BIS論壇 No.363 『米中対立と日本の安全保障』中川十郎 2021年12月17日
11月11日の日本ビジネスインテリジェンス協会(BIS)30周年記念第175回情報研究会でご講演いただいたBIS顧問の孫崎 享・元外務省国際情報局長は日本におけるインテリジェンスの第一人者である。
さる12月15日鳩山会館で開催の世界友愛フォーラム主催の勉強会で講演されたので参加した。演題は「岸田政権の外交課題―米中対立と日本の安全保障を考えるー」。
同大使によると米国諜報機関CIAのWorld Fact Book では購買力平価ベースで1位中国、23兆ドル、(以下兆ドル)、2位米国19.8、3位インド8.4,4位日本 5.2、5位ドイツ4.2。
医療、運輸、建設など、さまざまな分野の技術革新を生む5Gの特許保有は1位中国・ファーウエイ(華為)3325、2位韓国・サムスン、3位韓国・LG、4位フィンランド・ノキア、5位中国・ZTE, 6位スエーデン・エリクソン、7位米国・クアルコム、8位米国・Intel、9位日本・シャープ808、10位日本・NTTドコモ754と日本は下位に落ち込んでいる。
このように日本の世界に於ける研究開発力の低下は危険水域に達しているとのことだ。トップ10の“優れた論文”の国別シェア―は1997~99年に世界シェアー6.1%で第4位だった日本のランクは20年後の2017~19年に10位、世界シェアーは2.3%に沈下。中国は同年、シェアー24.8%で首位に立ち。米国が22.9%で2位、あと英国、ドイツ、イタリア、オーストラリア、カナダ、フランス、さらにインドにも追い抜かれている情けない状況だ。
岸田内閣は経済安全保障担当大臣を置き、特に中国との技術移転に警視庁なども巻き込み、中国との知識、技術移転を監視する作戦を展開中だ。そうなると先端技術で首位の中国に対し、日本が逆に被害を受ける。台湾や尖閣周辺で戦争になれば中国が圧倒的に有利だというのが防衛大学校教授も歴任され、軍事問題にも詳しい孫崎大使のご見解だ。
その意味で、敵基地攻撃力を強化するとの岸田政権の方針は時代錯誤で、専守防衛の日本国憲法違反だと孫崎大使はみておられる。かって筆者がニュヨーク駐在時、「昭和10年生まれNYイノシシ会」メンバーで、キャノンNY社長の御手洗富士夫氏(元経団連会長)、朝日新聞の故筑紫哲也氏などと筆者が折に触れて面談していた米ハドソン研究所主席研究員で元NHK・NY支局長の日高義樹氏の講演が12月16日ホテル・ルポール麹町であり参加した。同氏は日本自民党がいまだに米国に依存していることに警鐘をならし、米国とは距離を置き、日本独自の外交政策を遂行すべきであると強調された。米国に長年滞在し、世界をグローバルな視点から考究しておられる同氏の意見は塾考すべきである。
16日夜の日本テレビ番組で未来研究家の米ユーラシアグループのイアン・ブレマー代表が米中経済戦争を仕掛けている米国は太平洋のかなたにある。それと比べ、日本は中国とは歴史的にも、経済的にも密接な関係にあり、日本の国益を考慮し、一衣帯水の中国とは独自の対中国政策をとるべきではないかとの発言に、さすが未来研究家のブレマー氏だけあると感銘を受けた。かって筆者のコロンビア大学時代の恩師、ノーベル経済学賞学者の故ロバートマンデル教授も日本は中国との関係を大切にすべきだと強調していたことを思い出す。