BIS論壇 No.372『経済安全保障問題』中川十郎 2022年2月12日
岸田政権は経済安全推進法案を今国会に提出し、成立させたい方針のようだ。これは米国の意を受け、中国への対抗を意図しているように見える。
かって、戦後間もない1950⃣年に成立したCOCOM(対共産圏輸出統制委員会)に次いで1952年の朝鮮戦争を機に米国が主導したCHINCOM(対中国輸出統制委員会)はCOCOMの2倍の禁輸品目を定めていた。しかし57年には廃止された。一方COCOMは1990年初めに旧ソ連が解体したあとも残り、廃止されたのは1994年3月だった。
政府は米国の意向も斟酌し、経済安保法案の罰則も精査中とのことだ。経済界からは「諸外国から無用な批判を招くことのないように国際ルールとの整合性を確保すべきだ。公正な貿易を維持するための世界貿易機関(WTO)の補助金ルールなども念頭に置くべきだ。」との訴えもある。(経団連・片野坂真哉副会長、ANAグループ会長―日経2月10日)
本法案は ①サプライチェーンの強化。 ②基幹インフラの安全性確保。③先端技術の官民協力。④重要特許の非公開の4本が主体である。実効性を高めるために、4項目すべてで企業に罰則を導入すべく、経産省部局で検討中だ。特に中国を意識して機微技術の漏洩防止や、半導体など重要物資の調達強化を進めるという。供給網の強化に関しては半導体や希土類(レアアース)などの重要鉱物、医薬品を「重要物資」に指定。企業に調達先や保管状況を開示させる内容を盛り込むが、自由貿易の観点から慎重に考慮する必要がある。この場合、調査に対応しないと「30万円以下の罰金」を科す方針とのことだ。
基幹インフラの安全性確保は電気や金融、鉄道など14業種を対象に、重要設備の納入前にサイバー攻撃のリスクを審査。拒否した場合は「2年以下の懲役か100万円以下の罰金」を科す。一方、機密情報を漏らした場合「1年以下の懲役か50万円以下の罰金」を科す。
安保の観点から非公開に指定した特許内容を漏洩した際は「2年以下の懲役か100万円の罰金」に処すという。(日経2月10日)。これを25年前の1996年10月に制定された米国のEconomic Espionage Act(経済スパイ法)と比較すると下記通り、日米の刑罰に雲泥の差がある。日本政府の比較的軽い罰金でどれほどの効果があるのか疑問視せざるを得ない。
米国のスパイ法では。①外国のために経済スパイの罪を犯した者には罰金50万ドル(5700万円=1ドル150円で換算)、懲役15年。企業、組織には1000万ドル(15億円)の厳罰を科すという。(『知識情報戦略』石川昭、中川十郎 編著、税務経理協会 23ページ)
米トランプ政権は18年に安全保障の名の下に輸出管理を強化。米国産製品を含む製品ならたとえ非米国製品でも特に中国への輸出・再輸出に商務省の許可が必要になった。しかし
米国の実態は米商務省の統計によると、米国の21年の対中輸出は21%増加し、1510億ドル。対中輸入は16%増の5060億ドル。6570億ドルの貿易量だ。一方、日本の対中輸出額は1640億ドル。輸入1850億ドル。3500⃣億ドルの貿易額で、米国の約2分の一だ。21年11月の上海国際輸入博覧会には200社の米国大手企業が参加。日本も国益を重視すべきだ。