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         2022年6月3日発行

        世界の最新トレンドとビジネスチャンス

        第297回

        バイデン大統領の日本訪問の成果と今後の日米の対中戦略

        浜田和幸

         

        ウェブで読む:

        https://foomii.com/00096/2022060310000095280

         

        先のバイデン大統領の韓国、日本訪問の最大の狙い

        「アメリカ国内の有権者に向けて、自らの外交手腕を

        アピールし、同時にアジアをアメリカ寄りにすること」で、秋の中間選挙や2024年の大統領選挙に向けて、

        劣勢の民主党への支持を取り戻すことに置かれていました。

         

        言い換えれば、「ロシアによるウクライナ軍事侵攻を受け、アメリカを中心とするNATOが一体となりプーチン大統領の暴挙を撃退することができた」ことの成果を強調し、

        アフガニスタン統治の失敗やコロナ禍による経済の落ち込みというマイナス要素を跳ね返すことを目論んでいたわけです。

         

        なぜなら、現在のアメリカの有権者の最大の関心事は「物価高騰(インフレ)」と「治安の悪化」であり、

        「ウクライナ」や「ロシア」ではないからです。

        最近のピュー・リサーチの世論調査でも、

        そのことが浮き彫りになっています。そのため、

        バイデン大統領は「プーチンがインフレの元凶だ」とか「中国がサプライチェーン問題の大元だ」といった責任転嫁に走っていました。

         

        とはいえ、それではアメリカ国民の信頼や支持を回復することはできそうにありません。そこで、新たな国内経済の立て直し策として、経済成長が期待されるアジア太平洋地域をアメリカと結びつけるために、バイデン大統領が

        自ら東京にて「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の設立を発表するというお膳立てが整えられたわけです。

         

        これによって、バイデン政権は韓国と日本だけではなく、東南アジア諸国やインドを含む南アジア地域に向けて、中国が加盟申請中のRCEPや拡大TPPとは一線を画す経済安全保障の基盤を作ることを意図したようです。

        「台湾を守る」と公言するほどですから、台湾の参加も

        想定しているに違いありません。

         

        と同時に、「今日のウクライナは明日のアジア」という

        言い回しを用い、バイデン政権は「中国による台湾や

        アジアへの政治、経済、軍事的野心を抑止することが欠かせない」との危機感を煽る世論工作にも力を入れています。その上で、同盟国である韓国、日本に働きかけ、

        「米韓日の3国同盟」で中国の脅威に対抗する必要を訴えました。

         

        また、核実験や弾道ミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮への対応も米韓日3国にとっては喫緊の課題に他なりません。最近はコロナが原因と見られる発熱患者が急増している北朝鮮です。金正恩委員長は中国への支援を求めているようですが、北朝鮮は現在のコロナ禍の原因が中国からのウイルス伝播の可能性を示唆しており、中国との関係は

        微妙と思われます。

         

        実は、バイデン大統領は「4つのNO」を対中政策に当てはめてきた経緯があります。いわゆる、「中国との戦争はNO」「中国の体制転覆はNO」「他国との対中包囲網はNO」「台湾の独立はNO」の4つのNOです。これこそバイデン大統領の対中戦略の基本に据えられていたはず。

        とはいえ、中国による経済発展の結果、軍事力の増強が続いているため、アメリカでは対中警戒心が増幅される傾向にあることは論を待ちません。

         

        日本政府はアメリカの要請を受け、QUADや将来のAUKUS加入を含め、中国包囲網に与する動きを見せてはいますが、アメリカとは置かれている地政学的な環境が全く違うため、尖閣問題を殊更煽る一部の極右勢力を除き、中国との全面的な対立や戦争に向けての準備を本気で行なう考えは持っていません。

         

        日本政府の中枢においては、鄧小平の遺言でもある

        「中華連邦」の可能性に活路を見出すべきとの発想もあり、バイデン政権とも水面下での調整が行われています。なぜなら、アメリカの対中強硬派は軍需産業の影響を受ける国務、国防省に存在する一部のエスタブリッシュメントでしかないからです。

         

        日本とすれば「核兵器のない世界」論の一環として、

        核軍縮を広く国際社会に訴える形でアメリカの中国脅威論に深入りしない方向を模索するのがベストな生き残り戦略と思われます。

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        著者:浜田和幸

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