2021年2月22日
「国際Zoomシンポジウム」講演
元駐スイス大使 村田光平
1.基本認識
小松社長の高い志を理解し、共有するものとして皆様に直接私の所感をお伝えする機会を得て心から喜んでおります。
今日、人類が直面する危機は「文明の危機」であります。金融危機でも経済危機でもありません。その真因は倫理の欠如です。未来の世代が用いるべき天然資源を乱用し枯渇させること、そして恒久的に有毒な放射性廃棄物及び膨大な債務を後世に残すことは倫理の根本に反します。地球倫理の確立は、世界平和の維持に緊急課題となった父性文明から母性文明への転換の前提条件になります。この新しい文明は、倫理と連帯に立脚し、環境と未来の世代の利益を尊重する文明と定義できます。
現在の文明は力と支配に立脚する父性文明で、歴史は破局を招く危険性を立証しております。
その達成のためには3つの転換が必要です。自己中心から連帯へ、貪欲から少欲知足へ、そして物質主義から精神主義への転換です。このような文明であれば、必要なエネルギーは自然・再生可能エネルギーで十分得られることは疑いがありません。
ここに掲示されている父性・母性文化の対象表をご覧いただければ、平和には母性文化が不可欠であることが理解されます。
また、母性文化に立脚する母性文明の台頭は現在大きな問題となっている男女平等の促進にも大きく貢献することでしょう。
2.国際面の課題
核兵器禁止条約発効により「核なき世界へスタート!」の新局面の到来を迎え、新たな視点の導入が求められます。放射能の危険性を無視することへの対策の必要性です。
世界の主流は未だに440余基の原発の存続を容認しております。天災の激甚化、老朽化、人的ミス、核テロ等々を勘案すれば原発の過酷事故の再発の可能性への真剣な対応が求められます。福島についてもFIの1〜3号機の冷却プールに1500余の燃料棒が残されており、世界が動いた4号機危機と全く同様の真剣な対応が求められております。
東京五輪に隠された最大の罪深さは「放射能安全神話」に同調した放射能の危険性無視です。これを改めさせることが核なき世界への現実的第一歩とすることが望まれます。原爆の恐ろしさはその破壊力に加えて、もたらされる放射能災害だからです。このような認識は全世界の核廃絶への関心を身近なものとすると思われます。核廃絶が一般市民になじめない軍事問題ではなく身近なものとしてとらえられる効果が期待されます。
東京五輪は福島事故への全力投球を妨げ、さらにはコロナ禍への全力投球をも妨げ、さらにはPCR検査の実施を徹底的に低く抑えさせるという信じ難い悪影響を及ぼしております。未だに中止の決定に至っていない原因と責任の追及は避けられないと思われます。
3.国内面の課題
この立場からすれば、ようやく日本が達成しつつある脱原発の国際化が強く望まれます。このことに関して、福島原発事故により日本の国民と国土が甚大な被害を被ったことは、原発の存在は世界の安全保障問題であることが立証されております。
国際的に理解が深まりつつある国連倫理サミットは地球倫理の確立、父性文明から母性文明への転換、そして民事、軍事を問わない核廃絶への入り口として、その開催実現が益々望まれます。同サミットは上述の脱原発の国際化についての格好の合意達成の場となりえましょう。日本外交の重大課題と言えましょう。
日本は悲しいかな核エネルギーの軍事利用、民事利用双方の犠牲となりました。日本こそ「核エネルギーは不道徳である」と断言できるのです。日本は今や民事、軍事を問わない完全な核廃絶を世界に訴える歴史的使命を有するのです。これが福島の教訓です。不道徳の永続を許さない歴史の法則は今後の展望に希望を与えてくれます。
核技術は不可分であり、軍事、民事に分けることは出来ないことは
明確に認識されております。このような見地から核拡散の防止と原発の促進という両立できない使命を与えられたI.A.E.A.の改革は急務です。I.A.E.A.は福島の100万トン以上放射能汚染水の海洋放出にかねてより了解を与えているのです。
4.結語
不道徳の永続を許さない、これが歴史の法則です。「天の摂理」を哲学としての「天地の摂理」に換言すれば、これは歴史の法則と合致します。
老子の言葉「天網恢恢疎にして漏らさず」も歴史の法則に合致します。「倫理や道徳」に反する行為には必ず露見して天罰が下ることはここ数年日本が世界に実例を数多く示しております。
世界の主流が 福島事故後も440余基の原発の存在を容認していることを含め、その背後の「原子力独裁」については、「世直しコロナ」が「歴史の法則」に沿って市民社会の期待に応えてくれることが期待されます。