奥 義久の映画鑑賞記
2023年2月
*私自身の評価を☆にしました。☆5つが満点です。(★は☆の1/2)
2023/02/04「イニシェリン島の精霊」☆☆☆☆★
名作「スリー・ビルボード」のマーティン・マクドナー監督の最新作。アイルランドの西海岸にあるイニシェリン島を舞台にかつての親友が絶交を宣言したことによる男達の葛藤を描いた作品。本作で対立する二人をコリン・ファレルとブレンダン・グリーソンが演じている。名優の演技は第79回ヴェネチア国際映画祭の男優賞(コリン・ファレル)を獲得し、さらに脚本賞にも輝いている。本年アカデミー賞の有力候補の傑作は鑑賞する価値がある、お薦めの1本と言える。
2023/02/07「すべてがうまくいきますように」☆☆☆☆★
本作は名匠フランソワ・オゾンの集大成と言える作品。突然、能卒中で倒れた父は身体が不自由になり安楽死を望む。死の訪れを前にして家族の愛を問いかける。父の安楽死願望に向かいあう娘エマニュエルを演じるのは13歳の時に主演した「ラ・ブーム」でスーパーアイドルとなったソフィー・マルソー、30代で007のボンドガールを演じ50代の現在でも美しさは変わらない、本作ではリュミエール賞にノミネートされた演技派でもある。父親役にアンドレ・デュソリエ、妹にジェラルディーヌ・ベラス、そして母親役でシャーロット・ランブリングが出演している。
2023/02/10「仕掛人・藤枝梅安(一)」☆☆☆★
お馴染みの池波正太郎原作の名作を生誕100周年記念として映画化。TVでは緒形拳が演じる梅安を本作では豊川悦司が扮している。
テンポの良い本格時代劇なので時代劇ファンには推薦したい。今回の作品は2部構成で本作の第1部では梅安の幼少時代もえがかれている。共演者は片岡愛之助、菅野美穂、天海祐希、柳葉敏郎、高畑淳子、小林薫、椎名桔平らの豪華メンバーである。
2023/02/11「バビロン」☆☆☆☆☆
「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル監督の最新作。ハリウッド黄金時代と言われた1920年代、豪華なファッションと毎夜開かれるパーティー。そこにはサイレント映画のスター・ジャック、スターを夢見る新人女優ネリー、プロデューサーを目指す青年マニーがいた。三人三様の夢は、サイレント映画がトーキー映画に移り変わる激動の時代を迎え、三人の運命も巻き込んでいく。ジャックを演じるのはブラッド・ピット、ネリーにはマーゴット・ロビー、マニーは新人ディエゴ・カルパが抜擢された。他にジーン・スマート、ジョヴァン・アデポ、リー・ジュン・リー、トビー・マグワイア、オリヴィア・ハミルトンらが共演している。ハリウッドの夢と音楽のエンターテインメント大作が登場した。
2023/02/12「崖上のスパイ」☆☆☆☆
巨匠チャン・イーモウが初めて描くスパイ・アクション。ソ連で特殊訓練を受けた4人のスパイが、極秘作戦ウートラ計画のため満州国ハルピンを目指す。計画は裏切り者によって共産党の天敵である特務警察に知られてしまう。特務警察の罠をくぐり抜けてミッションを成功させることが出来るか?ヒッチコック映画のような列車内の攻防、ハルピン市街地のカーチェイス等の見せ場タップリの作品である。
「バンバン!」☆☆☆★
トム・クルーズ、キャメロン・ディアス主演「ナイト&デイ」のリメイク作品。インドでは2014年に大ヒットし、続編も製作された。インド、タイ、ギリシャ、ドバイ、チェコの5か国で製作され、インド映画お馴染みの歌とダンスが加わり、オリジナルをしのぐエンターテインメント作品に仕上がっている。主人公の怪盗役は「スーパー30 アーナンド先生の教室」でも好演を見せたリテック・ローシャン。相手役は最もセクシーなアジア人女性と評されたカトリーナ・カイフが扮している。
2023/02/19「ベネデッタ」☆☆☆☆
鬼才ポール・ヴァーホーベン監督の最新作は17世紀の修道女の裁判記録を題材に描いた歴史劇。17世紀イタリア。幼いころから聖母マリアと対話して奇蹟を起こす少女ベネデッタは6歳で修道院に入る。成人したベネデッタは修道院に逃げ込んだ若い女性バルトロメアを助け、次第に深い関係となる。ベネデッタは聖痕を受け修道院長となるが、疑惑と嫉妬の目を向けた前修道院長は教皇大使とともにベネデッタを糾弾する。ベネデッタ役はヴィルジニー・エフィラ、前修道院長役に名女優シャーロット・ランブリングが扮している。暴力とセックスと教会の欺瞞を描いてカンヌ国際映画祭でも注目を浴びた異色作。
「別れる決心」☆☆☆★
容疑者と刑事が惹かれあい、無実になったソレに刑事ヘジュンは特別な思いを持ち始めるが新たな事件にもソレが関わってくる。
ヘジュンにパク・ヘイル、ソレにタン・ウェイ、ヘジュンの妻にアン・ジョンアンが扮している。本年のアカデミー賞国際長編映画賞部門の韓国代表になった作品。先の読めない傑作ロマンチックサスペンスといえる。
2023/02/22「いつかの君にもわかること」☆☆☆★
余命宣告を受けたシングルファーザーのジョンは4歳のマイケルのために家族探しを始める。異例のロングランヒットを記録した「おみおくりの作法」(日本でも「アイ・アム・まきもと」としてリメイク)のウベルト・パゾリーニ監督の最新作は、ヴェネチア国際映画祭でも高評価を得た。父子の絆を描いたヒューマンドラマは前作にも勝るとも劣らない作品に仕上がっている。
2023/02/23「アントマン&ワスプ クアントマニア」☆☆☆★
アントマンと相棒ワスプはアントマンことスコット・ラングの娘キャシーの発明品の暴走で量子世界と呼ばれるミクロの世界に引きずり込まれてしまう。そこには世界に隠された秘密を握るカーンという男がいた。アントマンのポール・ラッド、ワスプのエヴァンジェリン・リリー、キャシーのキャサリン・ニュートンのレギュラー陣に加えてカーン役のジョナサン・メジャースとクライラー卿役のビル・マーレイが参加。いつもながら新しい創作(今回は量子世界のビジュアル)が観るものを楽しませる作品になっている。
「逆転のトライアングル」☆☆☆☆
スウェーデンの鬼才リューベン・オストルンド監督は「フレンチアルプスで起きたこと」でカンヌ映画祭ある視点部門審査員賞を受賞して注目され、「ザ・スクエア 思いやりの聖域」でカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを獲得した。そして2022年第75回カンヌ国際映画祭では本作で史上3人目の2作連続受賞監督となった。本作は事故で豪華客船が難破、無人島に流れ着いたセレブや船長たちが何も出来ない中でトイレの清掃員アビゲイルが魚を取り、火を起こす。漂流者たちの頂点にたつというブラックユーモアで人間関係を描いていく。ラストにアビゲイルとモデルのヤヤが見たものは、「猿の惑星」の自由の女神を思い出す衝撃が待っている。本年度のアカデミー賞脚本賞にもノミネートされている展開を楽しんで欲しい。主人公カールにハリス・ディキンソン、ヤヤにチャールビ・ディーン、アビケイル役はフィリピンの舞台女優ドリー・デ・レオンが国際映画への初主演となる。ヤヤ役のチャールビも本作が初主演で今後に期待されたが、昨年8月に亡くなった。享年32歳。残念です。
2023/02/26「WORTH 命の値段」☆☆☆☆
9,11テロの被害者7000人の補償金分配を担当した弁護士の実話を映画化。弁護士ケン・ファインバークは国からの依頼でテロ被害者と遺族のために補償プログラムを作成し、遺族たちとの面談を実施するがなかなか前に進まなかった。厳しい状況の中で被害者遺族と向き合う弁護士たちの2年間の軌跡を社会派エンターテインメント作品として完成させた。主人公の弁護士の名優マイケル・キートン、有能なパートナー弁護士にエイミー・ライアンが扮している。
「エンパイア・オブ・ライト」☆☆☆★
英国の海辺の街マーゲイトにある映画館エンパイア劇場。そこで働く人々の友情と愛のドラマ。主人公のヒラリー役は「女王陛下のお気に入り」でアカデミー賞女優になり、翌年もノミネートされたオリヴィア・コールマン。同僚で心を通わせる黒人青年に新鋭マイケル・ウォード、ヒラリーの上司に「英国王のスピーチ」でアカデミー賞受賞のコリン・ファース。監督は「アメリカン・ビューティ」でアカデミー賞受賞、その後「1917命をかけた伝令」「007/スカイフォール」等で芸術性だけでなく娯楽性作品にも手腕を見せるサム・メンデス。最高のスタッフとキャストで描く人間ドラマは見ごたえ充分。