奥 義久の映画鑑賞記
2022年9月
＊私自身の評価を☆にしました。☆5つが満点です。(★は☆の1/2)
2022/09/04「アキラとあきら」☆☆☆★
ベストセラー作家池井戸潤の小説を青春映画の名匠三木孝浩が映像化。同期入社の二人のあきらが大手海運会社の危機を救うという痛快銀行員ドラマ。父親の工場倒産の経験を持つ山崎瑛役に竹内涼真、大企業の御曹司ながら銀行員になった階堂彬に横浜流星、二人の若手人気スターの競演と江口洋介、ユースケ・サンタマリア、石丸幹二、奥田瑛二らが脇を固め見ごたえのある作品が登場した。
2022/09/05「ブレット・トレイン」☆☆☆★
伊坂幸太郎の「マリアビートル」をデヴィッド・リーチ監督がハリ
ウッド映画として映画化。舞台は東京⇔京都間の新幹線の中だが、
登場人物は真田広之以外は欧米のスターが演じている。ブラッド・ピット、ジョーイ・キング、アーロン・テイラー＝ジョンソン、マイケル・シャノンが出演、サンドラ・ブロックがラストに特別出演している。アクション・シーンもハリウッドならではのスケールアップで賞賛に値する。真田広之の殺陣も素晴らしい。
2022/09/07「デリシュ」☆☆☆☆★
フランス革命前夜、宮廷料理人マンスロンは食事会で創作料理を出すが、じゃがいも料理のため公爵の怒りをかい解雇される。当時のじゃがいもは豚の餌として使われていた。マンスロンは息子と実家に戻り、料理から離れていた。ある日料理を学びたいという女性ルイーズが弟子志願でやってくる。本作の時代は貴族と庶民が一緒に食事をすることは考えられなかったが、主人公は誰でもが一緒に美味しいものを味わえるレストランを開店させる。フランス革命前夜、食の革命を成し遂げる物語である。レストランの起源を基に創作した作品だが、美しい自然と美味しい料理がマッチングした傑作が誕生した。マンスロン役はグレゴリー・ガドゥボワ、ルイーズにはセザール賞受賞した演技派イザベル・カレが扮している。
2022/09/09「百花」☆☆☆★
川村元気の傑作小説を自ら初監督した作品。１年間の空白期間がある母子がぎこちなく付き合っている。母が認知症を患い、向き合う中で息子は母との思い出を取り戻していく。母と息子の愛の再生を描いた感動作。息子の菅田将暉と母役の原田美枝子の熱演は必見。息子の嫁役で長澤まさみが共演しているが、二人の演技でかすんでしまっているくらい菅田・原田は素晴らしい。
2022/09/13「ビースト」☆☆☆
南アフリカの大草原を舞台に百獣の王ライオンとの戦いを描いた猛獣サバイバルアクション。密猟者に仲間を殺された巨大な牡ライオンは村人を全滅させ人間への復讐心でモンスターとなっていた。二人の娘を連れて、亡くなった母の故郷を訪ねた医師ネイトは巨大ライオンの標的となる。ネイトは娘を守りライオンと雌雄を決する。ネイト役は英国の人気俳優イドリス・エルバ。B級アクション映画だが久々のサファリもので理屈抜き楽しめる。
2022/09/15「靴ひものロンド」☆☆☆
2017年ニューヨークタイムズが注目の本に選出した小説をイタリアのダニエル・ルケッティが映画化。4人家族が父親の浮気で終わりをつげ、父親のアルドは家を出てる。バラバラになった家族は数年後に再び一緒に暮らすが仮面家族でしかなかった。時が流れアルドと妻ヴァンダは夏のバカンスへ。帰宅した家は泥棒が入ったように大荒れ、そこには子供たちの本心が隠されていた。家族の絆を問う問題作。ヴァンダ役はアルバ・ロルヴァケル、アルドにルイジ・ロ・カーショ、老年の二人はラウラ・モランテとシルヴィオ・オルランドが演じている。イタリア映画界の実力派が揃った作品で第77回ヴェネチア国際映画祭のオープニング作品である。
2022/09/16「LOVE LIFE」☆☆☆
再婚した妙子は夫二郎とその両親が集まった日の息子を事故死させてしまう。葬儀に来た元夫のパクは聾啞者でホームレス。妙子はパクの世話をするようになる。妙子の愛と人生の選択は？究極の愛を描いた作品は、本年の第79回ヴェネチア国際映画に出品している。妙子の難役を木村文乃、二郎を永山絢斗、パクを砂田アトム、二郎の元カノを山崎紘菜が演じている。
2022/09/17「沈黙のパレード」☆☆☆★
東野圭吾の傑作ミステリーシリーズ・ガリレオが9年ぶりに帰って来た。前作の西谷弘がメガホンを取り、天才物理学者湯川に福山雅治、湯川のバディ的存在の刑事内海薫に柴崎コウ、湯川の親友で内海の先輩刑事草薙に北村一輝のレギュラー陣が再結集した。物語は行方不明の女子学生の遺体が発見される。容疑者で浮かんだ男は完黙し釈放され、女子学生の住んでいた町にやって来る。そして、夏祭りの日容疑者が殺され、女子学生の関係者が捜査対象になるが、全員が沈黙する。湯川の天才的頭脳は沈黙から真実を見つけ出す。レギュラー陣に共演するのは、椎名桔平、壇れい、吉田羊、戸田菜穂、田口浩正、酒匂芳、村上淳の豪華メンバー。ガリレオ・ミステリーの傑作が誕生した。
「異動辞令は音楽隊！」☆☆☆★
日本アカデミー賞受賞の名作「ミッドナイトスワン」の内田英治の原案・脚本・監督の最新作。刑事一筋30年の成瀬司は違法すれすれの捜査と部下へのパワハラで周囲から完全に浮いていたが、犯罪撲滅の成果はあげていた。そんな成瀬が警察音楽隊に異動になる。最初は捜査以外の警察官を見下していたが、通常職務と兼務して頑張る姿を見て、成瀬自身にも変化が生まれる。人生再生の最高エンターテインメント作品。主人公成瀬に阿部寛、共演は清野菜名、磯村勇斗、高杉真宙の若手と渋川清彦、光石研、倍賞美津子のベテランのアンサンブルが見事に調和して素晴らしい作品を誕生させた。特筆すべきは楽器演奏シーンの吹き替えはなし。清野のトランペットはプロ顔負けの演奏なので注目して欲しい。
2022/09/19「ヘルドッグス」☆☆☆☆
「関ケ原」「新選組」に続く原田眞人監督と岡田准一の3度目のタッグ。前2作は時代に反逆した実在のヒーローだったが、今回はフィクションのダークヒーローを描いている。やくざ組織に潜入した元警察官が関東最大の暴力団を潰すまでを描いている。岡田准一の今迄にない役柄もさることながら二枚目役の坂口健太郎演じるサイコパスの男の姿は見ごたえあり。脇を固める松岡菜優、北村一輝、大竹しのぶ、MIYAVIらも熱演。ノンストップでみせるクライム・エンターテインメント作品
2022/09/21「島守の塔」☆☆☆
本土復帰50年を記念して、命の尊さをテーマに20万人が犠牲になった沖縄戦を描いた作品。太平洋戦争末期に本土から派遣された沖縄県知事島田叡と警察部長の荒井退造は、沖縄県民を救おうと疎開・保護に尽力を尽くす。県知事付の職員比嘉凜は敵軍と遭遇した場合「辱めを受ける事なく自決せよ」との教えを受けてきたが島田に命の尊さを教わり、生きる事を選択する。県知事島田に萩原聖人、警察本部長に村上淳が扮している。準主役級の役者が主演を演じている地味な作品だが、人命の尊さを訴えた感動作に仕上がっている。
2022/09/25「スーパー30 アーナンド先生の教室」☆☆☆★
アーナンド・クマールは天才的な数学の才能をもち、ケンブリッジ大学からの入学許可をもらいながらも貧しさ故に留学が出来なかった。アーナンドは貧しい家庭の優秀な子供たちから30人を抜粋してインドの最高峰の理系大学インド工科大学の入学試験合格を目指して、無償で教育と寮と食事を与える私塾を作る。本作はこの実話を基に学ぶ事への喜びを描いた痛快エンターテインメント作品であり、インド映画定番の歌と踊りも取り入れた映画の面白さを存分に堪能できる作品に仕上がっている。主人公を演じるリテック・ローシャンはボリウッド注目のアクションスターだが、初の教師役も見事に演じ切っている。
2022/09/26「LAMB/ラム」☆☆☆★
第74回カンヌ国際映画祭〈ある視点部門〉でPrize of Originality賞を獲得。アイスランドの山間に住む羊飼い夫婦は羊の出産で羊以外の誕生を目撃する。二人は事故で亡くなった娘の名前アダと名付け家族生活を送るが、その幸せは悲劇の始まりだった。アダの存在が何故誕生したのか？衝撃の結末まで一気に見せる極上のスリラー。羊飼い夫婦を演じるのは、ノオミ・パラス、ヒルミル・スナイル・グズナソン。美しい山間の風景と悪夢の出来事のアンマッチングが不気味な魅力の不可思議な作品といえる。
