2022年10月18日
元国連事務次長
公益財団法人ニッポンドットコムの理事長
赤阪清隆
話のタネ・どうか翼を切らないで
前略、
先週、多くの中学生と接する機会がありました。
大阪の富田林中学一年生の生徒たちを対象にした「世界をめざそう」と題したオンライン講演と、ジャッジとして参加した高円宮杯全日本中学校英語弁論大会の準決勝です。
最近の中学生の様子の一端を知る良い機会でしたが、生徒たちの
元気で才気活発なこと、それに国連やSDGsなどの知識、英語のレベルが極めて高いことにびっくり仰天しました。
中学生と言えば、12歳から15歳ぐらいの、伸び盛りの子供たちですね。私などは、大阪の田舎育ちですから、そのころの思い出と言えば、毎日遊び惚けていたことと、英語のアルファベットを
習い、辞書は「字引く書なり」、お妾さんは「困窮売淫」と発音することを教わったこと、「少年老い易く学成り難し」の漢詩を覚えたことなどと共に、淡い初恋の人に出会ったことなどがあるくらいで、大勢の人前ではすぐ赤面する恥ずかしがり屋でした。
ところが、富田林中学校一年の生徒たちは、物おじせず、
元気いっぱいでした。今でも、「起立、礼!」の慣行は続いているのですね。授業後半の質問の際には、多くの手が一斉に上がりました。どのようにして国連で働くようになったのか、月給はどのくらいかなど、多くの質問が出されました。あとで送ってもらった感想文には、「ミャンマーで赤ん坊にポリオのワクチンを打ちにいかれた話を聞いて、
「国連の仕事はこんなにも充実した仕事なのかと衝撃を受けました」「国連職員は、給料は普通の人の少し上くらいなのに、何よりも
世界のことを考えられる人なのかなと思いました」
「自分も、世界に羽ばたけるようになりたいと思います。英語、
がんばります。講演を聞いて、新たに将来の夢がきまりそうです」と、けなげな言葉がつづられています。中学校一年生ですよ!
他方、高円宮杯全日本中学校英語弁論大会の準決勝は、赤坂区民センターで行われました。
コロナ禍のために、全国の地区予選を勝ち抜いてきた40名の生徒の5分間のスピーチを、ビデオで見ての審査でした。各生徒の英語スピーチのレベルの高いこと!発音、イントネーションなども申し分ない生徒がほとんどで、点数で差をつけるのに苦労しました。
この大会に帰国子女は参加資格がありませんから、皆さん国産の
努力が実ったものですよ! 臆せず堂々として、プレゼンも上手なこと!心底びっくり仰天しました。日本の中学生の英語レベルは、
こんなにも高くなっているのかと、驚くやら、嬉しくなるやら、
いっぺんに日本の将来に明るい希望が開けてきた気がしました。
特に大多数を占めた女生徒の英語のレベルや、プレゼンの上手さは、目を見張るものがあり、今後このような女性の活躍ぶりが楽しみです。
このような中学生が大きくなったら、さぞや日本も変わるだろうと期待はふくらむのですが、心配があります。
このような元気いっぱいの中学生は、日本の新しい世代の成長と
変化を示しているものなのでしょうか? あるいは、この子たちが大きくなるにつれて、今の大半の大学生や大人のように、ボツ個性の、集団の一人でしかない人に変わっていくのでしょうか?
後者の恐れは大いにあります。
例えば、ほとんどの大学や社会のセミナーなどでは、講義や講演のあと質問する人はまばらです。
質問があっても、周りを気にして手を挙げません。40歳になったら世界で活躍しているかと思う日本の若者は、世界各国に比べて
格段に少ないのです。少し古いですが、下記の調査結果をご覧ください。
英語の好き嫌いについては、以下の表を見てください。中学生までは半数以上が英語を好きと答えているのに、高校生になるとずいぶん減ります。大学生にも、講演に行った機会に何度か聞きましたが、もっと少ないです。
日本の教育に、もっと自由とか、自立心、個性を伸ばす教育が必要と叫ばれてきましたが、目立った改善の兆しはあるのでしょうか?フィンランドやデンマークでは、自立心や自尊心をはぐくむ教育が盛んだということで、その教育ぶりを学ぼうと日本から研究者や
関係者が現地視察をしているのを知っています。徐々に、日本の
教育も変わっているのでしょうか?
2014年にノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんの父親は、マララさんにどのような特別の教育をしたのかと問われて、「私は彼女に教育を与え、翼を切らなかっただけだ」と話しています。下記の朝日新聞のインタービューもそうですが、ユーチューブのTEDで彼のスピーチを聞くことができます。
私は、小泉元首相も毎朝真っ先に読むという、読売新聞の「人生案内」記事を、よく読みます。日本の家庭での諸問題の傾向がよく分かります。親が子供の教育や進路、結婚などに口うるさく、
しかも成年に達した後も長くちょっかい、介入して、
子供の翼を切っている例がなんと多いことでしょうか!家庭だけではありません。日本社会全体に、同調圧力や世間体といった足かせがあって、あれするな、これするなの洪水ではないでしょうか?
これでは、せっかく元気いっぱいに育った中学生の翼が切り取られて、世界に飛躍することができなくなってしまいます。
富田林中学校では、「世界をめざそう」との話に、生徒が活発に応じてくれました。高円宮杯弁論大会で聞いた中学生のスピーチの
大半は、自分の理想を大事に、差別や偏見をなくして、
世の中を少しでも良くしたいとの内容でした。どうかこの子たちの翼を切らないで、と心から願わずにはいられません。この子たちが、大きく成長して、日本の将来を明るくしてくれることを期待しています。(了)