奥 義久の映画鑑賞記
2022年11月
*私自身の評価を☆にしました。☆5つが満点です。(★は☆の1/2)
2022/11/03「天間荘の三姉妹」☆☆☆★
人気コミックを原作にアニメーション映画「この世界の片隅に」の真木太郎がプロデュースした実写映画。天界と地上の間にある三ツ瀬にある老舗旅館「天間荘」は臨死状態の人が天界に行くか、現世に戻れるかの岐路を選択するための宿。天間姉妹の三女たまえは交通事故にあい、ここに来ることになった。この宿の女将は長女、次女は水族館のイルカトレーナーだった。たまえは客として泊まるのでなく働かせて欲しいと申し出る。長女・大島優子、次女・門脇麦、三女・のん、大女将に寺島しのぶ、料理長に中村雅俊、他に三田佳子、永瀬正敏、柳葉敏郎、柴咲コウが脇を固めている。本作は東北大震災を舞台にしたファンタジー・ヒューマンドラマである。企画に賛同したスターたちがカメオ出演(台詞のないワンショット)している。何人見つけられるかも興味深い。
2022/11/04「チケット・トゥ・パラダイス」☆☆☆★
「マンマ・ミーア!ヒア・ウィ・ゴー」のオル・パーカー監督の最新作、本作でW主演のジョージ・クルーニー、ジュリア・ロバーツの二人がエグゼクティブ・プロデューサーとして参加している。
二人が演じるのは20年前に離婚した元夫婦。あってもいがみ合いばかししている二人は一人娘が一目惚れのスピード婚をすると聞き止めに入るため共同戦線を張ることにする。果たして二人は結婚を止められるか・・・。大物スター二人の競演と美しいバリ島を舞台の魅力的ロマンチックコメディが誕生した。
2022/11/06「犯罪都市 THE ROUNDUP」☆☆☆★
韓国内では1200万人の観客動員をしたマ・ドンソクの第ヒット作が日本上陸。シリーズ2作目は舞台もベトナムとなりスケールアップ。世界のマブリーことマ・ドンソクの鉄拳が悪を倒す姿は“スッキリ”の感覚。自分でも拳をふるっている感覚になる傑作アクションを大画面で見て欲しい。シリーズ3作目もクランクアップし、日本でのリメイクも決定、これからも「犯罪都市」シリーズから目が離せない。
2022/11/11「ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー」☆☆☆☆
2020年8月ブラックパンサーを演じたチャドウィック・ボーズマンが病死し、大ヒット作「ブラックパンサー」の続編が出来ないのではないかと危惧された。ヒーロー映画としてはアカデミー賞7部門にノミネートされた作品をマーベルスタジオは「ワカンダのレガシーを繋いでいく」とコメント、2022年11月世界待望の第2作の幕があいた。物語は偉大な王であり、ブラックパンサーのティ・チャラの病死から始まる。ワカンダの資源を狙う欧米諸国に加え、海の帝国がワカンダを狙ってきた。チャラの妹シュリを中心にワカンダの民が立ち向かう。ワカンダの未来を切り開く物語を最高に楽しめるし、シリーズ化も決定。しかも本作でブラックパンサーを引き継いだ新パンサーだけでなくブラックパンサーの血が引き継がれることも明らかになり、チャドウィックのレガシーが最高の形で受け継がれていく。
2022/11/15「ペルシャン・レッスン 戦場の教室」☆☆☆★
短編小説を基に製作された異色のホロコースト映画。ナチスの強制収容所で親衛隊大尉のペルシャ語講師を務めながら生き抜いたユダヤ人青年の物語。偽ペルシャ語を教え、いつ真相が暴露さるかとおびえながら生きる難役のユダヤ人青年をナウェル・ベレーズ・ビスカヤート、親衛隊大尉にラース・アイディンガーが扮している。二人とも日本での知名度は低い俳優だが、二人の熱演が骨太のドラマに仕上がっており、各国の映画祭でも高評価を得て作品賞等を受賞している。
2022/11/16「パラレル・マザーズ」☆☆☆☆★
スペインの名匠ペドロ・アルモドバル監督の最新作。1999年「オール・アバウト・マイ・マザー」でアカデミー賞外国語映画賞、カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞したアルモドバル監督は母の愛をライフワークとして描いてきた。本作は二人のシングルマザーを主人公に数奇な運命を通した母の愛の姿を描いたアルモドバル監督の集大成といえる。アルモドバル監督のミューズと言われるペネロペ・クルスも本作では、産院での取違い事件から他人の子を育てることになるが、他人の子ながら愛情を感じ始めたジャニス(ペネロペ・クルス)は同室だったアナに真実を告げられず悩みぬく。この難役を演じきったペネロペ・クルスは見事にヴェネチア国際映画祭の主演女優賞を獲得する。アナ役のミレナ・スミットの演技も長編2作目とは思えない演技力をみせている。また、本作のもう一つの重要な遺骨発掘はスペイン内戦の犠牲者に捧げる鎮魂歌いく。であり、家族愛を描いている。母の愛を描いた傑作といえる。
2022/11/18「ミセス・ハリス、パリへ行く」☆☆☆★
ロンドンの家政婦ハリスはディオールのドレスに魅せられてパリに行く決心をする。長年働いて貯めた財産を持ってディオールの本店に向かう。ハリスの勇気と優しさがパリで出会った人々を魅了していく。ディオールに魅せられたハリスを演じたのはレスリー・マンヴィル、ディオールの支配人にイザベル・ユペール。英仏を代表する女優が競演するヒューマン・コメディは心が温まる作品になっている。
2022/11/20「ドント・ウォーリー・ダーリン」☆☆★
素晴らしい理想郷の街に住む主婦アリスは愛する夫ジャックと幸せに暮らしていた。隣人が赤い服の怪しい男達に連れ去らわれるのを目撃してからアリスは精神が乱れてくる。そして、この街に不信を持ち始める。アリスには「ミッドサマー」のフローレンス・ビューが熱演、ジャックにハリー・スタイルズ、街の支配者にクリス・パインが扮している。監督のオリビア・ワイルドもアリスの親友役を演じている。ハリウッドで原作の争奪戦があった注目作ということで私自身も期待したが、見事に裏切られた。後半のアリスの行動等は不条理演劇を観ているような難解な作品といえる。題材からは近未来SFのように感じるが車、室内のTV等は1960年代を思わせる。このアンマッチングさも意味不明である。
「ザ・メニュー」☆☆☆★
絶海の孤島にある高級レストラン・ホーソンは予約が取れない事で有名。今晩も12人の客達がカリスマシェフのコース料理を味あうために集まった。シェフのコース料理は味を楽しむことから恐怖の宴に代わっていく異色サスペンス映画。主人公のシェア役は名優レイフ・ファインズ、予定にない招待客マーゴ役で存在感を見せる新進女優のアニャ・テイラー=ジョイ、マーゴをホーソンに同伴したボーイフレンド役にニコラス・ホルトが扮している。ユニークな着想で楽しめる作品である。
2022/11/22「すずめの戸締まり」☆☆☆☆
全世界から評価されるアニメーション監督・新海誠の最新作。九州の田舎町に住む高校生すずめがある出会いから、災いの元の扉を閉めていく冒険に巻き込まれていく。アニメーションで表現される日本の美しい景色とすずめの旅路で出会う人々との出会いと別れ。ロードムービー構成が新海監督の最高傑作ともいえる作品を生み出した。
2022/11/23「ザリガニの鳴くところ」☆☆☆☆☆
2019年から20年の連続アメリカで最も売れた本、日本では2021年度翻訳小説部門の本屋大賞を受賞したベストセラー小説の映画化。世界的シンガーのテイラー・スウィフトは本小説のファンで、映画の為に主題曲「キャロナイナ」を書き下ろした。映画化権を取得したオスカー女優のリース・ウィザースプーンがプロデュースし、監督は短編映画で数多くの受賞経験があり長編デビュー作「ファースト・マッチ」でも観客賞を受賞したオリヴィア・ニューマンが抜擢されるなど話題につきない。主人公カイアには実績は少ないが2021年にゴールデングローブ賞テレビ部門の主演女優賞にノメネートされた若手演技派のディジー・エドガー=ジョーンズが選ばれた。大物スターが主演してないが新鮮さのある映像が引き付ける。物語はノースカロライナ州の湿地帯で将来を期待された若者の変死体が見つかる。容疑者は幼い時から湿地帯で一人暮らしてきた娘。検察官は状況証拠でカイアを追い詰め殺人犯に仕立てようとする。立ち向かう老練弁護士トム・ハミルトンは真実を明らかにしていく。弁護士役にはヴェネチア国際映画祭で助演男優賞を獲得したベテラン俳優デヴィッド・ストラザーン、カイヤの相手役にはテイラー・ジョン・スミスとハリス・ディキンソンの若手有望株が共演している。結末の真実まで息もつかせぬ上質なミステリー・サスペンス映画であり、本年の3本目の☆☆☆☆☆評価を与えた作品である。
「ある男」☆☆☆☆
平野啓一郎の読売文学賞受賞作を「蜜蜂と遠雷」で日本アカデミー賞最優秀作品賞を獲得した石川慶監督が映画化。里枝の愛した夫が事故死して疎遠だった兄が法要に訪れるが、そこで遺影の写真が「大祐ではない」と衝撃の事実を知る。里枝は旧知の弁護士城戸に夫の本当の名前等の調査を依頼する。弁護士城戸に妻夫木聡、里枝に安藤サクラ、大祐ことXに窪田正孝、清野菜名、眞島秀和、真木よう子、柄本明が脇を固める。日本映画界の最高の演技陣が描くヒューマンミステリーの傑作が誕生した。
2022/11/24「母性」☆☆☆★
湊かなえの問題作の映画化。母と娘の視点から母性を通して描く主人公ルミ子と母、ルミ子と娘の三角関係。ルミ子の戸田恵梨香は娘時代から50代くらいまでを一生一代の熱演で演じ切っている。娘の清佳に永野芽郁、ルミ子の母に大地真央、夫に三浦誠巳、ルミ子の親友に中村ゆり、夫の母親に高畑淳子が共演している。本作も出来ばえはいいが「ある男」と同時期公開は不運と思える。
2022/11/25「グリーン・ナイト」☆☆☆★
14世紀の作者不明の叙事詩「サー・ガウェンと緑の騎士」は「指輪物語」の作家トールキンによって広く読まれるようになる。この騎士伝説の物語を映像化。アーサー王の甥が緑の騎士を探す旅に出る。自分の弱さを克服し成長して真の騎士になっていく。主人公のサー・ガウェンにデヴ・パテルが扮し熱演している。「ミッドサマー」のA24スタジオが新たなジャンルに挑戦した作品としても注目したい。
2022/11/26「シスター 夏のわかれ道」☆☆☆★
SNSや口コミで大ヒットして興収171億円突破した話題作が待望の日本公開。看護師のアン・ランは医者志望で北京の大学院を目指していたが、父母が交通事故で死亡したため、面識のない6歳の弟を引き取ることになる。このまま弟を面倒見るか、養子に出して大学院に進むか思い悩む。アン・ランは悩みながら決断をくだす。
難役のアン・ランを演じたチャン・ツィファンは長春映画祭の最優秀女優賞をはじめ、いくつかの賞を獲得して高い評価を得た。今年の韓国映画のベスト1作品といえる。