8.「情報化時代のリスクマネジメントとビジネスインテリジェンス戦略」中川十郎
1989年の冷戦終結を機に世界の諜報機関の活動がそれまでの軍事情報の収集から経済情報の収集に比重が移り始めた。いわゆる「諜報の民営化」(Privatization of Intelligence=Sweden Lund大学Dr.Stevan Dedijer)が起こったのである。米国では冷戦終結に先立つ1986年にCIAなどの諜報機関を中心にIntelligence Community(諜報共同体―年間総予算280億ドル=約3兆3600億円)の諜報専門家と軍産学の情報専門家が集まり、SCIP(Society of Competitive Intelligence Professionals=競争情報専門家協会)をワシントン郊外のバージニアに結成し,諜報技術のビジネスへの応用の研究を開始した。この協会は今日、米国を中心に世界中に約3000人以上の会員を有し、世界最大の競争情報研究機関に成長している。クリントン、ゴア政権のNII(National Information Infrastructure=国家情報基盤)、GII(Global Information Infrastructure=グローバル情報基盤)戦略やIT産業政策、「核の傘」戦略から「情報の傘」戦略への転換に呼応し、経済競争情報の研究は90年代を通じ目覚しい発展を遂げた。今日、米国の代表的企業Fortune 500社のほとんどの企業の情報調査,戦略企画部門の専門家を網羅し、企業戦略に軍の諜報技術、競争相手国の情報収集技術を活用し、ITとインターネットを駆使し経済情報戦争時代の競争優位を保持しようと暗躍している。「情報を制する者がビジネスを制する」時代が到来しているのである。クリントン政権は1996年「経済スパイ防止法」を制定、企業情報を不当に盗んだ外国企業には1000万ドル(10億円以上)の罰金、個人には15年の懲役,罰金50万ドル(5000万円以上=当時の1ドル100円で換算)、懲役15年の厳罰を科し、情報・知的所有権の保護に力をいれている。さらに米国、フランス、スゥエーデンには「経済情報戦争学校」が設立され、経済競争情報専門家の育成に全力を注いでいる。アングロサクソン系5カ国(米,英,加、豪、ニュージーランド)には最近ベールが剥がれた世界最大の恐るべき諜報組織 ECHELONがある。この組織は近時、軍事諜報のみでなく世界中の経済情報を不法に収集しているスパイ組織だとして1998年に欧州議会でも大きな問題になった。アジアでは日本に1992年に筆者が主宰する「日本ビジネスインテリジェンス協会」を設立し2ヶ月に一回の研究会を続けている。オーストラリア,中国は1993年に「競争情報専門家協会」を設置。日本以上に活発な情報研究を行っている。シンガポールにも情報協会が設置されたといわれる。欧米が米、英、仏,スゥーデンを中心に競争情報を研究し、21世紀の国際経済情報戦に備えている現状下、アジアにおいても日本が率先して中国、韓国、シンガポール、情報ソフト大国インドを含めた「ビジネス情報・リスク管理研究連合」を結成し、リスク管理も含め、アジア諸国が共同研究を行い、欧米に対抗すべきではないだろうか。 世界の主要ビジネス競合情報研究機関
*アメリカ競争情報専門家協会(SCIP)会員3000人、本部バージニア州,1986年設立
- グローバル戦略情報協会(AGSI)会員 200人 本部 ロンドン、1992年設立
- グローバルビジネス開発連合(GBDA)会員100人 本部 ジュネーブ, 1996年設立