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        ソムリエの追言 65

        「こんな味だったっけ?ボトルの個体差について その1 」 
        
        「うん、何かこの間、飲んだ味と違う・・」
        こんな経験ありませんか? 美味しかったワインを、もう一度と思い、飲んでみると、こんな味だったけ?と、感じること。
        
        先日、我々は、シャトー・ラ・ジョンカード 赤ラベルの1985年 同一ヴィンテージのワインを2本用意し、試飲しました。 なかなか、2本同じワインを飲み比べることって、少ないと思うんです。
        その結果は。 色合いは同じ。でも 香りは、ナッツの香りなど成分は似ているけど、強さが違う。 そして味わいも、果実味のボリューム感、余韻(よいん)の長さが違っていました。 
        これって、どういうことなんでしょう。
        これが、いわゆるボトルバリエーションなる、ボトルの個体差です。 
        

        今では、ワインつくりには樽(たる)が欠かせなくなりました。 樽も、自然の産物です。  樽職人(たるしょくにん)によって、作られていたとしても 木目の密度(みつど)、焼き目の焦(こ)がし具合など、まったく同じものを作れるわけがありません。 
        つまり、樽が違えば、できあがるワインも異なるということです。
        

        もちろん、この違いを、そのままにしておくわけはありません。 大きなタンクに移し変え、均一にしています。 とはいえ、タンクの大きさにも限界があります。
        年間の生産量すべてを均一にする大きさのタンクなんてそうそうありません。
        ですから、何度かに分けておこなう。
         
        

        あの数が少ない(年間6~7,000本しか生産しない)ゆえ、高額なロマネ・コンティでさえ、 樽とタンクの関係で3種類の味わいがあるといわれているらしいのです。
        
        一方、ボルドーのトップシャトーは約12万本!一度にタンクには入れられないでしょう。 
        となると・・・。 さらには、1970年くらいまでは、先のタンクによるブレンドは行なわれてないばかりか、 ビン詰めも一度にではなく、2度、3度に分けて行なわれたとのことなんです。 
        つまりは、樽で過ごす時間が長いものと、そうでないものがあるわけです。 
        
        ワインとしてビンに詰められた段階から、いくつかの微妙な味わいの差が生まれているということです。
        

        以前にもお話したように、コルクにも品質の差があります。 そして、コルクにも寿命(じゅみょう)があります。 品質の良いコルクで、長くて30年くらいでしょうか。
        それ以上のコルクは、非常にもろくなっています。
        1946年のワインのコルクは、中心が貫通して、開けるときに完全に砕けました。
        

        あと、コルクの質や状態が悪いと、スクリューを挿(さ)すと、コルクが下がっていったりします。 コルク本来の役割になってない状態です。 
        
        こうしたコルクの劣化とは、弾力性がなくなり、ただの栓と化し、ほんのわずかな隙間(すきま)ができ、 酸素の急激な進入や、ワインの液漏れの原因にもなります。 実は、生産者のもとにあるビン詰めされた古いワインは、 コルクの寿命を見越して、リコルクといって、コルクを打ち替えます。 
        
        長い年月によって、コルクで栓がされていても、ワインはゆっくりと蒸発していきます。 
        ほんの少し、量が減っているわけです。
         
        

        そこで、減った分を補うため、若いビンテージのワインを補充します。 若いワインを補充することによって、酸化に対する元気を注入してるわけです。 そして、新しいコルクで栓をする。 そうなんです。 ですから、蔵元(くらもと)にある古いワインと、そうでないワインの味わいは違います。
        

        「この間と・・・違う」というのは、もしかしたら、料理、季節や気温、パートナー、その場の雰囲気、体調、 そういったもので違う感じなのかも知れません。 人間の味覚なんて、絶対のものではないことは、皆様ご存知のこと。 (たとえば、標高の違いで高度が高くなると、味覚が鈍くなります)
        
        しかし、実際に、ご紹介したように同じワインでも、造る段階から違うということもあるのです。 まさにワインが、工業製品ではなく、農産物であることを表していると思います。 
        ヴィンテージがあることも、その表れですが、同じ年のワインでも、微妙に違う。 
        まるで、形や味もそれぞれ違う果物や野菜と同じように。 
        そして、この微妙な差は、更に年月が経てば経つほど、大きくなってくるのです。 
        
        そう考えると、 その時に出会った美味しいワインは、最高のワインであり、唯一無二(ゆいつむに)の存在なのかもしれません。 そこが、ワインの難しさでもあり、魅力でもあると思うのですが、いかがですか?
        
        
        
        

        【 道上 雄峰 】
        幼年時代フランス・ボルドーで育つ。 
        当時日本のワインが余りにもコストパフォーマンスが悪く憤りを感じ、自身での輸入販売を開始。
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