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         2022年8月5日発行

        世界の最新トレンドとビジネスチャンス

        第305回

        アメリカのペロシ下院議長は台湾訪問で何を狙ったのか

        浜田和幸

        ウェブで読む:https://foomii.com/00096/2022080510000097778

         

        「台湾海峡の波高し」といった雰囲気が広がっています。度重なる中国からの警告にもかかわらず、アメリカの下院議長のナンシー・ペロシ女史が5人の下院議員を伴い、

        米軍機に搭乗し、南シナ海を迂回するフィリピン上空ルート経由で台北に乗り込んだからです。日本でも連日、大きなニュースになりました。

         

         中国内では「ペロシ一行の乗った米軍機は中国の一部である台湾上空を領空侵犯することになるはずだから、撃墜すべきだ」といった勇ましい書き込みがネット上に溢れました。傑作だったのは、ペロシ女史が水泳している写真が「撃墜され海に放り出された」との説明付きで拡散されたことです。

         

         ペロシ議長と言えば、議長に就任するはるか以前より、中国の人権問題に批判的で、中国政府の招きで北京を訪問した際にも、天安門広場で「民主主義を守るために犠牲になった中国の若者を追悼したい」と横断幕を掲げた武勇伝の持ち主。今回の電撃訪問の期間中にも、蔡英文総統は言うに及ばず、1989年に発生した天安門事件の際の学生リーダーだったウイグル族出身のウーアルカイシとも面談しました。

         

         齢(よわい)82歳ということもあり、11月の中間選挙では引退が確実視されています。中国への強い姿勢を見せることで、支持率が急落するバイデン大統領率いる民主党が形勢挽回を果たせるように立ち回っているようにも見えます。というのも、バイデン大統領は習近平国家主席と電話会談を重ねてはいますが、中国に対して強い姿勢を打ち出していないからです。

         

         とはいえ、「台湾は自国の一部と」いう建前の中国とすれば、放置できない話です。以前、ペロシ女史が台湾を訪問したのは、まだペイペイの下院議員の時でした。しかし、今やアメリカ大統領の身に何か起きた時の後継順位は副大統領の次という立場です。

         

         当然、中国政府も無視するわけにはいきません。

        それ故、軍事、経済両面にわたり、台湾への圧力を強化しています。早速、中国は台湾への砂の輸出を禁止しました。このところ、世界的に砂不足が起こっています。コンクリートにもガラスにも欠かせないのが砂です。

         

         コロナ下にもかかわらず建設ブームに沸く台湾にとっては手痛い制裁となるでしょう。すぐさま、新たな砂の調達先としてベトナムやフィリピンとの交渉が始まったようです。実は、台湾には天然資源はそれほど豊かにありません。石油、天然ガス、石炭なども海外に依存しています。天然ガスの備蓄などは10日分しかありません。海上封鎖で供給網が寸断されれば、あっという間に危機的状況に陥ってしまうのは火を見るよりも明らかです。

         

         しかし、台湾にも対中交渉の武器があります。

        それは半導体に他なりません。台湾は世界最大の半導体の生産拠点で、中国も台湾の半導体なしには工場が稼働できないはずです。ペロシ議長は世界最先端の半導体メーカー「TSMC」のマーク・リュー会長とも台北で面談しました。リュー会長は「もし中国が台湾を侵攻するような事態になれば、TSMCは製造を続けることはできなくなる」と述べています。「産業の米」とも言われる半導体を巡っては熾烈な駆け引きが展開されているのです。ペロシ議長の台湾訪問の隠された目的は、台湾が誇り、中国も喉から手が出るほど欲しがっている半導体の製造拠点をどう維持するかという問題でした。

         

         なぜなら、ペロシ議長の台湾訪問の直前、アメリカ議会では「米国半導体科学法案」が成立し、520億ドルの

        補助金がアメリカの国内半導体メーカーに提供されることになったからです。これまではTSMCの天下でしたが、今後は新たなアメリカの国内メーカーが育成されることになります。TSMCは現在、120億ドルを投資し、最先端の半導体製造工場をアリゾナに建設中です。

         

         果たして、同社とアメリカ国内メーカーの住み分けがどこまで実現するのか、内外から関心が寄せられています。技術覇権を巡っては、中国政府の動きも懸念されるため、アメリカとしても「一つの中国政策に変わりはない」と

        公言はするものの、台湾関係の落としどころを誤れば、

        取り返しのつかない事態に陥りかねません。

        いずれにせよ、半導体の生産に関しては、これまで以上に米中間の駆け引きが過熱するでしょう。

         

         そんな中、あのイーロン・マスク氏にとって頭の痛い話が飛び込んできました。それは世界最大を誇る中国の電気自動車用のバッテリー・メーカーである「CATL」が50億ドルを投資し、北米のカルフォルニアとケンタッキーに工場を建設し、テスラ、フォード、BMWへの部品供給網を立ち上げるとしていたのですが、計画そのものを棚上げすると発表したためです。更には、「建設場所はメキシコにするかも知れない」とまで言い始めています。

         

         明らかにペロシ議長の台湾訪問へのさや当てとしか思えません。なぜなら、北京政府は台湾とアメリカを名指しで「平和の破壊者(デストロイヤー)」と批判しているからです。テスラのマスク社長も真っ青でしょう。何しろ、このニュースを受け、テスラもフォードも株価はたちまち値下がりしています。

         

         一事が万事。ペロシ議長の華々しい台湾訪問は、多方面に渡り意外な波紋を引き起こしているようです。しかし、アメリカの軍需産業は米中間の緊張激化を「願ってもない好機到来」と受け止めています。

        ウクライナとは違い、中国軍の上陸作戦を想定してのことでしょうが、台湾に対してアメリカは最先端の潜水艦や

        無人潜水艇の売込みを推し進めているからです。

         

         日本ではあまり知られていませんが、ペロシ議長はアメリカ軍需産業との太いパイプがあります。きな臭い限りです。

         

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