季節のご挨拶 2023年春
寒さ厳しい折、いかがお過ごしでしょうか。鈴木貴元です。現在、丸紅中国会社の駐在で北京におります。この1月で丸6年半が過ぎました。
長い2022年でした。2022年、私は中国政府による新型コロナへの防疫対策強化で移動がほとんどできず、自宅のある北京市朝陽区の一角を行ったり来たりするばかりでしたが、中国に関わった様々な出来事のおかげで、仕事は益々増え、書かなければならないレポートはより多岐になり、非常に多忙な日々となりました。
コロナの件
2022年は、中国国内では、1~2月の北京冬季五輪のバブル対応、3~5月の吉林・上海の長期化した都市封鎖、9~11月の「弾窓」(ポップアップ)、つまり、コロナ感染の海外からの持ち込み防止、国内での拡大防止、北京への持ち込み防止と、新型コロナ3年目を迎えて、凡そ防疫のターゲットが小さくなっていきました。しかし、関係する個人が受ける措置はそれに反して大きくなっていきました。特に北京では、10月の第20回共産党大会が終了するまで、中心部では感染は殆ど広がりませんでした。北京全市民が大きなバブルに入った感じで、バブル内では自由でしたが、バブルを出入りするのは相当の面倒を覚悟する必要がある。世界はウィズコロナに向かっていましたから、正反対に向かった中国はどうなるのか、その状況からどう正常に戻るのか。先行きは非常に見えにくかったです。
不透明感の程度で言えば、上海ロックダウンを境に急に高まりました。北京冬季五輪では、関係者はバブルに入り、不自由になると認識されましたが、それはあくまでも五輪のためであり、無差別に不自由になるわけではない。北京市民は、五輪を積極的に見に行きたいとは思いませんでしたし、中国の国内であれば、事前に注意地域でないと分かればそこを避けて移動することができました。物資はどこの国よりも充実していたと思います。巣籠のためのパソコンやスマホ、周辺機器、医薬品・医療資源から、生活を潤す出前サービスや内装品のアクセサリー、暇つぶしとなるゲーム・エンタメなどはMadeInChinaで豊富に供給されました。海外の情報はいくらか制限されていますが、全くないわけでも、アクセスできない訳でもありません。物資・サービスが大量に供給されたのは、大きな安心でした。21年末から22年初めに調査された外資企業へのアンケートでも、中国の強靭で安定的な供給能力を高く評価していました。
一方、3月末から5月にわたる2カ月強の上海ロックダウンと、それ以降では、各地域が感染を自分の地域に持ち込まないという意識(ゼロコロナ制度への忖度)を高め、この意識が国内のサプライチェーンを分断するという状況を生みました。企業は1カ月程度の封鎖であれば、回復過程でリカバリーできると思っていたようですが、封鎖は2カ月以上続き、この思惑は崩れました。感染が発生したらすぐに対処し、拡散させないという考えそのものは間違えていなかったでしょうし、中国には拡散の状況を把握するシステムがありましたから、一定程度まではワークしたと思います。但し、大きな地域単位で封鎖すれば、経済の効率が損なわれ、小さな地域単位をあちこちでロックダウンすれば、分断が複雑すぎて結局どこかにボトルネックが出る。上海ロックダウンはこの両方の状況を発生させました。また中国では、モノを介して感染が広がると指摘されましたから、膨大な消毒が行われるようになり、物流・通関の効率性を悪化させました。さらに中国では、ヒトに対する対策は、PCR検査に重点が置かれましたから、集団免疫、医療の強化という本来のexitへの対策が遅れました。小さなロックダウンが繰り返される中、集団免疫も医療の強化も図れないのでは、一体いつになったら出口にたどり着くのか。この袋小路の問題が徐々に膨らんでいったと思います。
この袋小路に対する疑問が爆発しかけたのは第20回共産党大会が終了し、上海輸入博が行われた11月初旬かと思います。政府シンクタンクからの依頼で講演を頼まれていたので準備をしていましたが、上海に入ると今度は北京に帰れないかもしれないという状況が続き、結局やめることにしました。感染者が出たビルやコミュニティーに行った人のスマホのアプリには「弾窓」(ポップアップ)が表れ、これが表れる限り、北京に戻れないからです。私の知り合いには、この弾窓のせいで、上海出張から1カ月以上北京に帰れなかった人がいます。2、3日の会議のつもりが、1カ月以上ですから時間もお金も大変なムダです。その一方で、政府機関に行動情報を事前登録すれば、短期の出張なら弾窓がでないという特別措置もあり、このからくりを知っていた人は、この時期のゼロコロナ政策の実際的な意味と効果に相当疑問を持っていたに違いありません。結局この納得いかない状況は11月半ばには弾窓の廃止によって終了。その後は、ゼロコロナ政策の最適化と呼ばれるような、各地域による過度な防疫措置を戒めるようになりました。但し、戒めが効力を持つようになったのは、各地各所で抗議活動が起きるようになってからです。私の住んでいるアパートでも隣のアパートでも静かな抗議活動がありました。政府の発表したコロナ対策の文書を持っていってアパートの衛生責任者に対して運営の問題を指摘するというものです。そのおかげで居住者以外の人がアパート敷地に入れなくなるという過剰な対策はなくなりました。このころ中国各地で大きな抗議活動がありましたが、12月に入ってその動きは見えなくなっています。
足元は12月7日の措置でゼロコロナ政策による混乱は終わりました。一方、11月後半からの感染増加は爆発にかわり、別の混乱が発生しました。様々な推計があり、実際はわかりませんが1日数百万人から1000万人というペースでの感染が起きているようです。1%にも満たなかった感染率が、北京では高々2、3週間で5割を超えるようになったのですから訳がわかりません。集団免疫ができる訳ですから長い目で見ればよいのでしょうが、極めて高い伝染がなぜ起きたのか、その実態はわかりません。また、1、2カ月で収束しそうだということと、あまり怖がることはないということの認識が徐々に浸透しているようですが、サービス業の労働者がすぐに戻るのか、コロナ対策に使われたホテルや、使われず放置された商業スペースなどが修繕されて使われるようになるのか。春節でブルーカラー労働者の多くは帰省します。先日北京首都空港に行きましたが、設備は22年2月の北京冬季五輪のために改造された状況のままで、免税店やレストランが再開したきれいな空港に戻るのに数日とか数週間とかでは済まない状況でした。正常な状況に戻るのは早くて春先かなと思う次第です。
22年の仕事の状況
22年の仕事は、北京冬季五輪後に経済は元に戻っていくのか、ロシアのウクライナ侵攻が中国経済にどのような影響を与えるのか、上海ロックダウンでサプライチェーンの悪影響はどのように表れるのか、急なEVブームは中国経済にどのようなインパクトがあるのか、ロックダウンとゼロコロナ政策で中国に展開する外資企業にどのような影響が出ているのか、不動産不況の長期化はどうなるのか、習近平政権3期目はどのような政権になるのか、8月のペロシ下院議長の台湾訪問で一歩進んでしまった米中の摩擦はどうなるのか、半導体を中心としたデカップリングはどこまで広がるか等々、在宅勤務や北京から出られない状況が続きながらも、調べないといけない話題は山積みとなりました。他方、22年は新型コロナが終わって新たなビジネスが動くと思われましたから、それに備えての調査も多くなりました。カーボンニュートラル、なかでも素材や電池などのリサイクル、水素やバイオ燃料などの新燃料、そして、国内市場、なかでも食品、生活用品などです。Z世代の状況、デジタルビジネスの状況、国有・民間企業の状況などもです。ともあれ、広範な調べ事をしました。
マクロ経済の予測とそれに纏わる環境の調査が本来の仕事のコアで、長期予測と中国の国際政治環境の見通しを重視している私としては、営業部門を抱える海外会社の営業や企画などにも貢献するということで、いろいろ手を伸ばしていますが、現地スタッフの助けがあってこそいろいろできたのかと思います。
経済見通しを作っていて
気になった点としては、新型コロナの3年間で、人口の見通しがさらに低くなったこと、起業がこの10年で4倍以上多くなったにもかかわらず、また高水準の投資が続いているにもかかわらず、生産性の伸びが下がり続けており、この傾向がさらに強まったこと、投資を政策で押し上げようとしても、伸びに限界が出ていることは否めないことなど、潜在成長率の下方屈折が見えていることです。労働力、投資、生産性は成長の3つの要素ですが、この3つの悪化傾向はどうにも厳しいです。労働力の農業からサービス業への転換、科学技術・ハイテク投資は伸びていますので、この構造転換圧力が本来生産性を高めるはずですが、何かが生産性を圧迫しています。幾つか考えられるのは、まず、農産物・食品価格>その他のモノ・サービス価格という物価の傾向。エンゲル係数が高止まりしている状況。労働分配が農業セクターに向かっていることです。脱貧困、格差是正ということではとてもよいことですし、ここ3、4年の農産品の工業製品化、つまり品質の向上は目覚ましいです。日本ほどの過剰かつ多様とも言えるレベルかというとまだまだそこには至っていないですが、都市で入手できる食品は米国レベルにはなってきました。他方、モノ・サービス、特にモノの価格は下がってはいませんが、上がってもいません。ブームがあると、品不足でオークション状態になるのは、オリンピックのマスコット人形や、旅行チケットなどで典型的に見られることですが、ブームが冷えて投げ売りになる傾向はより強まったように思います。ECの発達で無数の販売業者が立ち上がっています。中国の個人事業主はここ3年ほどで約5千万件誕生しました。9割以上はサービス業ですが、ECが多くを占めるのは間違いありません。ライブコマースをやっているところでも儲かっているのはせいぜい1、2割と言われますので大半は不稼働状態です。不稼働状態とは大量の在庫を抱え込んでいることの裏返しですので、ECの現実には、大量の零細な業者が生産企業の倉庫代わり、とりあえずの販売先になっているというところがあるように思います。都市のなかでの格差拡大、零細な業者の貯蓄の取り崩しが起きている。ECは便利ですが、全体の生産性を向上させているのか。マクロ的には疑問が沸いてきます。
次に科学技術・ハイテクですが、これもECと同じで、少量のwinnerと大量のloserが出てくる構造が見られます。米国と並ぶほどたくさんの研究成果が出てくるのに、また多くの起業も実現しているのに、またハイテク産業団地が各地、それこそ各市につくられているのに、それが利益、さらに持続的な発展に結実するのはまだわずかです。原因としては、経営の問題、国際化への関心の薄さなど、技術オリエンティッドで内向的というところも問題かと思いますが、儲かると巷間で信じられている分野や、政府から支持される分野に研究や投資が集中しやすいという傾向が大きな問題かと思います。一部のトップランナーのみが生き残り、多くの努力がどこかに流れていってしまう。トップランナーが独占で価格を上げるようなことは、トップランナーも潜在的な競争と政府からの監視に晒されている中国では、米国のようにできません。豊かになってくる中で、過当競争が強まっていることは容易に観察されます。
中国のビジネスは国有企業の存在や補助金政策で、外資企業が公平な競争ができていないという話はよく聞きます。この場合の国有企業とは、エネルギー、金融、運輸、通信、鉄鋼など、補助金政策には、中央・地方政府のコングロマリットの低利での資金調達や、ハイテク企業の手厚い支援などがあります。政府との距離の近さが有利ということも一部の中国企業に有利さを生んでいます。但し、こうした部分は欧米にも日本にもみられます。
中国経済の潜在成長率の悪化は、人や開発フロンティアの減少(労働力と投資)が起きる一方、生産力が高まっており、過当競争が強まっている。しかも、国内での資源配分はいろいろな意味で歪んでおり、最も競争が厳しいところが、競争を国内に広げてしまっている。規模が拡大するなかで矛盾も拡大してしまっているということが伺われます。
講演のために長期経済見通しの修正をしましたが、以前の推計では2030年手前に名目GDP米中逆転があったのが、今回は2036年頃という結果となり、その後も中国が米国を引き離すペースが加速しない。米中再逆転が逆転からさほど遠くない将来に起こりうるという結果になりました。シナリオで大きく変わったのは、大卒1000万人時代の早期終焉、設備ストック調整の加速、科学技術による生産性上昇の見積もりの引き下げ、人民元の上昇ペースの鈍化、経常・貿易収支の成長への寄与の引き下げなどです。国際環境が厳しい中では自由貿易のメリットがかなり低下します。自由貿易が続けば中国は自らが得意とする分野に特化し、比較優位を維持すればよいのですが、現在の環境では比較優位のないところにも資源を配分する必要が生まれます。ここ数年でのカーボンニュートラルの動きのように、エネルギー制約の強まりが重なり、太陽光や風力、EVなどの技術力が急速に高まるようなこともありますが、全ての産業を眺めてみてどのように産業と貿易の関係が着地するのか。経済構造の変化の経路までは予測できていませんが、成長と発展への大きなマイナスを予想しています。
中国の海外から見える姿について
22年は、21年末の米国での民主サミット、22年2月の北京冬季五輪、ロシアのウクライナ侵攻、3~5月の上海ロックダウン、8月のペロシ下院議長の台湾訪問、10月の共産党大会・習近平総書記3期入り、11月のゼロコロナ政策などが中国の海外でのイメージを作り、米中関係を中心に中国の対外関係が動いた1年だったと思います。
米国から見ると、中国は権威主義であり、ロシアを支援するリスクがあり、インド太平洋で大きな現状変更を行うリスクがあり、政府はより独裁的になり、政策はミスリードを増やしつつあるという中国像を固めた1年だったのではないでしょうか。経済が大きくなっていく中、自己主張が強くなり、米国が作ってきた秩序を変えようとし、米国に挑戦しようとしているということです。一方、中国から見ると、この像は当然大きく異なります。大きく違うのは、中国には民主があるということかと思います。共産党には中華人民共和国が成立するときに国民から政権を信託されたという認識があり、主権は国民にあり、共産党は反腐敗などによって監視されており、民意はパブコメなどを通じて政策に取り入れられている。人権の最大の問題は生存権であり、脱貧困、経済発展というところで権利は一定程度守られているなどという考えがあります。経済を中心とした多くの政策(というより対策)はこの仕組みで概ねうまくいった、ただ、中国はまだ道半ばであるという考えでもあります。また中国は海外に覇権を求めておらず、米国が悪評を広めていると疑念を強めています。
また、中国は、対外的には国連中心主義・多国間主義、国際法重視・現行国際秩序重視で新興国の発展などの現実に沿って国連などの改革をしていくべきとしています。中国の周辺外交は隣接国との国境画定と経済交流、テロ防止による中国への支持獲得、世界外交は経済交流による市場確保、資源確保、新興国からの支持(国連での支持とランドレーン・シーレーン確保)、さらにこれらを通じて先進国への発言権拡大というのがだいたいの戦略です。国境画定が進んだのは90年代から2010年頃ですが、画定しないのが日本、東南アジア、インドで、ロシア、中央アジアは解決しました。この動きは体制が大きく違い、追い上げられ競争を迫られる米国や日本などからは脅威・挑戦と受け止められています。しかし、中国では発展の当然の帰結であり、権利と受け止められています。むしろ米国が国際秩序を破壊しており、覇権に固執していると見られています。
内外の認識のギャップはとても大きいです。
中国の民主は、経済的に国民を助けているところ、彼らが重視する(全体の)生存権を重視しているところでは、そう思えるところは多いと感じます。一方、各種政策の根本的な方向性や、外交や軍事、主権などに国民が議論を持ち込む機会はありません。また、中国が民主主義でないことは認識されています。但し、「中国式の・・・」と彼らがいうのは、他の国と「全く違う中国式」ということではありません。かなりの部分が他国と重なるものです。共産党の統治により異なるところがあるということで、ここに本来海外と議論できる空間があると思います。ただ、中国はここを議論しようとすると「内政干渉」と捉えてしまうところがあります。また議論の相手の多くの先進国は、中国の民主について白か黒か的な見方を出してきます(特に米国)。直接の交流が断たれる中で、重なり合うところも一旦確認してみる。そういう動きが外交・国際関係でみられないものかな、と思っておりました。
なお23年は中国の外交はコミュニケーション重視というところが打ち出されています。これまで中国人しかわからないような中国のロジックをいかに海外にわかってもらうか、こちらに注力するようです。
米国では台湾総統選挙・米国大統領選挙のある24年から習近平政権3期の終わる27年にかけて衝突のリスクが高まると言われています。リスクの源泉は、米国では、中国の経済成長鈍化の一方で蓄えられる軍事力(戦争の能力)、高まるナショナリズム(戦争の意図)と見られています。これについて、中国では、中国からのリスクは低いものの、台湾を分裂させる分子(米国と民進党)の動き(レッドラインを踏む(独立の宣言を促す、軍事的抑止が行き過ぎ、偶発的衝突)と見られています。ここは23年最大の米中のテーマであり続けると思いますが、ここは外交を重視すると言っている中国からすれば内政問題であり、米国と話はするとしても協議はしない。米国は中国と厳密な定義は違っていても中国の立場を認めていますから、米国は台湾及び同盟国・パートナー国と抑止力拡大に動き、中国の自制を促す。話し合いはできうる限りにとどまる。これは中国からすれば中国発展の帰結としてどこかの時点で実現すべきもの、米国からすれば近々中国の政治目標の実現のために動くものですから、米中から見れば中国が緊張を高めるということですが、中国から見れば米国が緊張を次々に作り出す状況です。23年は米国は大統領選挙の序盤戦で、海外関係を選挙の話題に持ち出しやすい年です。中国は民主・共和で同じ方向性ですが、議会がねじれいていることで、対中共闘というよりエスカレーションが起きやすいです。
デカップリングの件
22年は、米中関係が平行線を強める中、新型コロナでも表面化したサプライチェーンの分断の動き、デカップリングが目立ちました。フレンドショアリングという言葉も一時はやり、同盟・パートナー国でサプライチェーンを構築するような雰囲気も出ました。ただ、実際にデカップリングやフレンドショアリングに全面賛同するような国はなく、実は米国にもそんな気にのってくるのは安全保障に関心のあるごく少数しかなく、安全保障に関係のある通信・半導体、スーパーコンピューティングなどに当面絞られるのが実態です。米国の考えは、安全保障にかかわるところはしっかり守り、そうでないところは一連の動きから産業・企業に促すということです。
中国をデカップリングするのは難しいですね。工業製品の3割、特定製品では5割を超える生産を行っている中国をはずすのは現実的ではありません。食糧・エネルギーの自給率が100%を超える米国、食糧・エネルギーはどうしようもないが、工業で強い産業連関を持っている日本などはどこかできてしまうような錯覚を覚える政治家や学者がいるのかと思いますが、ロシアからのエネルギー問題に直面した欧州は、民主は重要だと思うと同時に、デカップリングの悪影響を身に染みて感じていると思います。もともと国際産業連関の希薄な新興国は、デカップリングは端から無理だと思っています。昨今の半導体のデカップリングでは、韓国は完全に板挟みです。
23年は米国内では中国への風当たりは強まります。中国企業の禁輸リスト対象は600社を超えましたが、さらに増えるのではないかと思います。
一方、企業の対中進出は引き続き増えるでしょうね。EVのマーケット急拡大、ESGやカーボンニュートラル、DXなどの新しい企業行動の導入加速、デカップリングへの対応などで、欧米や韓国企業の投資は加速しています。また各国との経済協力も増えていくでしょう。再生可能エネルギーやEVなどの生産能力は、中国は圧倒的に世界一ですし、なにより普通に必要なものをたくさん作っています。世界的な物価高、モノの供給の不透明感といった中で中国の必要性は世界全体から見ればさらに増すような状況です。
特定の国に依存し過ぎない努力ということが言われますが、ほとんどの国は必要なものを十分自給できず、近隣国等との貿易でなんとかするか、不足したままなのです。なんでも満ち足りたうえで、サプライヤーをえり好みできるわけではありません。植民地の宗主国だけが満たされればよい1960年代までとも、冷戦で世界市場が日米欧の3つしかなかったような1980年代までも異なり、世界のみんながそれなりに豊かな暮らしをしたい今です。貿易が平等な立場でできるようになった今です。米中の覇権争いでそれを壊してしまっていいのか、「非効率でもしょうがない」というようなことを日本のテレビメディアで政治関係の方がおっしゃるのをよく聞きましたが、日本がこれまで享受してきた利益だけでなく、世界の多くの方の利益と希望を考えてのことなのか。外交や国際交流で最善の努力が見られることを望んでいます。
円安の件
22年に一番参ったのは円安です。日本の復活をどうするというような内容の報道がいろいろありましたが、日本の方は国境を跨いで歩いたことがあまりないせいか、通貨は国力ということを容易に忘れるようです。通貨が高ければモノは高く売れる、安ければ安くしか売れない非常に単純なことです。私は98年に最初の海外駐在をしたシンガポールで、たまにですが、マレーシアに買い出しにいきました。家からジョホール・バルでへのタクシー代を考えながら、マレーシアで何を買うか。また、インドネシアへはビンタン島などにちょっとしたレジャーに行きましたが、インドネシア人は1ドル=15000ルピアでしたが、外国人は確か1ドル=5000ルピアと、ほぼ通貨危機前のレートが適用されるなど、為替変動の損得をよく考えました。
ここで覚えた感覚は、自国通貨は強いのが良いということです。安くていいことは何もありません。通貨安で輸出が有利になるといっても、それはただ安く買いたたかれることでしかありません。円安とは、作った企業や労働者のドルベースで見た価値が単に低いというだけです。日本円は海外ではほとんど使えません。日本はいくらお金を稼いでも、最後は必要なものを海外から外貨で購入する必要があります。円安は国が安い、購買力が低いという以外の何物でもありません。海外と関わってしか生きていけないのですから、価値の基準は国際通貨で計るのが普通です。「日本の賃金が上がっていない」もさることながら、ドルベースでみた一人当たり所得がピーク時よりも5割減っていることのほうがよっぽど問題です。またGDPよりも、金融・実物資産の方が大事です。安全保障をどうこう言う人がいますが、最大の実物資産の価値である不動産がピークから5割くらい低下している。ドルベースで考えればさらに低下しているのですから、日本に投資しようというのは「安値買い」が主となるのでしょうが、世界のマネーは価値の高いものを求めます。ですから日本マーケットは世界のメジャーマーケットになりません。高い日本の価値を海外の人に買ってもらう。それには円が将来もっと高くなって、日本投資のリターンがもっと高くなる。そういう期待と経済の実体を作ることが重要なのです。これが世界の生活者やビジネスでの常識的感覚だと思います。こういうとちょっと極端ですが、人材に正当な賃金を払い、成長を高めながら、資産の将来期待を高め、世界から人や投資が入っていることを目指す。これが正当な国家経営ではないでしょうか。円安円高の価値判断をどうこう議論することそのものが、国家経営というものがないがしろにされていることかなと思いました。
ちなみに中国では1元=7.3元よりも安くなることに非常に抵抗があります。マネーの流出の危険などと言われます。極端な元高は求められていませんが、今の人民元は実効為替でみれば高値圏で推移しています。国力の高まりとともに徐々に元高を図ることで購買力を高める。ここはまっとうなことが行われていると思います。なお、米国では1ドルはいつでも1ドルです。どれだけ赤字を拡大してもお金は米国に還流します。中国も米国も貿易や金融での儲けからある意味軍事予算などをねん出できます。フローのGDPだけから社会保障から軍事までを、他国とのかかり合いを最大限にしないでねん出しようというのは、考え方としては狂気の沙汰です。単一民族意識で、コツコツ稼いで円安を良しとする、この見識が日本の繁栄のピークから30年を経て円安を招いた。考え方が変わらない限り、今後も円安危機は膨らんでいく。厳しいなあと思います。
北京について
23年元旦、久しぶりに休みました。王府井まででかけました。SNSや微博でカウントダウンのにぎやかさをみておりましたが、王府井はそこそこ賑やかな状況でした。3年も閉じこもっていたのですから、そりゃ外に出たいです。ただ、お店でいろいろ買っているのかというところでは???でした。ECで何でも買えますからね。また飲食店は、3割くらいは閉店していました。出稼ぎ労働者はすでに帰省したりしてますから。春節後に再開すると思いますが、今は閉店中です。
北京では8割が感染したといわれています(私はまだかかっていません)。「みんなかかったので安心」という雰囲気が広がって、さらにみんな正常に職場復帰して、所得も正常に増える見通しが立ってくると、正常化なのでしょうね。中国は欧米や日本と異なり、まとまった所得補償が行われた訳ではありません。貯蓄の増加は他国同様起きていますが、高所得者の消費性向が行動制約で起きているのが実態でしょう。低所得者向けには零細企業などを対象にした減税が行われていますが、稼ぎが大幅に減少した中での減税ですから、ここの部分で貯蓄が大きく増えたとは思えません。ポストコロナで飲食や旅行需要が戻ってくるのは予想されますが、貯蓄を取り崩して、ほしいものを買いまくる。米国のような消費熱が起きるとはなかなか考えつきません。
でも、12月の混乱から1月を迎えて、北京のムードはとても良くなっているようです。マスクも消毒も常識化して、その上で元に戻ろうとしています。1、2月の様子がよければ成長見通しは上方修正しないといけないかもしれない。米国ほど楽観的ではないけど、相対的にしっかりした経済基盤と、ほどほどの楽観性がある。こういう感じではないでしょうか。
11月の抗議活動や12月の混乱はたくさん海外のテレビで報道されましたが、今そのことを振り返ったSNSは流れてきません。これが中国の政治の体温かと思いました。
2023年について
23年は3年ぶりに普通になりそうです。勤めている丸紅の各地の支社、国境地域で行われる博覧会、各地の新規開発などいろいろ見て回りたいです。不動産問題はこれからが解決本番。昨年からの地方銀行整理や不動産整理がどう進むか見たいですし、米中問題は米国からの一方的制裁に中国がどう出るか。多分あまり大きな報復はしませんが、緊張がどう高まるのか。欧米企業の対中ビジネスの積極性は変わるのか。日本企業は一段と縮こまるのか。ここは変動が大きそうなのでよく注意しないといけないですね。
また忙しくなりそうですが、体に無理せず、やっていきたいです。2023年もよろしくお願いいたします。
鈴木貴元
北京市朝陽区西大望路3号藍堡国際公寓C805
+86-138-1105-5271(丸紅(中国)有限公司勤務)