォルマートである。こうした優良企業も大量のレイオフを相次いで発表。景気の回復が期待できないとの判断からである。これらはあくまで氷山の一角であり、今後は多くの業界で一層の「首切りの大津波」が押し寄せるに違いない。
残念ながら、誰もが期待するような「普通の日常生活」はもはや望めそうにない。自然災害も深刻さを増す一方である。日本でも九州や東北地方などでの大雨による河川の氾濫が後を絶たないが、アメリカではハリケーンや地震の猛威が例年以上に被害をもたらしている。「踏んだり蹴ったり」と言えるかもしれないが、そうした厳しい現実にアメリカは直面しているのである。注目すべきは、このような現象は世界各地で発生しており、日本にとっても決して他人事ではないということだ。
そんな危機的状況下で行われるのが11月のアメリカ大統領選挙である。コロナ騒動が沸き上がる以前は、「トランプ大統領の再選で決まり」という風潮であった。ところが、コロナ旋風によって潮目が激変した。各種世論調査によると、ホワイトハウスの奪還を狙う民主党のバイデン元副大統領の人気が現職のトランプ大統領を圧倒しているからだ。
このまま行けば、今年77歳で、「認知症の進行が著しい」とトランプ大統領から揶揄される最高齢大統領の誕生ということもあり得る。もちろん、国民の間に反トランプというムードが広がっていることは間違いない。精神科医の姪からも「史上最悪の自己中で、うそつきの大統領」とまで辛辣な批判をされたほどである。
とはいえ、何を言われようと馬耳東風を決め込んでいるのがトランプ大統領である。新聞、テレビ、ネットでどんなに非難されようが、「フェイクニュースだ」と言っては無視。確かに、不動産王として成功し、テレビの人気番組を長年仕切ってきたこともあり、大統領選には欠かせない候補者同士の討論対決では決して負けないとの自信があるようだ。果たして思惑通りにいくのだろうか。
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