2023年1月21日
今週の所感
村田光平(元駐スイス大使)
1月21日・神宮外苑を守る国民運動
市民活動家が始めた神宮外苑の樹木伐採を阻止する署名運動は「神宮外苑の自然と歴史・文化を守る国会議員連盟」の誕生を生み、市民活動家からは連名で永岡文科大臣に対して陳情書(こちら)が発出されるに至り、 国民運動に発展する可能性すら感じられるに至っております。
この運動の本質は自然、歴史、文化を守ることに直結するものだけに政府、都庁、明治神宮等関係組織には長期的視野からの真剣な対応を迫るものといえます。
現在の再開発計画の破棄を求める国民の声は高まって行くことが予見されます。
皆様の御理解と御支援をお願い申し上げます。
陳情書
2023年1月15日
永岡桂子文部科学大臣宛
日本イコモス国内委員会より提案された「神宮外苑の日本の名勝への指定」を支持します。
神宮外苑は、その豊かな自然環境は言うまでもなく都民が愛する、公益性公共性の高い文化資産であります。 明治神宮外苑は、明治天皇の崩御をきっかけに国が整備した内苑とは対称的に大衆が集う庭園となることを目的に「民間主体」で国民からの献金、献木、
勤労奉仕などによって整備されたものです。 明治天皇とその皇后様への国民の愛情の象徴である神宮外苑は、世界で王室皇室を擁する30ヵ国の内の一国家として、日本に天皇制が存続する限りその象徴として後世に大切に守り継がれるものであると信じます。 また神宮外苑の意匠は、20世紀初頭の「都市美運動: City Beautiful Movement」のデザイン思潮を踏まえたものであり、近代日本を代表する庭園建築であり、その文化的景観の価値は言うまでもなく、東京都民にとって先人の思いが未だ残る歴史的価値の高い文化遺産でもあるのです。
実際、東京の類まれな美しさは、人間と自然の共生が東京のような大都市の中で見事に具現化されている事です。海外から訪れる外国人たちがまず感心し魅了されるのは、まさにこの自然と都会、伝統と近代の完全な共存が 21 世紀においてもなおこうして継承されている事です。それは古代から私たちの先祖たちが丁寧に今に繋いできた伝統であり、世界に誇る日本の文化です。
その綿々と伝えられてきた伝統は、先人が行なってきたのと同じように丁寧に次世代に受け継がれるべきです。
また、健全な社会形成を考えるにあたり樹木や自然を考えることは歴史と文化を尊重する社会の原点です。文化はこれから成長していく子供たちや若者たちの精神の糧であり、健やかな未来の保証でもあり、そして自国の文化を守ることは、日本人としてのアイデンティティを確立し、その国民の尊厳を守る行為でもあると考えます。
未来の子供たちにできる限りの自然を、緑を残したいと考えます。 それが、戦後日本の目覚ましい復興を熱望するあまりに都市の近代化、発展にのみ盲進して国土の自然をここまで破壊してしまった私たち大人の責務であり残務です。子供達に彼らがその日常の中で木々と親しむことなく、緑の風の中で走り回ることなく、木々の落とす涼やかな陰でその汗を拭う事なく、そこに生息するさまざまな生き物に目を輝かせる事もない、そんな世界を残したくはありません。自然もまた人々の暮らしにおいてまた子供たちの成長において欠かせない文化です。
都民だけでなく多くの国民に愛され、日本の近代建築の粋を極めた美しい庭園と自然が織りなす見事な遠景を擁し、先人の善き思いが脈々と息づき、そして厳しい戦火をも生き抜いた樹木たちに
よって形成される神宮外苑は日本の名勝に相応しいと確信いたします。
神宮外苑を日本の名勝に指定していただき、日本が世界に誇る文化的資産をそして自然と人間の密接な共生と言う日本の伝統をそして日本が今まで歩んできた歴史を、どうか未来の次世代へと大切に継承していけますように、ご尽力いただく事を心から要望いたします。
Rochelle Kopp
楠本淳子
小池都知事が20日の定例会において
明治神宮外苑の再開発事業について、「基本的にはあそこは明治神宮の土地」とし「先人達の思いを引きついで100年先の未来につなげる街づくりに真摯に明治神宮の皆さん、事業者の皆さんにはお取り組みいただきたい」と述べましたが、
➀ 神宮外苑は明治神宮だけの土地ではなく、国有地もそして新宿区管轄の土地も入っていること
➁ 先人達の思いを引き継ぐ? 渋沢栄一は、神宮外苑の美観を守るべしと彼の要望を文書に遺しています。先人達の思いを引き継ぐのであれば、神宮外苑は維持するのみ、そこをビジネスに利用する計画さえ立てられないはずです。
私が先日見つけました文書を念のため添付させていただきます。
1月26日・渋沢栄一記念財団「渋沢栄一伝記資料」
5款「財団法人明治神宮奉賛会」より引用
明治神宮外苑志 明治神宮奉賛会編 第八八一九一頁昭和十二年八月刊第四十一巻P575-576
明治神宮外苑志 明治神宮奉賛会編 第八八―九一頁昭和一二年八月刊
○第一篇 造営
第五章 神宮奉献
○上略
十月二十二日、本会は外苑将来の希望につき明治神宮宮司へ左の一札を入れたり。
外苑将来ノ希望
明治神宮並同外苑ノ経営ハ、大正元年七月 明治天皇崩御以来全国民ノ熱誠ヲ籠メタル志願ニ基キタルモノニシテ、大正九年十月社殿及内苑竣工、同年十一月御鎮座アリ、外苑ハ漸次工事進行シ、今年十月ニ至リ滞リナク完成ヲ告ケタルハ、不肖等最初ヨリ事ニ当リタル者ノ最モ満足ニ堪ヘサル所ニ候
外苑ハ専ラ明治神宮奉賛会ノ奉献ニ成ルモノニシテ、其ノ工事ハ明治神宮造営局ニ於テ担当施行セリ、奉賛会ハ大正四年九月六日会長以下就任、此日ヲ以テ正式ニ成立ヲ告ケタルモ、関係有志者ハ大正元年八月以来準備行動シテ熱心ニ奔走尽力セリ、奉賛会ノ会員拾万七千余人、賛助員約七百万人ニシテ、独リ帝国内ノミナラス海外ニ在ル日本人ハ争フテ加入セリ、其献金ハ六百七拾壱万千余円ニシテ、之ニ御下賜金参拾万円、預金利子弐百七拾参万参千余円、其他諸収入ヲ合算スルトキハ収入総計千六万余円(物品及労力ノ奉献ハ此外トス)ナリ、此内工事費其他ニ仕払ヒ又仕払フヘキモノ九百九拾九万四千余円ナリ此上残務ヲ処理シテ尚残余ヲ生スル場合ハ、外苑維持資金トシテ明治神宮ニ奉献可致候
外苑工事ノ設計施行、絵画館壁画々題ノ調査、選定壁画ノ揮毫ニ就テハ一流ノ技術者・画家及其事ニ最モ精通セル人物ニ依頼シテ、最モ慎重ニ考究ヲ加ヘ万遺憾ナキヲ期シ候
外苑ノ経営ハ実ニ多年ニ渉ル大事業ナリ、而シテ献金ノ募集ニ当リ国民ハ競フテ之ニ応シ、其応募額ハ遥カニ予定ヲ超過シ、其応募者ハ未曾有ノ多人数ニ達セルニモ拘ハラス、現金払込ニ付テ一人ノ未納者ナカリシハ斯ル多額ノ寄附金ニ付テハ嘗テ類例ナキ所ナリ、又工事ノ施工ニ当リ、其請負人ハ勿論職工・人夫何レモ報恩ノ念ヲ以テ之ニ当ルカ故ニ、工事監督者ハ却テ其過労ヲ戒メ、必要以上ニ鄭重ニ失セサルヨウ注意ヲ加ヘタルコト間々アリシト云フ、殊ニ地方青年団員ノ志願ヲ以テ工事ニ従事セルモノノ如キハ、真ニ模範的ノ労働振ヲ示セリ又工事材料庭園木石類ノ購入ニ当リテモ納入者ニ於テ自ラ進テ良品ヲ格外ノ低価ヲ以テ納メ、或ハ献上セル者少ナカラサリシト云フ、如斯キハ詩ニ所謂「庶民攻之、不日成之、経始勿亟、庶民子来」ニシテ、古今ニ卓越シタル
明治天皇及昭憲皇太后ノ乾徳坤徳ノ余沢深ク民心ニ浸潤セルノ結果ニ外ナラス、万世一系、義ハ君臣ニシテ情ハ父子タル、二千五百余年
来ノ光輝アル歴史ヲ有スル我建国精神ノ一端ヲ、外苑ノ形ニ於テ顕ハセルモノト申シ得ヘク、不肖等深ク感動措カサル所ニ候
今ヤ外苑全部ヲ貴職ニ引継クニ方リ、将来御注意ヲ請フヘキ条々左ニ申入置候
(一)外苑ハ 明治天皇及昭憲皇太后ヲ記念シ、明治神宮崇敬ノ信念ヲ深厚ナラシメ、自然ニ国体上ノ精神ヲ自覚セシムルノ理想ヲ基礎トシ、一定ノ方針ヲ以テ設計造営セラレタルモノナルヲ以テ、今後之カ管理及維持修理上ニ於テモ常ニ右理想ヲ失ハサル様篤ト御注意アリ度事
(二)外苑ハ国民多数報恩ノ誠意ニヨリ明治神宮ニ奉献セルモノニテ、他ノ遊覧ノミヲ主トスル場所例ヘハ上野・浅草両公園ノ如キトハ其性質ヲ異ニスルヲ以テ、今後外苑内ニハ明治神宮ニ関係ナキ建物ノ造営ヲ遠慮スヘキハ勿論、広場ヲ博覧会場等一時的使用ニ供スルカ如キ事モ無之様御注意アリ度事
(三)外苑ハ常ニ清浄ヲ保チテ修理ヲ怠ラス、不潔不浄ノコト無之様深ク御注意アリ度事
(四)外苑ノ美観統一ヲ永遠ニ保持スルニハ常ニ適当ナル施設ヲ要スヘク、之カ機関トシテ専門委員ヲ常置シ、将来建造物・木石等ノ奉献申出アリタル場合ニ於テハ、先以テ位置設計等同委員ノ意見ヲ徴シ、許否ヲ決セラルルカ如キ方法ヲ採ラルル様致シ度事
(五)憲法記念館ハ木造ナルヲ以テ、最モ防火ノ注意ヲ肝要トス、依テ同館周囲ハ建物ヲ造ラス、庭園トシテナルヘク広ク空地ヲ存シタルモノナルコトヲ記憶ニ留メ置カレ度事
(六)明治維新中興ノ大業ニ付テ最モ勲功アル皇族及功臣ノ銅像ニ限リ十基以内ヲ外苑内ニ建設スルコトハ当初本会外苑設計委員ノ承認ヲ経タルモ、人物ノ順位並製作上ニ付考究ヲ要スルモノアリテ、終ニ実行ニ至ラス、右ハ今後改メテ奉献申出アルトキハ更ニ専門委員ノ審議ヲ経テ決定アリ度事
(七)明治天皇及昭憲皇太后ノ等身御銅像ヲ其筋ニ於テ製作セラレ、本会ニ御下附ノ上聖徳記念絵画館広間ニ安置ノ内議アリシモ、其後議変リ、下附セラレサルコトトナリタリ、就テハ同広間ハ右様ノ由来アルコトヲ記憶ニ留メ置カレ度事
(八)本会会員ノ待遇特典ハ本会創立以来ノ規約ナルヲ以テ、本会閉会後ト雖モ右規約ノ趣旨ヲ尊重セラレ度事 以上
大正十五年十月二十二日
明治神宮奉賛会会長正二位勲一等 公爵 徳川家達
副会長正三位勲一等 子爵 渋沢栄一
副会長正三位勲一等 男爵 阪谷芳郎
副会長従三位勲一等 男爵 三井八郎右衛門
○下略
明治神宮宮司従二位勲一等功二級陸軍大将一戸兵衛殿
○明治神宮奉賛会ノ献金募集成績ハ大正五年末ノ締切ニテ七百万円ヲ超エ、大正十五年三月末ニハ壱千万円(利子加算)ノ巨額ニ達シタリ。会員ハ拾万七千余人賛助員約七百万人ナリ。
上条文の太文字の部分を見てください。
つまり、明治神宮奉賛会が神宮外苑を明治神宮に奉賛した時
「外苑の美観統一を永遠に保持すること」
「今後外苑内には明治神宮に関係なき建物の造営は遠慮すべきは勿論、広場を博覧会会場など一時的使用に供する事もなき様に注意する事」
と、外苑の将来についてその要望を明確に謳っています。経済活性化のために外苑を破壊して高層ビルを建てて良いなどとは一言も言っていないのです。
神宮外苑の土地に対しては、もともとはその当時、渋沢栄一が中心になって「明治神宮奉賛会」という組織が作られ、全国や海外から寄付を集め、それで土地を買って造営できたもので、それを明治神宮に献上したものです。
そのときその「美観を永久に保全すること」を要請しており、地権者だから自由に開発していいというものではないということを明確に指摘しています。
楠本淳子