2022年11月27日
今週の所感
村田光平(元駐スイス大使)
11月19日 黒川清先生の近著(問題提起)
皆様
お届けした黒川清先生の近著の紹介は反響を呼んでおります。
その短縮版として骨子をまとめましたのでお届けいたします。
この骨子を活用して明々白々な間違いを問いたださない日本国民に
問題提起をしたいと考えております。
福島原発事故の教訓が忘却されていること、罪深い「安全神話」の復活が不可欠な再稼働が実現していることなどをはじめ、
問いただすべき事例に事欠きません。
原発の耐震性が600ガルから1000ガルなのに対し
2008年の岩手・宮城内陸地震は4022ガル、
東日本大震災は2933ガルであり、
民間耐震住宅の事例5115ガル、3406ガルとの差に驚きます。
こうした現状を放置すれば悲劇の再発は防げないこと明白と存じます。
皆様からもコメントを頂ければ誠に幸甚に存じます。
骨子
皆様
前国会事故調委員長黒川清著「考えよ、問いかけよ <出る杭人材が日本を変える>」(毎日新聞出版)が出版されました。
同書の各章の骨子を紹介させて頂きます。
英訳されることになった同書が日本一新、世界一新のこの上ない
手引きとして最大限活用されることを祈ってやみません。
・第1章
知識を用いて議論する、考える、これこそが人間の真の賢さで
あり、それを施すのが高等教育です。歴史から学ぶ「叡智」と
「哲学」こそが大事なのです。
・第2章
日本の論文数の伸び率は約4%。主要国の中で唯一横ばいです。
日本の研究現場は家元制度に近い。
日本では科学の成果を引き継ぐことだけで満足し、この成果を
もたらした精神を学ぼうとはしない。
・第3章
イノベーションの本質は新しい社会的価値の創造です。
イノベーションを支えるのは出る杭とされる人材です。
日本で「出る杭人材」が十分活躍できない根本的原因は世界でも
類を見ない人材流動性の低さにあります。
・第4章
調査で判明したのは、規制をする側である経済産業省や
原子力安全・保安院、そして立法府までも規制される側である
東京電力に取り込まれ、原子力利用の推進を前提として東京電力の利益のために機能するようになっていたということでした。
日本のメディアにも大きな責任がありました。
規制当局と電力会社の説明を垂れ流しにすることで済ませ、
自ら調べて監視していくという姿勢は見られませんでした。
このような原子力発電の利権によってなれ合った産官学とメディアは、総ぐるみで「原子力ムラ」と揶揄されています。
そして「規制の虜」という状況が原子力ムラという
異常な社会構造を支え、原子力政策において「日本の原発では過酷事故は起こらない」という楽観主義がまかり通ることになったのです。
電力会社は原発の状態をその時々の適正な国際レベルに整合させる必要があります。
2006年原子力安全保安院は指針を改定し全国の事業者に
耐震バック・ チェック(安全性評価)の実施を求めていました。東京電力は耐震バック・チェックをほとんど行わず、最終さらに、数少ない「チェック」箇所が報告の期限を2009年から2016年まで実に6 年半も先送りしていたのです。
日本の原発体制はあれだけの大事故から10年以上が経っても何も変わっていないのです。
国会事故調の調査の中で痛感したのは、当事者であるこの国の
エリートたちの無責任さでした。
日本人は全体としては優れているのですが、
大局観を持ち「身命を賭しても」という覚悟の感じられる
真のエリートがいません。
日本の中枢そのものが「メルトダウン」していると痛感しました。
日本の社会には年功序列や終身雇用といった
「単線路線のエリート」が多く、省庁間の人事交流は多少はあっても「本籍」は変わりません。
企業も同業間での転職はほとんどありません。
単線路線において出世するには前例を踏襲して組織の利益を守るに限ります。
日本の組織には日本特有の「グループシンク」と呼ばれる意思決定のパターンが存在しております。
「異論を唱える義務」を放棄するこの病は日本のあらゆる組織で
蔓延しています。
原発事故の根本的な原因は組織の利益を優先し、問題を先送りしていった「単線路線の日本エリート」の「グループシンク」いう
マインドセットである―私はそう考えております。
(了)