重苦しい沈黙に包まれる八百春に屈長海がやって来る。今日成田に到着することになっている中国からの就学生を迎えに行くことになっているからだ。
悪いけど、今日はそれどころじゃないの。
咲が屈にそう告げるのだが、五十嵐は大丈夫だと言う。何が大丈夫なのかと怒るフミ。しかしこうなってしまってはもうどうにも止まらないのが五十嵐である。自分や家族のことそっちのけで成田へと屈を連れて迎えに行ってしまうのだった。
とはいえ、五十嵐は八百春の軽トラックを成田に向けて走らせながら、悩むのだった。家庭を崩壊させる訳にはいかない。かといって、中国人留学生への支援をここでやめるなどということも考えられない。
思わず大きなため息を漏らしてしまう。そして屈はそのため息の理由を何となく察していた。
自分たち中国人の為に五十嵐さんは何でもしてくれている。野菜だっていっぱいおまけをしてくれている。それも自分一人にではない。誰隔てなく、多くの中国人留学生を助けてくれているのだ。大丈夫な訳がない。
屈は薄々気付いていたのである。八百春が、五十嵐さんが自分たちを支援しているおかげで、どんな窮状に立たされているのかを。
成田空港で無事劉と会うことが出来た時には、劉は不安と会えたことの安堵から涙をボロボロと流す。
そんな劉を見て、不安だっただろう、悪かったと、五十嵐も涙を流すのである。屈はそんな五十嵐を見て、申し訳ない気持ちでいたたまれないような、何とも言えないような、感謝の気持ちで胸がいっぱいになるのだった。
こんな時にでも五十嵐は屈たちに笑顔を見せてくれる。そんな笑顔を見ると皆勇気づけられるのだった。
なんとかなるさ。きっと、なんとかなる。
いつだって五十嵐はそう言った。
そして今はきっと自分自身に言い聞かせているに違いなかった。
なんとかなるさ。きっと、なんとかなる。