BIS論壇No.326『遅すぎる自民党経済スパイ防止策』中川十郎20年8月28日
・自民党は企業や大学での従業員や研究者らによるスパイ活動を抑えるための調査、分析にあたる専門組織の創設などインテリジェンス機能の強化策を年内に提言するという。(日経8月27日)。最近話題になっているアングロサクソン5か国の秘密組織、Echelon(梯子の隠語)スパイ組織-ファイブアイ(5つの眼)とも呼ばれるーへの日本の参加に際し、秘密漏えいを取り締まるため、日本の脆弱なインテリジェンス防諜強化の為とも思われる。
・日本政府のかかる動きは欧米に比べ、30年以上遅れている。日本ビジネスインテリジェンス協会(BIS)は1990年代から30年も経済情報機密防止策の重要性を、『CIA流戦略情報読本』(中川十郎、米田健二共訳、ダイヤモンド社1990年9月刊)、『知識情報戦略』(石川 昭、中川十郎編著、税務経理協会、平成21年2月刊)などで機会あるごとに警告してきたが、日本政府、企業ともほとんど無視してきた。
・日本政府、企業の情報に対する感度の悪さは驚くべき状態にある。かって1977年にカーター政権のCIA(中央情報局)長官に任命されたターナー海軍提督は「国防情報よりも経済情報が米国の安全保障にとってより重要になる」と予言。91年には外国の経済諜報活動に対する防諜の必要性を力説し、経済情報戦に対する先見の明を示した。以来毎朝の米国大統領へのCIA報告では政治、軍事情報と並び世界の経済情報報告も含まれることになった。
・日本のNSAの総理報告には経済情報は含まれているのか。フランス諜報界を代表する軍事諜報学校長ダクロス大将も『経済情報は冷戦後の武器になった』と喝破している。
・かかる背景から米国では1986年に「競争情報専門家協会―Competitive Intelligence Professionals」をワシントン近郊に、「競争情報アカデミー」をボストンに設置。フランスでは95年に経済競争情報安全委員会、2005年にEU諸国と協力し、ベルサイユに「ヨーロッパ経済情報大学院」を設置。スエ―デンでは「経済情報戦争学校」を設置。ルンド大学には「経済情報、防諜研究科」を1972年にビジネスインテリジェンス創設者のStevan .Dejier
・博士が世界の大学で初めて設置した。日本では米国に遅れること6年後の1992年に日本ビジネスインテリジェンス協会(BIS)を設置。以来29年間、2か月に1回の経済情報研究会を169回開催。事あるごとに経済情報とその機密保持の重要性を訴えてきたが、日本政府、行政、企業とも馬耳東風である。
・米国ではクリントン大統領時代の1996年2月、「経済スパイ防止法」を制定。経済スパイの個人には50万ドル。企業には1000万ドルの厳しい罰金を科すことにした。
・経済、技術情報への関心が薄い日本政府は25年遅れで、今頃になって「企業・大学内のスパイ抑止」、「中国想定、自民が対策提言へ、調査・分析の機能強化」(日経8月27日)、「先端情報共有に資格」、「研究者ら秘密保持保障」、「政府・自民中国警戒、制度を議論」などとうそぶいている。(日経8月28日)世界の動きから、一周も二周も遅れての遅い動きだ。日本に於ける経済情報、機密保持に対する感度の鈍さを象徴している出来事だ。
・これでは第二次世界大戦中の1940年代から80年もスパイ活動を展開しているアングロサクソンの諜報、スパイ組織、Echelon, ファイブアイへの日本の参加は至難ではないか。