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        2023年3月5日

        話のタネ  

        「なぜ、国際機関に日本人はこんなにも少ないのか?」

        元国連事務次長・赤坂清隆

         

        先日、テンプル大学の講演シリーズにお呼びいただき、「なぜ、国際機関に日本人はこんなにも少ないのか?」と題して、講演を行いました。その際使いましたパワーポイントを添付します。外務省の国際機関人事センターのご協力を得て、かなり新しい資料やデータも含んでおりますので、ご参考になれば幸いです。

         国際機関に日本人が少ないというのは、広い意味でグローバルに活躍する日本人が少ないという状況を反映していると言ってもいいでしょう。最近、インド人ないしはインド系の人たちのグローバルな活躍が目立ちます。国内では強権的であるもののグローバルサウスのリーダーとして華々しい動きをしているモデイ首相、世銀の新しい総裁候補に指名されたアジェイ・バンガ元マスターカードCEO、英国のリシ・スナク首相、米国の大統領候補に躍り出たニッキー・ヘイリー元国連大使、グーグルCEOのサンダー・ピチャイなど、枚挙にいとまがありません。

         

         それに比べて、国会審議のためにG20外相会議に欠席せざるを得なかった林外相、ウクライナに行くのか行かないのかぐずぐずしている岸田首相、目立った日本の発言者のいなかったダボス世界経済フォーラムなど、日本の国際的なプレゼンスは、坂を転げ落ちるように、小さく、小さくなりつつあります。人口は急減し、経済力も落ちている日本の将来は、グローバルに活躍する人材に頼るしか、その発言力や影響力を確保できないと思います。「目を覚ませ、ニッポン!」と叫びたい衝動にかられるのは、私だけでしょうか?

         さて、国際機関ですが、日本人の幹部や職員数は、最近増えつつあるものの、なお2パーセント台で、国連予算分担率が約8パーセントなのに比して、非常に少ない状況が続いています(スライド2~5)。このように少ない原因として、私は次の要素を挙げました。 

         第一に、日本の労働慣行です。データ(スライド11,12)が示す通り、特に大卒就業者の転職率が国際的にみて低いです。

        終身雇用制度は崩れつつあるとはいえ、まだ約5割の就業者は、

        一生職を変えないでいます。

         第二に、リスク回避の傾向です。多少のリスクはあっても新しいことに挑戦してみようとする若者が、インド、中国、米国などではおよそ8割ぐらいいるのに、日本では5割にも満たないのです

        (スライド14)。

         第三に、修士号を持つ人の少なさです。米英仏などに比べて断然少ないのです(スライド16)。

        国連職員の公募は、修士号を有しているか、それに相当する学歴を要求することが大半です。

        外務省の国際機関派遣制度であるJPOも、要件として、修士号を有していることを求めています。

         第四に、コミュニケーション能力の低さです。

        これは英語のレベルもさることながら、採用の面接の際の受け答えが上手でないという問題も含みます。

         第五に、若者の海外志向の低さも挙げられます。

        外国で働きたくないという新入社員が6割(スライド15)

        海外留学に関心のない若者が約6割にも達しているのです

        (スライド18)。

         

         国連に15もある専門機関の長は、選挙で選ばれるポストです。過去には、WHO(世界保健機関)に中嶋宏氏、ITU(国際電気通信連合)に内海義雄氏、ユネスコに松浦晃一郎氏といった、

        大きな有力組織のトップを日本人が占めた時期がありましたが、

        現在は、UPU(万国郵便連合)の目方政彦氏のみとなりました

        (スライド8)。

        国連事務総長が任命する国連の基金やプログラムの長としては、

        難民高等弁務所に緒方貞子さんがおられたのが唯一のケースで、

        今は日本人は誰もいません。

         テンプル大学での議論でも出ましたが、グローバルに活躍するための決め手は、英語が上手に話せることではないのです!

        確かに英語能力は大事ですが、それはコミュニケーション能力のひとつにすぎません。

        私は、中嶋宏元WHO事務局長の下で4年間仕えましたが、

        彼は戦時中に十分英語を学ぶことができなかったために、

        英語の文法などはかなり自己流、ないしはフランス語風でした。

        英語の形容詞バッド(bad)の比較形は、ワース(worse), ワースト(worst)と不規則変化しますが、彼は、ワース、ワーサー、ワーセストと自己流に変化さて使っていました。

        WHOの幹部会で、居並ぶ米英の幹部を前に、「この災害はワーセストだ!」などと話しましたが、皆笑いもせず、理解した顔をしていましたから、中嶋さんは大変な度胸の持ち主でした。

        そう、グローバルに活躍するためには、くそ度胸が必要です。

         

         日本政府は、国際機関で働く日本人の数を増やそうと躍起になっており、確かに最近の増加傾向や新規の措置は目を見張るものがあります(スライド5、36)。

        一挙に現在の2パーセント台の割合を倍増するのは難しいと思いますが、徐々に増やしていくために、地道な努力の継続が欠かせません。時には、ホームランも必要です。

        選挙で取れる大きな国連専門機関のトップの座を射止めるのも、

        周到な準備をすれば可能でしょう(スライド35)。

        日本と韓国、それに中国ほど、国際的な選挙に強い国は他にありません。政府を挙げて、組織的に、選挙戦略と戦術を組むからです。過去の選挙戦を見ても、個人的には優れていても、政府が強力にバックアップしないために敗北した西側諸国の候補者は何人もおりました。

         

         中立、公正をモットーとする国際公務員に、自国の人々を送り込むメリットはあるのかという質問がありました。

        あります、とはっきり答えました。自分が育った国の文化、伝統、教育からシャットアウトされて、完全に無色透明で、中立、公正な人など、この世には誰もいません。

        緒方貞子さんは、立派な国際公務員でしたが、彼女は「世界のオガタ」であると同時に、「日本のオガタ」でもありました。

        彼女の活躍は、日本政府が全面的にバックアップしたからこそ可能であったとも思います。彼女の存在と大活躍は、日本という国の国際的なプレゼンスを大きく引き上げるのに役立ちました。

        国際機関での仕事でも、日本人だからこそ、日本の文化や伝統

        諸事情を踏まえての対応ができるという場面が必ず出てまいります。だからこそ、どの国も国際機関のトップを必死で狙おうとするのです。

         

         若い世代の人たちには、ぜひともやりがいのあるグローバルな仕事を目指していただきたいと思います。過去に比べて、格段にチャンスは大きくなっていると思われます。私も、老体に鞭を打って、これからも若い人たちの背中を押してあげたいと念じております。(了)

         

        制作協力企業

        • ACデザイン
        • 日本クラシックソムリエ協会
        • 草隆社
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