奥 義久の映画鑑賞記
2020年11月
*私自身の評価を☆にしました。☆5つが満点です。(★は☆の1/2)
2020/11/01「パピチャ 未来へのランウェイ」☆☆☆★
イスラム原理主義の台頭で暗黒の10年と言われたアルジェリアの1990年代を女子大生の視点から描いた問題作。女子大生のネジュマはファションデザイナーを夢見ている。自分の作った服をナイトクラブのトイレで同世代の女性達に販売している。イスラム原理主義者は女性にビジャブの着用を強制する。そんな時代に命がけでファッションショーを仲間達と計画する。この映画は性差別の抑制の開放をテーマにしていると言われ、アルジェリア本国では上映中止となった。まだ本国では上映されていないが、特別処置でアカデミー賞国際長編映画賞の代表が認められ、フランスではセザール賞の新人監督賞と主演のリナ・クードリが有望若手女優賞を獲得した。この問題作は見る価値のある作品である。
2020/11/08「ストックホルム・ケース」☆☆☆
監禁事件等で犯人とない時間を共有すると犯人たちに好意的な感情や連帯感が起きる事を“ストックホルム症候群“という。本作は
ストックホルム症候群の語源となったストックホルムでの銀行強盗事件を映像化している。強盗犯ラース役にイーサン・ホーク、ラースの犯罪仲間にマーク・ストロング、ラースに好意を持つようになる銀行員にノオミ・ラパスが演じている。監督は「ブルーに生まれついて」でイーサンとタッグを組んだロバート・バドロー。前作でチェット・ベイカーを熱演したイーサンの新たな魅力を引き出させている。作品全体の出来はB級作品だが、作品に挿入されているボブ・ディランの名曲が作品価値を高めている。
2020/11/14「さくら」☆☆☆
直木賞作家・西加奈子の小説の映画化。一匹の犬(さくら)と仲良し3兄弟が長男の事故が基で家族崩壊をし、再生する姿を描いた感動作。3人兄弟には吉沢亮・北村匠海・小松菜奈の若手実力派が共演。父母には永瀬正敏、寺島しのぶという演技派が揃い、厚みのある作品に仕上がっている。
「アイ・キャン・オンリー・イマジン 明日へつなぐ歌」☆☆☆★
クリスチャン・ロック・バンドMercyMeの大ヒット曲の誕生秘話を描いた作品。曲の作詞・作曲そしてボーカルを務める男バート・ミラードの幼少時代から曲が世に出るきっかけとなった事を描いている。母との別れ、父との確執を乗り越えて掴んだバートの成功に一番影響をもたらせた父親役デニス・クエイドが画面を引き締める好演をしている。
2020/11/15「ホテルローヤル」☆☆★
桜木紫乃の直木賞受賞作の映画化。美大受験の失敗した主人公雅代は家業のラブホテルを手伝うことになる。ホテルの客たちのドラマがオムニバス的に展開されるのかと思ったのだが、ヌード写真カメラマンとモデル。子育てと介護でSEXの時間を求めて来る夫婦。親に見放された高校生と妻の裏切りに絶望する高校教師の雨宿りの結末。3つの物語は部屋の中で展開されるだけで、もう少しそれぞれの人生を物語として深く掘り下げる内容でなかったのは残念。雅代と両親の話の表現も今一つの出来、せっかくの直木賞受賞作の映画化が残念な結果になっている。雅代役の波瑠ファンなら満足するかもしれません。
2020/11/19「ドクター・デスの遺産」☆☆☆★
130人を安楽死させた実在の医師をモデルとした中山七里の小説の映画化。闇サイトで安楽死を望む患者の依頼を受け、安楽死させるドクター・デス。子どもの証言から真相を追求する警視庁の犬養警部補とバディの高千穂刑事。遺族たちは犯人に感謝し、嘘の証言をする。警視庁NO1刑事の威信をかけた執念はドクター・デスの共犯の看護師に行きつく。「お前たちは薄汚い連続殺人犯」と犬養警部補になじられた看護師雛森は入院中の犬養の娘に近ずく・・・。
主人公の犬養に綾野剛、バディ高千穂に北川景子、不気味な雛森役を熱演するのは木村佳乃。楽しめるクライムサスペンス。
2020/11/22「THE CROSSING~香港と大陸をまたぐ少女~」☆☆☆★
香港と深センを越境入学で通学する女子高生ペイは日本旅行のためのお金をアルバイトでためていた。ある日運び屋を助けた事からお金が欲しいペイは自らもスマートフォンの運び屋を引き受けるようになる。関税の優遇処置がある香港から大陸への密輸を描いた問題作である。主人公を演じるのは新人ホアン・ヤオ。
2020/11/23「ボルメーノ・パーク」☆☆☆
監督デビュー作「コン・エアー」で大ヒットを飛ばし、「トゥームレイダー」「エクスペンダブルズ2」等で一躍ハリウッドのアクション映画の名匠となったサイモン・ウェストが中国映画のアクション大作のメガホンをとる。物語は世界初の火山テーマパークを舞台にマグマが目覚め大パニックとなる。流れ出す火砕流等から逃げるスリル満点のパニック映画で楽しめる作品だが、内容を恐竜に置き換えると「ジュラシックパーク」の二番煎じといえる。(評価点の☆を下げた理由)
「滑走路」☆☆☆
歌人・萩原慎一郎の遺作「歌集 滑走路」をモチーフにしてオリジナルストーリーとして創り上げた作品。厚労省で働く若手官僚鷹野が非正規雇用者の死の真相を探り始める。絵本作家の翠は美術教師の夫の距離に悩み始める。中学2年生の隼介はいじめられている幼馴染の同級生を救ったことから、いじめの対象となってしまう。この三っの人生が一つに繫がっていく。それぞれの主人公に水川あさみ、浅香航大、寄川歌太が演じている。日本映画のスターがいないだけに内容に客観的に向き合える。秀作だが何となく重たい作品でラストも明解でない。
2020/11/28「アーニャは、きっと来る」☆☆☆☆
ナチス占領下のピレネー山脈の麓の村の羊飼いの少年ジョーはナチスの迫害から逃れてきたベンジャミンと知り合い、ユダヤ人の子どもたちを山の向こう側(スペイン)に逃がすことに力を貸すことになる。従来のナチス映画は、迫害と人種差別を前面に出した作品が多いいが本作は美しい高原を背景に命の尊さをテーマにした感動作といえる。ドイツ軍下士官ホフマンとの交流も人間味がある。ジョー役はNetflixのTVドラマでブレークしたノア・シュナップ、ホフマン役のトーマス・クレッチマン、祖父役ジャン・レノ、アーニャの祖母役アンジェリカ・ヒューストンらの独仏米の名優が脇を固め、画面を引き締めている。