奥 義久の映画鑑賞記
2022年6月
*私自身の評価を☆にしました。☆5つが満点です。(★は☆の1/2)
2022/06/04「ニューオーダー」☆☆☆☆
第77回ヴェネツィア国際映画祭で審査員大賞を受賞した作品。舞台はメキシコ、貧富格差の講義運動が暴徒化し、結婚パーティー最中のマリアン宅も被害にあう。取り締まった軍隊は戒厳令を発し軍事政権が成立する。軍隊は取り押さえた一般人を家族からの身代金条件で解放するようになる。この映画は軍事政権の恐ろしさを警告する問題作である。残酷なシーンが多々あり、賛否両論を巻き起こした問題作である。
「東京2020オリンピック SIDE:A」☆☆☆★
2020年コロナウィルスの影響でオリンピック史上初めての延期開催となった。本作は単なるオリンピックのドキュメンタリーでなく、シリア難民、国籍を変えての参加、乳児との参加等のアスリートの裏側に焦点をあて、平和へのメッセージ、人生へのメッセージを訴えたオリンピックの在り方を問うドキュメンタリー映画に仕上がっている。
2022/06/05「太陽とボレロ」☆☆☆★
水谷豊監督第3作目の題材は地方都市のアマチュア交響楽団の突然の解散と音楽を愛する人々の物語。18年活動を続けてきた弥生交響楽団は指導者の病と資金難から解散が決まった。主催者の花村理子はお別れコンサートを企画するが、指揮者の藤堂先生の病のため、指揮者を誰にするか不協和音が出始め花村はコンサートの無期延期を宣言する。主人公花村には映画初主演の壇れい、花村を支える先輩に石丸幹二、楽団員たちに町田啓太、森マリア、田口浩正、藤吉久美子、六平直正、田中要次、原田龍二ら多彩なメンバーが競演している。水谷監督自身も藤堂先生役で出演している。また国際的指揮者西本智実とイルミナートフィルハーモニーが全面協力して映画参加をしている。このプロの音楽家たちが出演者達の音楽指導をして吹き替えなしで楽器演奏をしているのも本作の見どころの一つである。名曲を楽しみながら感動を与えるヒューマンドラマが楽しめる作品といえる。
2022/06/14「ウェイ・ダウン」☆☆☆★
30年以上探し求めていた財宝のヒントを沈没船から見つけたウォルターたちは、ヒントのコインを国に奪われてしまう。コインを取り戻すため、世界一安全と言われるスペイン銀行の地下金庫からの強奪計画を進める。地下金庫の仕組みの攻略法とW杯サッカー決勝戦を利用する作戦など見せ場たっぷりのタイムリミット・サスペンス。大物俳優はいないが「チャーリーとチョコレート工場」の天才子役フレディ・ハイモアが成長した魅力で主人公の天才大学生役を演じている。チームリーダーのウォルター役はベテランのリーアム・カニング。
2022/06/15「オフィサー・アンド・スパイ」☆☆☆☆
1894年フランスの冤罪事件〈ドルフュス〉事件を鬼才ロマン・ポランスキー監督が映画化。ドルフュス大尉をドイツのスパイとして終身刑として投獄するが、その後防衛部長のピカール中佐が無実の証拠を発見する。スキャンダルを恐れた軍部は真相を隠ぺい。ピカール中佐は知識人の協力を得て命がけの闘いを国家権力に挑む。この事件をサスペンスタッチで描き出し傑作映画が誕生した。ピカール中佐を演じたのは、「アーティスト」でアカデミー賞を受賞したジャン・デュジャルダン、ドルフュスにルイ・ガレルが扮している。
2022/06/17「炎の少女チャーリー」☆☆★
モダン・ホラー文学の巨匠スティーヴン・キングの1980年出版の傑作小説。1984年にドリュー・バリモア主演で映画化され、本作は2度目の映画化となる。内容は前作同様に超能力少女を軍事利用しようとする秘密組織からの逃亡劇である。本作では時代設定を現代に置き換えているが、新味もなく単なる逃亡劇アクションである。かつて内容に新味がなくても面白い映画はB級アクション・B級ウェスタン等とよばれたが、本作はC級サスペンス映画である。映画作成の中核であるシナリオの出来ばえが悪い結果と思う。チャーリー役のライアン・キーラ・アームストロングの熱演が唯一の救い。本作の音楽にはジョン・カーペンターが参加しており、アカデミー賞受賞のアキバ・ゴールズマンも制作陣に名をつらねているだけに残念な駄作である。
2022/06/18「峠 最後のサムライ」☆☆☆
幕末の風雲児・長岡藩家老河井継之助の最後の一年を描いた作品。原作は司馬遼太郎で、侍とは何かを考えて見たかったと言っている。河井継之助は戊辰戦争の中で小藩の越後長岡藩を中立の独立国として戦争を避けようとするが、願いはむなしく官軍の攻撃を受けることになる。国を想い妻を愛した男の生きざまを小泉監督が役所広司とタッグを組んで描いた本格時代劇。共演は松たか子、仲代達矢、香川京子、田中泯、芳根京子、榎木孝明、佐々木蔵之介ら豪華メンバー。スタッフはもちろん旧・黒澤組のメンバー。
「メタモルフォーゼの縁側」☆☆☆☆
17歳の女子高校生と75歳の老婦人が偶然に知り合い、友情をはぐくみ、高校生は変身(メタモルフォーゼ)をとげて成長していく。小品ながらピュアな感動をもたらす秀作。女子高校生を演じるのは若手演技派の芦田愛菜、老婦人には名女優宮本信子。実年齢でも58歳の年の差がある二人の演技は必見。(二人は11年前、愛菜の天才子役時代「阪急電車 15分間の奇跡」で祖母と孫役の共演した縁がある。)
2022/06/20「冬薔薇」☆☆☆
阪本順治監督が若手俳優伊藤健太郎のために書き下ろした作品。25歳の淳は中途半端な生き方しか出来ず、不良グループの一員として生活している。父親はガット船の船長で仕事を理由に親子の会話がない。従兄弟の死をきっかけに生活を見つめて直そうとして、デザインスクールの同級生を頼るが拒絶される。不良グループのリーダー美崎に「ダチだから」と手を差し伸べられた時、淳は人生の決断をする。この映画は再生ものでもなく、これからの人生が間違った方向に行くのではないかと思えるエンディングになっている。人生の生き方を決める時にいくつかの分岐点がある。そんな問題を提起したドラマである。淳役の父親にか小林薫、母親に余貴美子、伯父の眞木蔵人、ガット船乗り組み員に石橋蓮司、伊武雅刀らの芸達者たちが初主演の伊藤健太郎を囲んでいる。
2022/06/25「ベイビー・ブローカー」☆☆☆☆
カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した是枝裕和監督と韓国の国民的俳優のソン・ガンホがタッグを組み作り上げた作品。本作もカンヌ国際映画祭で主演男優賞とエキュメニカル審査員賞の2冠に輝いた。〈赤ちゃんポスト〉に預けられた赤ん坊をこっそり連れ去り非公式に赤ん坊の売買をするブローカーと赤ん坊の生みの親がふとしたことから養父母探しの旅に一緒に出る。そして二人の刑事が現行犯逮捕しようと尾行をする。疑似家族が旅をする中で本当の家族になっていく姿が心温まるドラマに仕立てられている。ソン・ガンホの競演にカン・ドンウォン、ぺ・ドゥナ、イ・ジュヨンの人気俳優が集結して是枝作品を盛り上げている。
「東京2020オリンピックSIDE:B」☆☆★
アスリート中心に描いたSIDE:Aに対してSIDE:Bは東京オリンピック2020の開催の尽力した人々を中心に描いている。オリンピックのドキュメンタリー映画というより、オリンピック開催の真実の歴史を伝える作品といえる。史上初の延期決定、バッハ会長の広島視察とオリンピック開催反対運動、森会長の失言辞任と橋本聖子の就任、ワクチン接種とPCR検査の義務化、無観客開催等々の開催までの苦難の途を描いている。面白さは全くないが、伝えるべき作品ということには同意したい。
「ザ・ロストシティ」☆☆☆
新作の小説から伝説の秘宝の場所を知っていると思われ、小説家ロレッタが誘拐される。ロレッタの相棒は凄腕のイケメン探偵を雇い南の島を目指す。楽しめるノンストップ・アクションだがコメディ調の軽さが減点材料。小説家にサンドラ・ブロック、相棒アランにチャニング・テイタム、財宝を狙う億万長者にダニエル・ラドクリフ。そしてブラッド・ピットが凄腕探偵役で特別出演している。
出演陣が豪華メンバーだけに作品の出来が残念。
2022/06/26「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」☆☆☆
世界的探偵小説シャーロック・ホームズシリーズを原案とした連
続ドラマ「シャーロック」の映画化。映画化の内容はホームズシリーズでも傑作として名高い「バスカヴィルの犬」を題材として取り上げ、テレビでもお馴染みのディーンフジオカと岩田剛典の名探偵バディが瀬戸内海の離島で活躍する。店舗の良い作品に仕上げたのは「容疑者Xの献身」「昼顔」等の西谷弘監督。