BIS論壇No.368『経済安全保障問題』
中川十郎(日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・名古屋市立大学特任教授)
1月17日に召集された国会で経済安全保障推進法案が審議される。この法案は今国会の主要な議題の一つとみなされ、審議の推移が注目されている。
かってアングロサクソン5カ国のスバイ組織「ファイブ・アイズ」(別名ECHELON-梯子を意味する暗号)に日本も加入検討のうわさもあったが、日本のインテリジェンス・セキユリテイの脆弱さから実現されなかったようだ。
しかるに米中の熾烈な貿易戦争の余波もあり、岸田内閣の目玉案件として、経済安全保障担当大臣を任命し、国家安全保障戦略の中で特に先端技術の保護を重視している。
その背景には技術保護に防げぬ抜け穴があり、技術保護の体制を強化する方針だ。まず外為法の運用を22年5月に厳格化する。すなはち;
- 日本の大学に長期留学する外国人に機微技術を提供する場合、通産相の許可制にする。
- 特許の公開を制限する。軍事転用可能な技術の特許は一定期間たっても公開しない。
- 防衛装備品の調達先審査。契約後に情報漏洩のリスクが発覚すれば、計画変更をする。
- 情報機関の体制整備―公安調査庁など経済安保人員を増員。
- セキユリテイ・クリアランスー重要情報に触れる民間人を限定する。
上記について22年度の通常国会に法案提出を目指し、22年度以降の予算で順次具体化していく。これらの背景には中国人民解放軍が関与したとされる宇宙航空研究開発機構((JAXA)などへのサイバー攻撃をめぐり、警視庁公安部が2021年12月28日、中国籍の元留学生、王建彬容疑者(36歳)の逮捕状を取った経緯もある。
公安部は軍関係者の指示で日本製セキユリテイ・ソフトを不正に購入。企業の情報を盗み取ろうとしたとみて日本企業に対策を呼び掛けている。(日経21年12月29日)
したがって日本企業としては外国企業との提携や資本交渉に際しては、提携前に徹底的な調査をすることが必須である。国内大手自動車部品メーカーのデンソーは北米拠点のサイバー犯罪集団Rookが1.1テラバイトのデーターを盗んだと声明を出した。
これらの技術防止へ警察当局が経済安全保障の観点から日本企業を訪問し、技術流失防止のための行動を開始しているという。(朝日新聞21年12月29日)
しかし反面、ドイツのVWは中国のファーウエイと自動運転の技術開発で提携を検討中という。(日経22年1月12日)。一方、昨年の中国の対米貿易で輸出入が30%増加。過去最大となった由。(日経22年1月15日)。日本も日本の国益を第一に米国やドイツを見習い、うまく立ち回る必要があるのではないか。 以上