ソムリエの追言 61
「熟成する白ワイン?」
3,000円以下で、熟成して美味しくなる白ワインなんて有りえない!
ソムリエ達の間では、そう言われています。
私も、「少なくとも若いヴィンテージの同じワインと比べて、良くはならない」と思っていました。
ところが先日、たまたまMICHIGAMIワインの「シャトー・ラモット2001年」を試飲する機会に恵まれました。現在は2017年ヴィンテージを扱っており、このヴィンテージを試飲するのは今回が初めてでした。
長い年月のうちに、恐らく果実味は失われ、酸味の抜けた締まりのない味わいになってしまっているだろうと、あまり期待せずにコルクを抜いたのですが・・・
グラスに注ぐと鮮やかな濃いレモンイエロー。
色味を2017年と比べると黄色味が強く、クリーンな色合いです。
ハーブ、黄色いリンゴ、石灰のような香り・・・ 複雑なアロマとともに、まろやかにこなれた酸味としっかりとしたコクがありました。
「美味しい・・」と、一口飲んで思わず口にしていました。
予想した通り果実味は少し控えめな印象でしたが、
間違いなく熟成によって味わいが向上していたのです!!
【ヴィエイスモン(熟成)】
ワインは「熟成を経て美味しくなり、値段も上がる」と言うのが一般的な感覚かもしれません。 しかし実際のところは、ボトリングから10年以上熟成させた方が美味しく飲めるワインは、全体の1割弱に過ぎません。 世界全体の生産量から見れば、早飲みタイプのワインがほとんどなのです。
特に白ワインは、抗酸化作用のあるポリフェノール、タンニンの含有量が少なく、赤ワインよりも寿命が短い(およそ3年)とされています。 貴腐ワインやシェリーのように特殊な作り方をして、保存性を高めたもの以外は、白の熟成はなかなか難しいようです。
一方で、ブルゴーニュのムルソーやモンラッシェのように、 一部の高級白ワインには、10年以上熟成し品質を向上させるものがあります。 長期熟成する理由に、シャルドネという葡萄がもつポテンシャルと、 強い樽の風味があると言われています。
つまり、シャルドネ自体が酸化に強い品種で、なおかつ新樽から抽出されたタンニンがワインに溶け込み、ビン内での酸化熟成を穏やかに進めるのだとか・・・。
確かに、新樽を使用した若い白ワインからは、口に含むとチクチクとしたタンニンの刺激を感じる事があります。また樽香を利かせたワインはステンレスタンクのものに比べて骨太なしっかりした味のものが多く、胸を透くような木の良い香りがするだけで、「良いワインなのかも」という期待が膨らんでしまいます。
しかし樽香の強い白ワインがすべて長期の熟成に耐える訳ではありませんし、 南半球の温かい地域で育ったシャルドネが長期熟成するという話は聞いた事がありません。 ブルゴーニュはフランスでも北限のシャンパーニュに近い、冷涼な気候の地域です。
今回試飲したラモット2001年は、ボルドーの白ワインなので、品種はソーヴィニヨン・ブランとセミヨン、ソーヴィニヨン・グリという補助品種のアッサンブラージュ(調合)、生産過程で樽の風味をつけない、ストレートな果実味が特徴のワインです。
このような、辛口でアルコールも強くない12%前後、おまけに樽熟成もしていない白ワインが長期熟成する理由は、最新の科学でも解明されていないようですが、個人的にはワインに含まれる豊富な「酸」、それから大地から吸収した「ミネラルの凝縮度」に関係あるのではないか?と思っています。
温暖な地域と寒冷な地域での大きな味わいの違いは「酸」の強弱にでます。 暖かいと糖度が増して酸味が穏やかに、寒いと逆に酸味が際立ちます。 ビニールハウスで育てたミカンの酸味が穏やかなのと同じです。 酸味がしっかりしていて、なおかつ優れた土壌から多くのミネラル成分を吸収できたワインが、熟成という偉大なプロセスに耐えられるのかもしれません。
【 道上 雄峰 】
幼年時代フランス・ボルドーで育つ。
当時日本のワインが余りにもコストパフォーマンスが悪く憤りを感じ、自身での輸入販売を開始。
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