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        経営倫理・企業の社会的責任とこれを巡る新潮流

        (2022/12/13 NBS) 井出亜夫  

        (はじめに) 

        • (1)米国サブプライム問題に伴う世界経済危機は、100年に一度の経済危機といわれたが、この危機の本質質は何か。トランプ大統領の選出(ポピュリズムの蔓延)、英国のEU離脱(BREXIT)、コロナウィルス・パンデミック、ロシアのウクライナ侵略等世界を取り巻く状況変化の本質は何であろうか。
        • (2)フランシス・フクヤマ著「歴史の終焉」、トーマス・フリードマン著「フラット化する世界」がポジティブに描写するグローバル経済社会の進展に対し、今日の世界経済のシステムは、20世紀を律した市場経済システムの枠組みが対応力をもちえなくなり、従来の市場経済システムにパラダイムシフト(思考と枠組みの変化)が求められているのではないか。特に、実物経済を支える社会的共通資本としての金融システムが肥大化し、その在り方、市場経済の担い手としての企業の社会的責任に大きな制度設計上の問題が提起されている。健全な市場経済は、規制緩和によってもたらされるのではなく、絶えざる規制改革が求められている。
        • (3)現代社会における企業の社会的責任はますます大きく、企業は新時代を拓くため新たなビジネス展開を求められている。21世紀の市場経済の形成、そこにおける企業活動の新しい展開が永続する市場経済システムのカギとなろう。トマ・ピケティが問う「21世紀の資本」に我々は如何応えるかが問われている。

        1市場経済における経営倫理・企業倫理の発祥

        (1)アダム・スミスの市場経済観(道徳感情論、諸国民の富:岩波文庫 アダム・スミス:高島善哉 岩波新書参考)

        ①諸国民の富-An inquiry into the nature and causes of the wealth of the nations1776刊行

        自分の利益を追求することによって、社会の利益を増進しようと真に意図する場合よりも、より有効に、社会の利益を増進することもしばしばある。

        (これは、自由な市場経済における予定調和の働きを想定したものであり、以後の経済学の拠り所となったが、①諸国民の富、スミスの考えは、②道徳情操論と一体的解釈されなければならない。)

        ②道徳情操論-The Theory of Moral Sentiments 1759年刊行

        人間はいかに利己的なものと想像してみるも、なお明らかにその本姓のうちには、他人の幸運について興じ、その幸運を傍観すること以外には何の利益もない場合にも、その他人の幸福が彼自身に必要であるようなある原理が存在している。これは、スミスが人間に内在すると指摘する利他的「モラルセンス」である。

        (スミスは、本来倫理学者であり、諸国民の富は、道徳情操論と一体的に解釈しなければならない。)

        ・新興市民階級の登場

        絶対主義権力と結びついた大貿易商人、社会の上層階級、特権階級、大地主、特許会社、古いギルド組織に安住した製造業者の場合には、多くの場合自由競争を妨げることによって自分たちの利益を守り、利己心は、社会の福祉や経済の発展に結びつかず、怠惰と浪費に繋がる。その富への道が徳への道に通ずる新興市民階級及びその活動こそがスミスにとっての人間像だった。

        (2)マックス・ウェーバーによる資本主義の精神(プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神: 中央公論社(世界の名著 ))

        マックス・ウェーバーは、近代市民社会の成長を内面から推し進めた倫理的、思想的雰囲気は、勤労、倹約、誠実、正義等の特性を統一した行動のシステム(プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神)であるとした。古来、利益を追求する商業、事業活動は各地で展開されたが、これらの活動は、近代資本主義を生み出すものとはならなかった。

        (フランクリン自伝による13の徳性‐節制、沈黙、規律、決断、節約、勤勉、誠実、正義、中庸、清潔、平静、純潔、謙譲-には、プロテスタンティズムの倫理、資本主義の精神が具体的に表れている。

        (3)石田梅岩石門心学(都鄙問答)

        近世江戸期において石田梅岩は、商人の利益は武士の禄と同じ、商人の道を知れば、私欲を離れ、正直から出た倹約が実行されるとし、商人の経済的行為の社会的意義を立論した。

        この考えの流れから、買って良し、売って良し、世間良しの商業道徳が発生した。

        (4)論語とそろばん(渋沢栄一)

        明治の経済建設・殖産興業にあたって渋沢栄一は、儒教倫理と殖産興業における経済活動の合一を唱えた。これは、論語を起源とする東洋の倫理と西洋の市場経済システムの統合を唱えたものである。

        (5)論語に現われたコンプライアンス観、富貴観(出典:現代訳論語下村湖人)

        ・論語19-先師が言われた。「法律制度だけで民を導き、刑罰だけで秩序を維持しようとすると、民はただそれらの法網をくぐるだけに心を用い、幸いにして免れさえすれば、それで少しも恥じるところがない。これに反して、徳をもって民を導き、礼によって秩序を保つようにすれば、民は恥を知り、みずから進んで善を行なうようになるものである」

        ・論語71-先師が言われた。「人は誰しも富裕になりたいし、また尊貴になりたい。しかし、正直を踏んでそれを得るのでなければ、そうした境遇を享受すべきではない。人は誰しも貧困になりたくないし、また、卑賤にもなりたくない。しかし、道を誤ってそうなったのでなければ、無理にそれを逃れようとあせる必要はない。君子が仁を忘れて、どうして君子の名に値しよう。君子は、箸の上げ下ろしの間にも仁にそむかないように心がけるべきだ。」

        (注)仁:孔子の道徳的理想、理性愛。自己抑制と他者への思いやり。「忠」と「恕」の両面を持つ。封建社会においては、上下の社会秩序を支える人間の自然的本性とされたが、近代、万人の平等を実現する相互的な倫理とみなされるようになる。

        ・論語78-先師が言われた。「利益本位で行動する人ほど怨恨の種をまくことが多い。」

        ・論語82-先師が言われた。「君子は万事を道義に照らして会得するが、小人は万事を利害から割出して会得する。」

         

        (6)菜根譚(儒仏道の倫理を集大成「明代 洪応明」岩波文庫、講談社学術文庫) 

        42-仁義の力は何物にも勝る

        富の力に対し、仁の徳で対抗し、名誉で来るならば、正しい道で対抗する。君子はもとより、他律的に型にはめられることはない。信念が固まれば天にも勝ち、志が一になれば周囲を動かすことが出来る。君子は、意志の自由を奪われることはない。朱子学から陽明学、孔孟思想の原点への復帰)

        57-学んで後に自ら実行する                                               

        書物を読んでいながら聖賢の精神に触れなければそれは文字の奴隷である。官位についても人民を愛さなければ給料泥棒である。学問を講じても実行を大切にしなければ口先だけのことである。事業を起こしても自分の利益だけを追求するのであれば、眼前の花のようなものである。(王陽明 陽明学思想)

        60-三態の富貴名誉

        道徳によって得られた富貴名誉は、自然の山や野に咲く花のように、枝や葉が自由自在に茂ってゆく。事業の成功によって得た富貴名誉は植木や花壇の花のように、人心に左右される。権力によって得た富貴名誉は切り花のように根がないので萎んでしまうのは目に見えている。

        (7)二宮尊徳に現れた持続的発展思想(寺田一清編 二宮尊徳一日一言 致知出版)

        ・遠きを謀る者、近きを謀る者(夜話)・利を計る遠近・商法の掟

        誠心・勤労・分度(分限、限度に応じ計画を立てる)・推譲他人を推薦し、自らは譲る・のため世のための志と実践)

        ・20世紀末から今世紀にかけて、人類が直面する最大の問題として「地球環境問題」がクローズアップせれている今日、二宮尊徳は、その原点を私たちに教えている。

        (8)上杉鷹山に現れた経済と道徳観(代表的日本人:内村鑑三 岩波文庫) 

        内村鑑三は、代表的日本人として、西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮上人を紹介し、東洋思想の一つの美点は、経済と道徳とを分けない考え方であるとして、特に上杉鷹山の行政改革、産業改革、社会及び道徳の改革を高く評価した。

        (9)自己利益の追求と社会利益の追求

        ①近代市場経済は、自己利益の追求が社会全体の利益を実現するという前提に立つというものでもあった。また、その中核に人間が倫理的であることを要求する社会体制である。その意味において 株主主権、企業の至上目的は利益の追求とする考えは誤りであり、グローバル経済下においてこれを主導したアメリカ型コーポレート・ガバナンス(株主最重視)は本質的矛盾を有し、21世紀の市場経済を主導するものとはなりえない。現にリーマンショックは、市場経済至上主義の破綻を示したが、世界は、その原因に遡ることなく、再び成長至上主義に陥っていないか。また、コロナウィルス・パンデミックは人類社会の活動に対する自然界のリアクションであり、広くは地球環境問題と人類の相克であろう。

        ② 翻って会社・企業体という存在を考えたときそこにはヒトとモノの二重性が存在する(岩井克人東大名誉教授)、モノとしての企業が法人(ヒト)という権利主体(社会的公器)として承認されるとき、これには社会的公器として、個人が求められる素養・倫理と同様のものが求められる株式会社という存在は、近代資本主義社会とともに発生した歴史的産物として理解されるべきであり、その存在、活動は、社会の中で位置づけがなされるものである(古くから存在し、アプリオリに未来永遠に続く存在ではない)。

        ・(参考)夏目漱石「私の個人主義」漱石は、社会的エリートの心得として、自己の個性の発展と他人の個性の尊重、自己の権力の使用とそれに付随する義務、自己の金力の使用に伴う責任を説いた。これは、人としての企業という存在の行動をも示唆するものであろう。

        (10)欧州の思想とアジアの思想の比較・違い 以上を観察すると、

        ①経営倫理問題は、決して欧米の専売特許ではないこと。

        ②欧米思想は旧来社会(アンシアン・レジーム)を否定するが、東洋思想は封建社会を否定せずそこにおける自らの存在理由を主張する。

        ③ここに近代市民革命に対する思想・対応の違いを明確に観察できる。すなわち前者は、近代市民社会をもたらす原動力となるが、後者からそれは生まれない。

        ④一方、両者を比較すると前者は絶対主義的思想といえ、後者は相対主義的思想と観察できる。

        ⑤東洋思想の方が、現代の共生方が、地球環境問題、人間の相互依存関係等「共生」の理念に通づる。一方欧米思想は自然の克服に重点をおいていないだろうか。

         

        Ⅱ 新しい経済社会関係の模索

        • 公正な市場競争

        ①「独占の禁止」、「不当な取引制限の禁止」、「不公正な取引方法の禁止」という独占禁止法の概念に新しい展開が求められている。特に、市場経済のグローバル化の中で開発途上国を含めたフェア・トレードの在り方とは何かに及ぶ。

        ②「独占の禁止」、「不当な取引制限」に比べ、「不公正な取引方法の禁止」とは何かを具体的に定義、設定することには多くの工夫が必要とされ、「下請代金遅延等防止法の絶えざる見直し」、「業種別ガイドラインの設定」、「下請け駆込み寺事業」等の政策展努力が常に求められよう。

        またDXに代表される情報社会における新しいルール作りが不可欠。(参考3参照)

         

        (2)企業と消費者、社会との新しい関係 (CSR:企業の社会的責任)

        ①コンプライアンス、企業統治と企業の社会的責任(CSR

        ②社会的責任投資(SRI)概念の登場

        ③消費者保護基本法(1968年)から消費者基本法(2004年)へ消費者の位置:保護される消費者から、自立し、社会に参加する消費者、消費者の責任‐持続可能なライフスタイルの形成‐と役割も問われる

        ④NPO法の制定(NPOは、政府の失敗、市場の失敗に対し、第3のemerging sectorとして世界的に登場した。従来、日本では公益は国家・政府が係ること、すなわち公益国家独占主義・管理主義ともいうべきものが民法の前提であった。1998年制定のNPO法-特定非営利活動促進法は、この概念を打ち破る画期性を有するものである。今日、日本では本法により、法人格を有する団体は5万を上回る存在となった。)また、この影響を受け、民法改正により、社団法人・財団法人制度が変わった、

        ⑤社会的企業、企業家への期待(ソーシャル・ビジネス、BOPビジネス)

        日本の近現代史を象徴した「坂の上の雲」、「官僚たちの夏」に代わるものとして「グローバル社会における新しい公共の形成」が求められている。

        • 地球環境問題(持続的発展思想-SDGs-、1992年 リオデジャネイロにおける国連首脳会議を一つの契機)への確たる対応

        ・環境基本法(1993年)の理念:環境の恩沢と次世代への継承、持続的発展が可能な社会の構築、国際的協調による地球環境保全

        ・循環型社会形成基本法とその実践‐拡大生産者責任と消費者責任‐

        (4)グローバル経済社会の形成、情報革命の一層の進展(AI,DX)(参考3及び4参照)

        ・グローバル経済社会の形成・進展

        ・DXに代表される情報社会における新しいルール作りが不可欠。)

        (5)少子高齢化社会、成熟社会の進展 

        ・新しい経済フロンティアの開発、市場経済システムのイノベーション

        ・中小企業活動の新展開が期待される。

        • 世代間の負担のバランス問題をどう考えるか。(公的債務の膨張、国債の乱発といった後世に対する負担の先送りとポピュリズムの問題)

        Ⅲ 企業の社会的責任(CSR)を求めた行動基準

        「社会主義経済社会」という理想の挫折、中国の市場経済化、ベルリンの壁崩壊という一連のプロセスを経て、新自由主義、市場主義原理が横行したが、これとともに企業不祥事の世界的多発化の下で、企業の社会的責任を問う内外の新しい動きが始まった。

        ①企業は、単に法規を最低限守るだけでなく、顧客、従業員、株主を超えた様々なステーク・ホルダーとの関係において社会的責任を問われることがより顕著となった。

        ②なぜ企業により多くの社会的責任が要求されるのか。今日における企業の社会的影響力の増大を考えたとき、「社会の公器」としての企業に求められる社会的責任はきわめて大きく、その成就なくして、市場経済システム、体制への支持は完全なものとはならない。

        ③企業の社会的責任は、企業の評価、パフォーマンス、業績を左右する重要な要素になりつつある(CSR&SRI)。これは、一つには環境悪化、社会的不公正、企業統治、企業の社会的責任に関する関心の高まりの結果である。企業は、顧客、従業員・メンバー、投資家・貸手、サプライヤー、競争者、地域社会、NPO等様々なステーク・ホルダーの高まる期待を受けるとともに、企業の社会的責任に対する認識と取組は、組織の名声全般、雇用者・構成委員の組織的一体性、投資家・金融界、顧客吸引力、政府、マスコミ等の判断・行動を左右する。

         

        (1) 日本経団連企業行動憲章

        ①(持続可能な経済成長と社会的課題の解決) イノベーションを通じて社会に有用で安全な商品・サービススを開発、提供し、持続可能な経済成長と社会的課題の解決を図る。

        ②(公正な事業慣行) 公正かつ自由な競争ならびに適正な取引、責任ある調達を行う。また、政治、行政との健全な関係を保つ。

        ③(公正な情報開示、ステーク・ホルダーとの建設的対話)企業情報を積極的、効果的かつ公正に開示し、企業をとりまく幅広いステーク・ホルダーと建設的な対話を行い、企業価値の向上を図る。

        ④(人権の尊重)すべての人々の人権を尊重する経営を行う。

        ⑤(消費者・顧客との信頼関係)消費者・顧客に対して、商品・サービスに関する適切な情報提供、誠実なコミュニケーションを行い、満足と信頼を獲得する。

        ➅(働き方の改革、職場環境の充実)従業員の能力を高め、多様性、人格、個性を尊重する働き方を実現する。また、健康と安全に配慮した働きやすい職場環境を整備する。

        ⑦(環境問題への取り組み)環境問題への取り組みは人類共通の課題であり、企業の存在と活動に必須の要件として、主体的に行動する。

        ⑧(社会参画と発展への貢献)「良き企業市民」として、積極的に社会に参画し、その発展に貢献する。

        ⑨(危機管理の徹底)市民生活や企業活動に脅威を与える反社会的勢力の行動やテロ、サイバー攻撃、自然災害等に備え、組織的な危機管理を徹底する。

        ⑩(経営トップの役割と本憲章の徹底)経営トップは、本憲章の精神の実現が自らの役割であることを認識して経営にあたり、実効あるガバナンスを構築して社内、グループ企業に周知徹底を図る。あわせてサプライチェーンにも本憲章の精神に基づく行動を促す。また、本憲章の精神に反し社会からの信頼を失うような事態が発生した時には、経営トップが率先して問題解決、原因究明、再発防止等に努め、その責任を果たす。 (注:これらの実施を評価するシステムを欠いている)

         

        (2) 1994年経済人コー円卓会議 道義的資本主義を提唱「企業の行動指針」を策定

        グローバル経済の進展、冷戦構造の終結への対応、保護主義に対する懸念等から日米欧経済人(フィリップス社長、ジスカールデスタン元仏大統領、賀来龍三郎キャノン社長)が道義的資本朱主義を提唱し、企業の行動指針を提唱した。その原型は米国ミネソタ原則にある。

        コー円卓会議の提案は、日米欧の経済人が来るべき21世紀の市場経済のあり方を新自由主義、シカゴ学派的市場経済原理主義(株主重視、利益、効率追求第一主義)が未だ隆盛を究めていた当時いち早く世界の企業関係者が経済社会状況の改善のため重要な役割を果たさなければならないことを確信し、提唱したところに意味がある。行動指針は、市場経済に「法と市場の拘束力を超えた企業の社会的責任(CSR)の必要性を強く認識し、「共生」と「人間の尊厳」という二つの基本となる倫理的理念に立脚したものである。行動指針は、企業活動の一般原則として次の7項目を掲げている。指針自身はシンプルなものであるが、OECD、国連等マルチの議論を促進する契機を作った意義が大きい。

        ①企業の社会的責任は、-すべてのステーク・ホルダー(顧客、従業員、株主・投資家、サプライヤー、競争相手、地域社会等)に対して及ぶ。

        ②革新、正義、グローバル社会を目指して、企業は、経済的、社会的貢献を果たさなければならない。

        ③企業行動は、法文以上の信頼精神を持ってなされなければならない。

        ④貿易摩擦の防止、より自由な貿易、平等な競争条件、関係者の公正かつ公平な処遇を促すため国際的、国内的ルールを尊重しなければならない。

        ⑤WTOその他国際協定に基づく多角的貿易体制を推進する。

        ⑥環境保全、改善、天然資源の浪費を回避し持続的発展を推進する。

        ⑦贈収賄、マネーロンダリング等不正行為の防止に努める

        (3) カナダ企業の国際的倫理綱領
         ( ビジョン)カナダ企業は、すべてのステーク・ホルダ-によってあらゆる当事者に経済的に報いるものとして認識され、倫理的に社会的に環境的に責任ある主体として認められ、事業を展開しているコミュニティによって喜んで受け入れられ、そしてまた安定したビジネス環境のもとで経済資源や人的資源およびコミュニィの発達を促進する、グローバールな存在である。
        ( 信 念)我々は以下のことを信じる。
        ・我々が、我々の影響を及ぼす範囲内で、今までとは(ステーク・ホルダ-に対して)異なったことを実施できること、
        ・ビジネスは倫理的なビジネス原則の確立を通してリ-ダ-シップを発揮すべきであること、
        ・国家は、自らの国権に従って、政治・法律問題を処理する権利を持っていること、
        ・すべての政府は、自らが関与している(人権や社会正義の領域を含む)協約や協定を遵守すべきであること、
        ・文化的多様性と相違を考慮しつつも、我々がカナダで展開しているビジネスのやり方と同じやり方を世界中で展開すべきであること、
        ・ビジネスセクタ-は倫理的リ-ダ-シップを発揮すべきであること、
        ・冨の産出と同時に経済的便益の公平な分配が可能であること、
        ・我々の原則がカナダ政府と受入国の政府の関係の改善を促進するようになること、
        ・オ-プンで正直でガラス張りの関係が我々の成功に不可欠なものであること、
        ・ロ-カル・コミュニティに影響を与える問題に関して、彼らをその意思決定に関与させることが必要であること、
        ・効果的な解決方法を探す場合には、マルチ・ステーク・ホルダ-・プロセスが要求されること、
        ・対立は外交によって和らげられるべきものであること、
        ・すべてのステイーホルダ-の冨を最大なものにするという課題は人権や社会正義といった最高の解決方法で促進されるものであること、
        ・他国とビジネスをおこなうことはカナダにとって良いことであり、相手国にとっても良いことであること。
        ( 価 値)我々は以下のものを尊重する。
        ・人権と社会正義
        ・すべてのステーク・ホルダ-の福祉を最大限向上させること
        ・自由市場経済
        ・賄賂の授受や汚職を生み出すことのないビジネス環境
        ・政府が公的に説明をおこなう責任
        ・機会の平等
        ・明確に定められた倫理綱領とそれに従ったビジネス実践
        ・環境の質の保護と健全な環境スチュワードシップ
        ・コミュニティの便益
        ・ステーク・ホーダ-との良好な関係
        ・現在の環境のなかで安定的にかつ持続的に進歩していくこと
        ( 原 則)
        1.コミュニティ参加と環境保護に関して、我々は以下のことをおこなう。・我々の影響が及ぶ範囲内で、我々の活動によって影響を受けるステーク・ホルダ-が公平に便益を享受できるように努めること、
        ・良き企業市民として、すべてのステーク・ホルダ-と充分にかつ「ガラス張り」的に相談し、企業活動をロ-カル・コミュニテイへと統合するように努めること、
        ・我々の活動が健全な環境マネジメントや環境保護実践と矛盾しないようにすること、
        ・受入国に対して、技術協力、訓練、生産能力の開発への充分な機会を提供すること。
        2.人権に関して、我々は以下のことをおこなう。
        ・我々の影響が及ぶ範囲内で国際的な人権を支持し、その保護に努めること、
        ・人権の虐待に連座しないこと。
        3.ビジネス実践に関して、我々は以下のことをおこなう。
        ・違法なまた不正な支払いや賄賂の授受をおこなわず、汚職に巻き込まれるようなビジネス行為を避けること、
        ・法律を遵守し、「ガラス張り」を旨として事業を展開すること、
        ・契約者、取引業者、エ-ジェントの活動がこれらの原則と矛盾しないようにすること。
        4.従業員の権利、健康そして安全に関して、我々は以下のことをおこなう。・労働者の健康を保証し、安全が保護されること、
        ・社会正義のために闘い、労働現場における結社と表現の自由が促進されること、
        ・児童労働者の搾取に関連した基準を含めて、ユニバ-サルに受け容れられている労働基準と抵触しないようにすること。
        【適用に関して】
        この文書に署名したものは、それぞれの企業において、ここに述べられているビジョン、信念、価値および原則と矛盾しないような綱領を作成しその内容を日々の実務のなかで実践するものとする。 《注》この倫理綱領は、1997年9月5日に、カナダ政府の外務・国際貿易省によって公布されたものである。[出典]Williams,O.L.(ed.),Global Codes of Conduct : An Idea Whose Times Has Come,University Notre Dame Press,2000,pp.322-324.

        (4) 国連グローバル・コンパクト

        1999年国連コフィー・アナン事務総長は、ダボス会議(国際経済フォラム)において国連グロー

        バル・コンパクトを提唱した。これは、世界人権宣言、就業の基本原則に関するILO宣言、環境と開発に関するリオ宣言に基づき以下の10原則を、グローバル社会において展開される企業の行動原則として掲げたものであり、参加者の自発的イニシャティブによる実施を求めるものである。2000年に国連本部において正式に発足し、都合のよい隠れ蓑にならないよう2000以上の企業、労働組合、市民組織のネットワークによって、運営が担保されている。

        ①人権 原則1:国際的に宣言されている人権の保護を支持、尊重し、 原則2:自らが人権侵害に加担しないよう確保すべきである。

        労働基準 原則3:組合結成の自由と団体交渉の権利の実効的な承認を支持し、 原則4:あらゆる形態の強制労働の撤廃を支持し、 原則5:児童労働の実効的な廃止を支持し、 原則6:雇用と職業における差別の撤廃を支持すべきである。

        環境 原則7:環境上の課題に対する予防原則的アプローチを支持し 原則8:環境に関するより大きな責任を率先して引き受け、 原則9:環境に優しい技術の開発と普及を奨励すべきである。腐敗防止 原則10:強要と贈収賄を含むあらゆる形態の腐敗の防止に取り組むべきである。

         

        (5) EU(欧州連合)におけるCSR概念の共有

        冷戦の終結、市場経済の国際的展開により、ビジネスの可能性が広まる一方、社会的統合・安定性、民主社会における福祉の実現のために企業活動に新たな自制と動員が求められるとして、EUは、欧州実業界に対し、持続的発展、成長と雇用、企業の社会的責任(CSR)へのコミットメントを求めている。

        CSRは法令や協約義務を超えて、社会面、環境面の関心事項をビジネス活動に一体化させるものと定義し、その実施はあくまでもビジネス界の自主的活動であることしている。しかし一方において、CSRは公共政策に代替するものではないが、これを補完、これへの貢献に言及し、CSRを実効あらしめるために、EU委員会としてステーク・ホルダーを含めた関係者のプラットホーム(マルチ・ステークホールダー・フォラム)を設定するとともにEU企業に対しCSRの世界的先導役となることを期待している。

        ⓷世界のビジネス界、特に日米財界においては、市場活動におけるフリーハン

        ドを確保するためCSRに対し政府の関与に警戒的であるのに対し、EUにおいては、従来型市場経済とそれを前提とした企業活動のコンセプトを一歩高める動きを志向していることが観察される。CSRに関し、公的関わりを社会が受け入れている。英国はCSR担当閣外相を設置している)

         

        (6) 国際標準化機構(ISO)によるCSR(SR)(参考1参照)

        ①CSRに関する世界的関心の増大を背景として、ISOは2004年国際的ガイドラインの策定に着手し、2010年にこれを決定した。検討にあたって、産業界、労働界、消費者、政府、NGOの参加を求め、①法令順守②国際ルールの尊重③説明責任④透明性⑤持続可能な発展⑥倫理的行動⑦予防アポローチ⑧基本的人権の尊重⑨多様性の尊重に関する規格(ISO26000)設定を試みた。

        本規格は、企業の自主的行動を原則とし、ISOの認証を目指すものではないが、規格の普及、実効性を確保するためには、企業自身によるプレッジ、第三者評価システム等が俎上に上ってくることも予想される。なお、検討の過程において、この規格は企業に限らず、あらゆる組織を念頭においた社会的責任に一般化されている。

         

        (7)持続可能な開発目標(SDGs)-2015年国連総会で採択された未来の形17目標(参考2参照)

         

        以上、国内、国際面におけるCSR基準例、これをめぐる動きを紹介したが、特にこうした国際的動きは、主権国家とその下における企業活動という従来のコンセプト、行動様式を超える新しい潮流であり、グローバル社会の展開、情報通信技術の普及、発達と相俟って、市場における企業活動、市場経済自体のコンセプト、内容の高度化が期待される。

         

        Ⅳ 企業の社会的責任 経営のなかでの一体化

        (1) 実際の企業はこれをどう展開すべきか。多くの企業行動原則を概観すると、企業の社会的責任は、法令や協約を超え、社会的側面、環境的側面を企業活動と如何に一体化するかにかかっていることが理解される。マイケル・ポーター教授(ハーバード大学ビジネススクール)は、今日における企業の社会的責任(CSR)として、「企業の社会的責任とは、社会の課題を企業活動に統合すること」であると述べており、世界的食品企業ネスレの活動に高い評価を与えている。

        (2)ネスレの共通価値創造のフレームとアプローチ

        ・短期利益の追求でなく長期的視野に立った事業を展開する

        ・急激に変化する市場と事業活動において、新たな技術開発を継続的に実施する

        ・直接的事業に限らず、ネスレが影響を与え、リーダーシップを有する課題に対し、協力して持続的発展を促進する

        ・持続続的発展の可能性に重大な影響をもつリスクとチャンスを理解し、これを見極めたうえで事業に取組む

        ・財務、環境、社会面における明確な目標を設定し、共通価値を生出すため、ビジネスパートナーやステーク・ホルダーとともに取組む(環境対策、人材養成、農村開発、製品開発についての評価指標が開発され、パフォーマンスが公表されている)

        ・あらゆる取組みに対し、統治とマネジメントシステムを強化する

        ・正式な企業統治機構を組織化し、その活用を図る

        ・事業展開する国での確固たる地位を確立し、その国の地域性や文化を理解する

        ・ネスレの原則と規範をすべての国に適用する

        ・責任を果たし、アラウンタビリティを確実にする

        ・監査制度と保証基準を通じて原則と方針の適用を確実にする

        ・ステーク・ホルダーと積極的に対話する等々

         

        (3) 日本からの発信

        マイケル・ポーターは、世界的に存在感の大きい日本企業のこの面での遅れを指摘しているが、わが国においても、「オリセットネット事業を通じたアフリカ支援」をはじめ各地においてCSRの最先端を黙々と進めている企業群がある。その代表例を「日本でいちばん大切にしたい会社」(坂本光司法政大学教授)による調査・紹介事例に見ることができる。(教授はCSRの優先順位を以下におく。①社員とその家族を大切に②外注先・下請企業を大切に③顧客を幸せに④地域社会を幸せに⑤自然に生まれる株主の幸せ)

        (日本で一番大切にしたい会社)

        • 日本理化学工業社:障害者雇用において他の企業に見られない比率の雇用

        を実現し、高い職場モラルと企業実績を有する企業

        • 伊奈食品工業社:社員の幸せを企業活動の至上理念に掲げ、斜陽産業-非

        長産業の中で持続的成長(成長の種まきを怠らない、無理な成長を追わない、自分で考え、創り、売る、オンリーワン企業、社員のモティベーション、下請企業との共存共栄、経営者の責任を達成した企業

        ③中村プレイス株式会社:人を支え、本当に必要とされる製品(医療福祉介護機器)を作る過疎地の企業活動

        ④株式会社柳月:地域社会に生き、人と人、心と心を結ぶ経営を貫く菓子製造業介

        ⑤杉山フルーツ店:商店街の斜陽化にもかかわらずあなたの客で本当に良かったといわれる果物店

         

        (4) 松下幸之助 実践経営学

        ①経営理念の確立、②生成発展、③人間観を持つこと、④使命の正しい認識、④自然の理法に従う、⑤利益は報酬、⑤共存共栄、⑥世間は正しい、⑥必ず成功する、⑥自主経営、⑦ダム経営、⑧適正経営、⑨専業に徹する、⑩人材養成、⑪衆知の結集、⑫対立しつつ調和、⑬経営は創造、⑭時代の変化に即応、⑮政治に関心、⑯率直な心

        ・経営者たる人は、みずからの人生観、社会観、世界観というものを常日頃から涵養していくことがきわめて大切だ。さらにいえば、正しい人生観、社会観、世界観というものは、真理というか、社会の理法、自然の摂理にかなったものでなくてはならない。もし、それに反するようなことであればそれは真に正しい人生観、社会観、世界観とはいえないし、そこから生まれてくる経営哲学も適切さを欠くものになってしまう。

        ・経営理念というものは、その活用に仕方にはその時々の情勢によって多少の変化はあるであろうが、その基本においては永遠不変といっていいと思う。いいかえれば、人間の本質なり自然の摂理に照らして何が正しいかということに立脚した経営理念というものは、昔も今も将来も、また、日本においても外国においても通じるものがある。

        • 松下の経営哲学は、石田梅岩の流れをくむものといえようが、今日中国企業を訪ねると董事長、総経理の書棚にその中国訳を随所に見ることができる。また、近時、京セラの創始者稲盛和夫氏の著作(生き方等)も中国語に翻訳されるとともに盛和塾が各地に展開されている。こうした現象は、市場経済化が進む中国で、行き過ぎた拝金主義の反省として、儒仏道の思想に原点を訪ねる動きと解することができる。

         

        (5)稲盛経営学(フィロソフィ4要素)

        1つめは、「会社の規範となるべき規則、約束事」
        この会社はこういう規範で経営をしていきますという、企業内で必要とされるルール・モラルが要素

        2つ目は、「企業が目指すべき目的、目標を達成するために必要な考え方」
        企業が目指すべき、高い目標を達成するためにどういう考え方をし、またどういう行動をとらなければならないのかということを具体的展開

        3つめは、「企業にすばらしい社格を与える」
        人間に人格があるように企業にも人格がある。会社の人格、つまり「社格」が大変立派であり、世界中から「さすが立派な社格を備えた会社だ」と信頼と尊敬を得るための考え方

        4つ目の要素(それらのベースとなる大切なもの)

        「人間としての正しい生き方、あるべき姿」を示すという要素。私たち一人一人が、より良い人生をおくるために必要な人生の真理を表現。

        このような4つの要素から成り立つフィロソフィは、知識として理解するのではなく、日々の仕事や生活において実践していくことが何よりも大切。その実践に向けた弛まぬ努力が、その人の心を高め、人格を磨く。そのようなフィロソフィを共有した人たちが集う集団には、夢と希望にあふれる明るい未来が必ずやひらけることを、私は確信している。

        (6)CSRは、企業行動基準を一方におき、他方に企業活動を置くものでなく、如何に企業行動基準を事業活動の中(企業経営理念、企業経営ビジョン、企業経営計画)で具体的に展開するかにかかっている。

        ポスト産業資本主義社会における「組織社会の性格、組織の社会的責任」を銘記し、CSRと経営者の役割を「経営理念、経営方針、経営計画」のなかで展開してみよう。ここでは、中小企業家同友会参加の企業経営者の活動及び同会経営指針作成の手引き等を参考としつつ、私の見解を述べることとする。

        • 経営理念の見直し、確認 (社会性、科学性、人間性に立脚しているか)

        ・経営する明確な目的と価値観を再確認、

        ・関係するステーク・ホルダーとの接点の確認

        • 経営方針の確立

        (ステーク・ホルダーとの関係の確認及び具体化

        ・顧客(成熟社会、生活中心主義、地球環境の視点から見た顧客の存在)

        ・従業員(女性雇用、高齢者雇用、育児出産休暇等を含め、高齢化社会・成熟社会への対応、ワークライフバランスの確保)

        ・取引先企業バリュー・チェーンを見て、サプライ・チェーン全体としてのウィン・ウィンゲームの構築、公正な取引というベストプラクティスの形成)

        ・株主・投資者(特に社会的責任投資‐SRIの視点に立つ投資者とのコミュニケーション)

        ・金融(事業活動に対する理解と信頼の形成、リレーションバンキンングの確立)

        ・競争企業等(公正な競争と共存共栄関係の構築)

        ・地域社会との関係を再構築(地域住民、都市計画と商店街、産業クラスター、産学官関係等)

        ・国際社会との関係を吟味・展望(政治的経済的環境、市場、情報等)

        ・行政、NPO、マスコミとの関係(コミュニケーション、協力関係の構築、情報開示・提供等)

        (事業展開-方向と目標)

        ・商品・サービス双方の市場領域、技術的条件の見極め(市場のニーズ、循環型社会形成等)

        ③経営戦略・経営計画の策定

        ・経営方針を具体化する戦略・計画への展開

        ・これを実施する内部組織の構築

        ・サプライチェーンの連携、供給と消費を結ぶ連携についての制度設計

        • 的確な経営管理による上記事項のフォロー、次のステップを模索(経営革新の継続)
        • Plan-Do-Check-Action

        ⑥経営環境の絶えざる把握(経営環境、経営力評価)

        マクロ環境(内外経済環境・動向)・ミクロ環境(内外市場環境・動向)・技術環境・動向

        ⑦自社の経営資源に対する評価、吟味

        ・技術条件(製品開発・製造技術)、マーケット条件

        ・自社経営資源の確認、見極め(人材、資本・資金、技術‐製品開発力、製造技術等‐、マーケティング力)とマネジメント・組織体制の構築

        ・これを補完する事業連携の模索と連携システムの構築(企業間、大学、学校・研究所、病院、消費者、マスコミ等)

        ⑧経営者の役割(リーダーシップと責任)

        ・社内における経営理念、方針、経営戦略・計画の共有

        ・理念・方針・計画の市場、社会への発信、市場、社会からのリアクションの確認

        ・従業員が生き生きと働ける条件整備(企業活動と従業員の実存との一体化、ワークライフバランスの形成)

        Ⅴ 企業の社会的責任に関する参考諸論

        (1)ヒポクラテスの誓い(職業倫理) 出典:岩波文庫 小川鼎三訳

        ・医神アポロン、アスクレピオス、ヒギエイア、バナケイア及びすべての男神、女神に誓う、私の能力と判断に従ってこの誓いと約束を守ることを。

        • この術を私に教えた人をわが親のごとく敬い、わが財を分かって、その必要あるとき助ける。
        • その子孫を私自身の兄弟のごとくみて、彼らが学ぶことを欲すれば報酬なしにこの術を教える。そして、書きものや講義その他あらゆる方法で私が持つ医術の知識をわが息子、わが師の息子、また医の規則と誓いで結ばれている弟子どもに分かち与え、それ以外の誰にも与えない。
        • 私の能力と判断の限り患者に利益すると思う養生法をとり、悪くて有害と知る方法を決してとらない。
        • 頼まれても死に導くような薬を与えない。それをお覚えさせることもしない。同様に婦人を流産に導く道具を与えない。
        • 純粋と神聖をもってわが生涯を貫き、わが術を行う。
        • 結石を切り出すことは神にかけてしない。それを業とするものに任せる。
        • 如何なる患家を訪れる時もそれはただ病者を益するためであり、あらゆる勝手な戯れや堕落の行いは避ける。女と男、自由人と奴隷を考慮しない。
        • 医に関すると否とにかかわらず他人の生活について秘密を守る。
        • この誓いを守り続ける限り、私は、いつも医術の実施を楽しみつつ生きてすべての人から尊敬されるであろう。もしこの誓いを破るならばその反対の運命をたまわりたい。

        (注)天使の堕落

        ①ヒポクラテスの誓いは、職業林倫理の源流ともいうべきものであり、企業は社会の公器といわれる今日、企業、経営倫理を考える原点ともいえよう。

        ②しかし、私たちは、古今東西の歴史の中で、素晴らしい理念がいとも簡単に崩れていく多くの歴史を知っている。ここにその一例を示し、企業、経営倫理の永続性を如何に図るかの指針としたい。

        ・キリスト教思想とローマ教会支配(原始キリスト教徒、宗教改革、欧州リベラル思想)

        ・近代市民革命による人権思想、平等思想と帝国主義による侵略

        ・社会主義思想とスターリン主義、ベルリンの壁崩

        ・中国革命と大躍進、文化大革命

        ・社会主義理念とノーメンクラチュールの特権 等々

        ・(ジョージ・オーウェルは、「動物農場」、「1984年」において、独裁国家権力による市民社会・生活の抑圧を批判)

         

        (2)我が信条(Our Credo)

        ジョンソン・エンド・ジョンソン(医療、薬事を営む米国会社)のたゆまない歩みの礎となり、絶えず適切な方向へと導く源泉となってきたものが、ジョンソン・エンド・ジョンソンのコア・バリューである「我が信条(Our Credo)」です。ジョンソン・エンド・ジョンソンの企業理念・倫理規定として、世界に広がるグループ各社・社員一人ひとりに確実に受け継がれており、各国のファミリー企業において事業運営の中核となっています。

         

        我々の第一の責任は、我々の製品およびサービスを使用してくれる医師、看護師、患者、そしてすべての顧客に対するものであると確信する。顧客一人一人のニーズに応えるにあたり、我々の行なうすべての活動は質的に高い水準のものでなければならない。適正な価格を維持するため、我々は常に製品原価を引き下げる努力をしなければならない。顧客からの注文には、迅速、かつ正確に応えなければならない。我々の取引先には、適正な利益をあげる機会を提供しなければならない。

        我々の第二の責任は全社員 ――世界中で共に働く男性も女性も―― に対するものである。社員一人一人は個人として尊重され、その尊厳と価値が認められなければならない。社員は安心して仕事に従事できなければならない。待遇は公正かつ適切でなければならず、働く環境は清潔で、整理整頓され、かつ安全でなければならない。社員が家族に対する責任を十分果たすことができるよう、配慮しなければならない。社員の提案、苦情が自由にできる環境でなければならない。能力ある人々には、雇用、能力開発および昇進の機会が平等に与えられなければならない。我々は有能な管理者を任命しなければならない。そして、その行動は公正、かつ道義にかなったものでなければならない。

        我々の第三の責任は、我々が生活し、働いている地域社会、更には全世界の共同社会に対するものである。我々は良き市民として、有益な社会事業および福祉に貢献し、適切な租税を負担しなければならない。我々は社会の発展、健康の増進、教育の改善に寄与する活動に参画しなければならない。

        我々が使用する施設を常に良好な状態に保ち、環境と資源の保護に努めなければならない。

        我々の第四の、そして最後の責任は、会社の株主に対するものである。

        事業は健全な利益を生まなければならない。我々は新しい考えを試みなければならない。研究開発は継続され、革新的な企画は開発され、失敗は償わなければならない。新しい設備を購入し、新しい施設を整備し、新しい製品を市場に導入しなければならない。逆境の時に備えて蓄積を行なわなければならない。これらすべての原則が実行されてはじめて、株主は正当な報酬を享受することができるものと確信する。

         

        (3)社会的共通資本(宇沢弘文教授):社会的共通資本とは、自然資本、社会資本、制度資本をいい、その管理・運営は、市場機構に委ねるのではなく、フィデシャリィ(fiduciary)の原則に基づき、それぞれの分野の専門的知見に基づき、専門的規律に従い管理・運営される。

         

        (4)ガンジー「現代社会における7つの大罪」

         原則なき政治  道徳なき商業  労働なき富  人格なき学識(教育)  人間性なき科学  良心なき快楽  献身なき信仰    

         

        (5)ヴィジョナリーカンパニー ジェームズ・C.コリンズ&ジェリー・I.ポラス(日経BP社(1994年1版200836版))

        12の崩れた神話

        ①素晴らしい会社を始めるには素晴らしいアイディアが必要

        (スタートで遅れても長距離レースに勝つことが多い)

        • ビジョンを持った偉大なカリスマ的指導者が必要

        (偉大な指導者になるよりも長く続く組織を作り出すことに力を注ぐ人が必要)

        ③成功している企業は、利益の追求を最大の目的としている

        利益を得ることも目的の一つにしているが単なる金儲けを超えて基本的価値や目的といった基本理念も同様に大切にされている)

        ④共通した正しい基本的価値観がある

        基本的価値観に正解はなく、理念を如何に信じ、実践されることが重要)

        ⑤変わらない点は変わり続けることだ

        (基本理念を維持し、変化に適応する

        ⑥優良企業は、危険を冒さない

        (人を引き付け、前進させる勢いのあるものであれば社運を賭けた大胆な目標にも挑む)

        ⑦誰にとっても素晴らしい職場である

        (基本理念と高い要求に合う者にとってだけ素晴らしい職場である)

        ⑧大きく成功している企業は、綿密で複雑な戦略をたてて、最善の動きをとる

        (大量のものを試し、うまくいったものを残す方針の結果であることが多い)

        ⑨根本的変化を促すには社外からCEOを迎えるべきだ

        (根本的変化と斬新なアイデアは社内から生まれないという一般常識は繰り返し崩れている 社外CEOは少ない)

        ⑩最も成功している企業は、競争に勝つことを第1に考えている

        (明日は如何すればよいか、今日よりうまくやれるかを厳しく問い続けた結果である)

        ⑪二つの相反することは、同時に獲得することは出来ない

        ORを抑圧せずANDの才能を大切にする、AとBの双方を大切にする考え)

        ⑫経営者が先験的な発言をしているからだ

        基本理念を生かすために何千もの手段を使う終りのない過程をとっており、これが第一歩に過ぎない)

         

        (6)リン・シャープ・ペイン

        「バリューシフト 企業倫理の新時代」(2004年毎日新聞社)本質的に財務面しか見ていなかった従来の測定基準とは違って今日の企業のパフォーマンス基準は変わってきている。新しい基準が何故に生じてきているかを辿ると前世紀の大きな進展とここ数年の特に大きな進展を経て、企業という存在が世界的に広まり、成長してきたことに行き着く。自由化、民営化、グローバリゼーション、知識と技術の進歩―――これらが総合されて企業の重要性を高め、企業のパフォーマンスへの新しい期待を生み出した。かつては資本をプールするための便利な手段としか考えられてなかった企業が、社会における能動的な存在とみなされるようになったのだ。今日の一流企業に期待されていることは、富の創造、優秀な製品とサービスの提供ばかりではない。「道徳の行為者」としての行動、すなわち責任の主体として、道徳的な枠組みの範囲内で事業を運営することも求められている。―――今日の社会は道徳的な人格を企業に付与しているのだ。

         

        (7)金融の社会的責任 

        ベルリンの壁崩壊に伴うグローバル経済の進展、市場主義指向が強まる中で、実体経済をサポートする役割を担う金融が、凧糸が切れたようにこれから遊離・膨張し、その破綻によって逆に実体経済に大きなダメージを与えている。この主客転倒の関係を正常化する知恵と方法はないものであろうか。

        もの造りの世界では、製造物責任法によって、製造物の欠陥により、生命財産に被害を与えた場合、製造業者はその損害賠償の責を負う。地球環境問題に発端する循環型社会形成基本法は、拡大生産者責任という新しい概念によって設計、生産、消費、廃棄の段階に及ぶ生産者の責任を規定した。また、農産物の安全性に関し問題が生じた際は、生産者に遡るトレイサビリティが求められている。

        社会的共通資本(宇沢弘文教授)としての金融システムについては、金融商品の売出しに対し、その責任を如何なる制度設計、ルール化によって求めるべきなのか。

        公的資金導入に当たっては、「銀行を救うのではない。金融システムを救済し、経済全体への悪影響を排除するのだ。」という常套説明がなされるが、ウォール街の連中がうみだした失態を救うため、何故にわれわれの血税が使われなければならないのかという米下院の最初の反応は、正当なものであった。しかし、世界経済への波及が止まない状況の中で、米国のみならず各国政策当局の協力によって最悪の事態が回避されつつあることは、相互依存関係が増す国際協調としては正しい。

        サブプライム問題に端を発する今次の国際金融システム不安に当たっては、単に当面のリスク対応をもって事たれりとするのではなく、二十一世紀の市場経済を構成する社会的共通資本としての金融システムの制度設計・構築、経営者の責任のあり方を具体化する本格的検討を始めなければならない。   (筆者寄稿 共同通信より各地方紙「経済展望台」等に配信 2009年1月)

         

        (8)経営学の新しい課題 

        「地球環境問題」と「拡大する世界の貧困問題」は今日の世界が直面する二大課題である。国連環境開発会議(地球サミット、1992年)、温暖化防止京都会議(97年)国連ミレニアムサミット(2000年)、ヨハネスブルグでの環境・開発サミット(02年)、一連のCOPなどでの議論が展開されている。問題の具体化に向けては一層の取組みが必要だ。

        企業はこの二大課題の一大当事者だが、これに対する経営学やビジネススクールの役割はどこに求められるのであろうか。

        20世紀初頭米国に端を発したビジネススクールとそれに伴って発展した経営学は、現在、各国でその存在感を高めている。ただ、経営学やビジネススクールは、この二大課題の重要性を十分認識し、それに基づいた問題提起や提言を行っているとは言い難い。

        一方、企業の社会的責任(CSR)を問う議論は、年々高まっている。日本経団連の企業行動憲章、日米欧の財界人による「経済人コー円卓会議」などにその成果を見ることが出来る。

        8月下旬、米国ビジネス倫理学会に参加する機会を得たが、ここでも、企業の社会的責任、ビジネス倫理の中で環境と貧困に関するさまざまな議論が展開された。

        市場経済システムが、世界を包摂しつつある現在、経営学は、他の諸科学との連携の下に現代世界が抱えるこの問題に大きく貢献することが求められていることを痛感した。

        今後、学会のほか、経済界や消費者、NGO(非政府組織)、政府、国際機関などで議論が更に広がり、企業経営でも、環境と貧困の問題解決に向けた実践的活動が展開され、成果が結実するよう期待したい。(筆者寄稿 共同通信より各地方紙「経済展望台」等に配信2008年8月)

         

        (9)新しい資本主義を語る 徳間書店2009(ビル・ゲイツ発言の要点)

        ①今日の市場経済システムは、需要にのみ対応し、ニーズに対応していない。市場経済システムには不備がある。②この不備を改善するためには、さらなる技術革新よりもシステムの改革が必要である。③世界はよくなりつつあるが、その進歩の速度には満足できない。④純粋な資本主義システムは貧しい人のために働こうとするインセンティブが低い⑤自分の利益を追い求めるのは、人間に備わった二つの本質的力の一つに過ぎず、もう一つの力とは他人を思いやる力である。⑥創造的資本主義とは、その両者を同時に刺激するシステムである。

         

        10)市場経済原理主義、功利主義から新しい公共哲学へ公共哲学(マイケル・サンデル ちくま学芸文庫) 

        リバタリアニズム(自由至上主義:人間は他者の権利を侵害しない限り、自由という基本的権利を持つ:善の価値判断をせずに万人に共通する権利(正義)を論理的で普遍の命題として前提におく)の哲学から時代は、コミュニタリアニズム(共同体主義:人間は社会の一員として生まれ、生きる。ゆえに全くの自由を持たない。善が正義に先行する:個別具体的状況の社会的関係性の中で、生き方(善の価値観と目的)を問う)の哲学へ移行しているのではないか。

         

        11)知識創造経営のプリンシプル-賢慮資本主義の実践論(野中郁次郎東洋経済新報社)

        大転換期の経営を考える

        20世紀の経営は過去のものとなった。にもかかわらず、日本企業の変化の足取りは遅い。まだ、次の時代の姿が見えてこないことも大きな理由だ。

        これまで経営学のモデルは、競争戦略でも組織戦略にしても、一企業の利益の最大化を目的としたものが多かった。しかし、今や国内外の企業との調和や社会との関係性を抜きにしては経営が語れなくなっている。市場原理主義に対しての、「場‐関係性」から構成されていく社会的信頼や共同体の復権という問題につながるといえる。

        知識創造経営を21世紀の文脈に位置づける

        第1期:人間的要素の重要性を認識

        第2期:知識共有から知識創造へ そのための「場」の概念の登場

        第3期:経営全体の革新の試みとの結合

        これまでの論理分析的な戦略論や組織論の限界及び日本的経営についての限界ついて認識

        次世代資本主義=21世紀資本主義=賢慮の資本主義

        従来の米国式経営(学)はアカデミックな研究と実践とを分離してしまう演繹的傾向

        本書は実践という視点から再構築(リーマンショックと米国式資本主義、中国の計画経済的資本主義、欧州の保護主義的資本主義でもない新しい資本主義の模索)

        Prudence(分別・思慮)-based capitalism(人間中心の精神・価値観に基づいた経済・経営)

        賢慮(共通善実現のための知恵)に基づく資本主義

        直面するのは、従来型経営の分野(経営学、戦略論、組織論)だけでは解けない問題、産業構造や都市、コミュニティ問題、教育・環境問題等社会問題の認識に立った視野が不可欠

         

        12)フィリップ・コトラー 私の履歴書(日本経済新聞201312月から抜粋要約)

        企業の社会的責任-物質主義、自己主義を戒め-

        ローマクラブ成長の限界を読み「マーケティングに携わる人間は自らの活動が世界の資源等社会に及ぼす影響についても責任感を持つべきだ」と強く思った。こうした考えを深く発展させるために企業が社会に対してどのような活動をすべきか、企業の社会的責任(CSR)の研究に取り掛かることにした。・・・私と同じ考えを持つ研究者も多数登場した。ステークホルダー(利害関係者)という言葉を広めたエドワード・リーマンが提唱した道義的責任の思想だ。「この国は余りにも物質主義と自己中心主義に偏りすぎた。企業には魂が必要だ」。これこそCSRの本質をついていた。・・・IBM、マイクロソフト、マクドナルド等主要企業25社にインタビューを行い、「社会的責任のマーケティング」(2005年)を出版した。・・・つまるところ、「他人の役に立つというのはそれだけで行動を起こす立派な理由である。効果を金銭的に図る必要はない。日本には「情けは人の為ならず」という諺がある。

        富と貧困-貧しい50億人にもっと目を-

        富裕層は近視眼的になりがちで、プール付きの豪邸の外に思いを走らせる人は少ない。彼らは富を不相応にかき集めることが、自らのクビを占めることを理解していないのだろうか。富の偏重は結果として中産階級の購買力を低下させ、消費需要は横ばいか減少させる。雇用も減る。国民の不満が募り、それが怒りとなることは否定できない。これはニューヨークウォール街で起きた「ウォール街を占拠せよ」のデモが象徴している。社会変革を目指すもっと過激な運動に発展するかもしれない。・・・視線は富に集まりそうであるが、貧困についてはどうだろうか。マーケティングの世界では顧客の役に立つことの重要性を強く訴えているにも関わらず、世界人口の70億人の顧客のうち注視してきたのは、わずかの大富豪、富裕層、中産階級など約20億人だ。残りの50億人に目を向けるべきだというと多くのマーケティング関係者は、「貧困層はお金を持っていない」「貧困層を相手に商売しても利益は出ない」という言訳に終始している。空気が変わったのは、2004年経営学者のK・C・プラハードが著書「ネクスト・マーケット」で貧困層の手が届くような安価な製品やサービスを作るよう訴えたのがきっかけだ。わが意を得たりだ。何の変哲もない製品が高いのは、ブランド維持や広告に金をかけすぎているからだ。企業の意識も変わり始め、貧困層に目を向けるところが現れた。貧困から抜け出す処方箋を提示した。「アップ・アンド・アウト・オブ・ポバティ」(邦訳:コトラー・ソーシャル・マーケティング)を同僚ナンシー・リーと09年に出版した。

        平和:資本主義をさらに磨く-「普遍的人権支援」の一翼を担う-

        今米国に必要なのは、すべての世界でより良き社会を実現する推進力となることである。その目は出てきている、米国では、「コンシャス・キャピタリズム(意識の高い資本主義)」

        という言葉を学者や経営者が口にするようになっている。利益追求だけでなく飢餓、貧困、栄養失調の解消などあらゆるステーク・ホルダーの心を動かす高邁な目標を掲げる社会のことだ。・・・過去の売らんかなの時代の反省をも含めて、マーケティングの世界でも新たに「2つのP(ピープル=人、プラネット=惑星)」を意識し、社会をよい方向に変革させるためにソーシャル・マーケティング、NPOマーケケティングを提唱してきた。こうした考えが、多くのビジネス・リーダーに変革をもたらす運動になるか判断するのは時期尚早であるが、意識の高い企業文化を持つ経営陣と話していくうちに「資本主義は、正しい選択であり、私たちは資本主義をさらに優れたものにしていく必要がある」という前向きな気持ちになった。現在新しい研究として資本主義の再考と解決策につき執筆中だ。・・・第3代米国大統領トーマス・ジェファーソンの思い描いた米国は「軍事力でなく倫理力を通じて諸外国の普遍的人権を支援するモデル国家」だったはずだ。そこには、マーケティングが世界の平和と繁栄を実現する役割を担う余地が十分にある。

         (総括)

        近代市場経済システム、その担い手たる企業は、富の蓄積、生活の向上の面で大きな成果を挙げてきた。しかし、他方において、貧富の格差拡大、地球環境問題の発生、幾多の戦争、産軍複合体の形成等後世に対し、多大な負の遺産も形成している。こうした課題解決のためには、従来の市場経済至上主義では対応できない状態に陥っている。企業を中心とする市場経済システムを永続させるための具体的展望を描くことが出来るか、現代人の対応が迫られている。

         

        (参考1 ISOのCSR)

         

        (参考2SDG17目標(2015年国連会議で採択)

         

        「国連SDGs-2030年を目指した持続的発展17目標」(2015年国連サミットにおいて合意)

        1.貧困をなくそう 2. 飢餓をゼロに 3. すべての人に健康と福祉を 4. 質の高い教育をみんなに 5. ジェンダーの平等を実現しよう 6. 安全な水とトイレを世界中に 7. エネルギーをみんなにそしてクリーンに 8. 働きがいも経済成長も 9. 産業と技術革新の基盤をつくろう 10. 人や国の不平等をなくすような対策を 11. 住み続けられるまちづくりを 12. つくる責任 つかう責任 13. 気候変動に具体的な対策を 14. 海の豊かさを守ろう 15. 陸の豊かさも守ろう 16. 平和と公正をすべての人に 17. パートナーシップで目標を達成しよう

        (17項目の下各項目ごとに約10項目合計169項目の課題が掲げられている) 

         

        (参考3) 情報革命の進展 ‐ICT&AIとDXの本質と留意点-

        1 グローバル経済社会とIOT革命

        • ICTの本質
          • 情報革命の必然性(産業革命との対比、機械打壊し運動(ラダイツ)の無効性
          • 情報伝達速度の速さ、影響範囲(経済、社会、マネジメント、人間関係等)の広さ、伝達コストの劇的低下(データ化、ネットワーク化を通じ)、

        (光と影)を理解する一方それへの対応(ルール、システム改革も不可欠―各分野での新たなルール作りも必要)(例:産業革命の結果、民主的社会建設の様々な展開-労働組合運動、消費者運動等-される。共産党宣言(マルクス・エンゲルス)、アーツ&クラフト運動(ウィリアム・モリス)もその一例。

        • 人工知能(AI)の有効性と無効性(演繹と帰納の両側面)(絶対性と相対性)(統計、確率、狭い意味での論理の構築には有効、AIと教科書が読めない子供たち→本を読まない、文章が書けない大人たち 池井政子)シンギュラリティ(AIは人間を超える)の滑稽さ
        • DX(デジタルトランスフォーメーション):データとデジタル技術を用いて、顧客や社会のニーズに対応し、製品やサービスモデルを変革するとともに、業務、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること(一応の定義)しかし、単に企業活動関係に限らない。
        • グローバル社会における課題解決に如何に資するか(貧困、貧富の格差、環境、エネルギー、教育、健康、高齢化、相互理解等)、人類はこれを駆使できるか。
        • 2030年を目指した国連持続可能な開発目標(SDGs)に当てはめて考えよう
        • 行政改革(行政の無駄の排除)、時代遅れ、不要な行政の廃止、必要なルール設定(deregulationでなくregulatory reform
        • その他留意事項

         

        • 経済社会への影響
        • マネジメント、生産プロセス、サプライチェーン、産業構造、金融システムの変革
        • 価値創造方法の変革(オープンイノベーション)
        • デジタル化による情報価値の新たな享受
        • 金融/サービスのすそ野・機会の拡大
        • 教育、研究分野の革新
        • 社会の連帯(貧富の格差、国民国家を超えたグローバル化、人間の相互理解等)

         

        2日本の状況、対応(明治維新による近代化、戦後発展に次ぐ第3の開国)

        • 「日本再興戦略」、「新産業構造ビジョン」等の作成・改定における問題意識と方向性(現実には進展せず)
        • IOT・ビッグデータ・人口知能等による変革は早いスピードとインパクトで進行、これに対応する社会が共有するビジョンが必要(産業構造、就業構造、経済社会システムの変革)
        • ビジネス・チャンスの可能性と実現、社会の課題解決に向けた問題意識
        • 行うべき対応(規制・制度改革、研究開発・設備・人材投資等)
        • 特に少子高齢化社会への移行に伴う制度改革
        • 公的部門におけるニーズへの対応、財政健全化
        • 地方振興、中小企業振興(物理的距離の克服、組織の大小の克服)
        • 日本型グループ社会(縦割り社会、蛸壺型社会)の克服・オープン化

         

        (2)各分野への影響

        • ものづくりの革新(規格品からテーラーメード品へ)
        • モビリティ(自動走行運転、交通事故減少、環境負荷低減等)
        • 物流・商流・小売り(ドローンの利用、Eコマースの進展、多様な消費等)
        • 金融(Fintech-産業・金融・IT-の融合による小口、個別与信、決済機能の高度化)
        • 健康・介護(ビッグデータ活用による健康管理の高度化)、社会保障システムの改革
        • エネルギーインフラ(発送電インフラの最適化)
        • 教育(多様な教育機会の提供)
        • 地方振興、中小企業(距離の遠近、組織の大小による不利の克服)

        ・現実には都市と大組織が活用

        • スマートコミュニティ・ハウス(都市機能、エネルギー消費等の効率化)
        • ビッグデータの存在・活用(情報保護問題と情報活用、独禁法視点の拡充)
        • 大量消費社会の改革、廃棄物の極小化

         

        (参考4)国際情勢

        • 21世紀の世界秩序は「米国一極体制から米中2極体制」へ移行。(双方に強弱両面)日本はその中で重要な役割を果たす責任がある 現政権はこの自覚を欠いていないだろうか
        • ベルリンの壁崩壊後の市場経済楽観論の誤り
        • トマ・ピケティ「21世紀の資本」に代表される市場経済至上主義への批判(貧富の格差拡大、地球環境問題の顕在化)
        • 中国の改革開放、習近平体制における中国の前途(一対一路政策、共同富裕、人類共同体構想の行方)
        • インド太平洋構想は、中国・アジア・アフリカ諸国の賛同が得られるか
        • EUの形成とその歴史的意義(国民国家の超克 BREXIT
        • アラブの春とその後の状況
        • ASEANの形成とASEAN共同体の展開
        • インドの発展をどう見るか
        • TPP RSEPその他の動き
        • ポピュリズムの蔓延とトランプ政権以降の展望
        • 市場経済社会と民主主義の再定義
        • 世界のGDP、貿易の推移、資源・エネルギー、気候・環境状況の的確な把握
        • ウクライナ侵略と国際的安全保障体制の未整備

         

         

         

         

         

         

        制作協力企業

        • ACデザイン
        • 日本クラシックソムリエ協会
        • グランソールインターナショナル
        • 草隆社
        •                 AOILO株式会社

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