BIS論壇No.379『NATO(北大西洋条約機構)とIPEF(インド太平洋経済枠組み)』
中川十郎 2022年5月22日
米国はNATOを通じヨーロッパと協力し、ウクライナに侵攻したロシアへの経済、金融制裁に加え、新型兵器などの大型援助を継続している。米国議会はさらなるウクライナ援助に合意した由。
米バイデン政権はヨーロッパに隣接する核大国ロシアへの対抗策にウクライナを盾にNATOと協力し武器援助を通じ、ロシア武力の無力化を画策しているように見える。
21世紀に最も発展するアジアにあっては経済大国となりつつある中国との経済戦争を目的にファーウエイたたきに始まり、中国製品に対する関税の大幅引き上げ、産業のコメと目される半導体機器や技術、製品の中国向け輸出禁輸に各国の協力を要請している。
日本は真っ先に中国向け、これらの経済制裁に応じているが、米国企業の半導体機器、半導体の対中輸出は逆に増加。さらに米国の対中貿易は増えているという。(叶 元帝京大教授)
バイデン大統領は就任後初の韓国、日本訪問中だが、韓国との首脳会談で経済安全保障の一環として米韓で、台湾と並び半導体製造で活躍している韓国と半導体のサプライチェイン(供給網)を強化し、半導体の安定供給に向けた連携で合意した。さらに有事や災害時でも調達に問題が生じないよう供給網を強化。経済活動が国家の安全に直結する「経済安全保障」を同盟の一部に位置づけることに合意したという。(日経5月22日)
さらにTPP(環太平洋経済連携)から脱退した米国は今回の韓国、日本訪問に際し、発展するアジアでの新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)で緊密に協力することを提唱している。これは中国との戦略的競争を念頭に経済安保強化で、供給網や先端技術の開発で足並みをそろえ、将来重要になる蓄電池や人工知能(AI)、量子技術、半導体、重要鉱物の強力な供給網の構築を目指すものだ。
本夕、日本に到着したバイデン大統領は23日岸田首相との会談、24日QUAD(米国、豪州、インド、日本)の首脳会談に臨む。米国はウクライナへの日米協力のさらなる強化。IPEFでの協力。対ロシア経済制裁強化、中国との半導体など先端技術禁輸。日本防衛費の2倍増額など米国への協力強化が要請されるものと思われる。
だが21世紀に経済発展の起爆剤となりつつあるASEAN、中国との関係の重要性を銘記し、アジアにおける日本の国益を重視した独自の外交、経済戦略を重視しバイデン大統領との交渉が望まれる。アジアから日本は「年老いたゴールドメダリスト」とみなされつつあるが、あくまでもアジア、ASEANの将来を見据えてバイデンとの交渉に臨むべきと思われる。