BIS論壇 No. 414『営業機密侵害事件』中川十郎 23・4・27
4月26日の新聞各紙は総合商社「双日」の社員が同業他社から転職する際に前職の同業商社から営業秘密を不正に持ち出した疑いがあるとして、警視庁が不正競争防止法違反の疑いで家宅捜査し、全容解明に乗り出したと報じた。
日本に於いては企業の営業機密保持意識が薄く、転職者が年間350万人(19年)に達する時代に入り企業の厳しい機密保持が要請される。資料、データがデジタル化され、メモリーやUSBでの持ち出しが比較的容易な現状下、経済のグローバル化が進展、外国人従業員のみならず、日本企業退職者などが外国企業に再雇用される傾向が増加しており、企業の機密保持、リスク管理意識向上が強く求められる。
対策としては企業が従業員と秘密保持契約(Confidential Agreement)を結び、企業機密の外部流出を防ぐことが必要だ。しかし従業員と秘密保持契約を結んでいる企業は56.6%と半数だという。(情報処理推進機構20年調査)。
営業機密の3要件として 1)秘密管理性(パスワードによるアクセス制限)2)有用性(販売や生産方法など事業活動に有用な情報) 3)非公開性(公然と知られていない情報)が構成要件とみなされている。
過去の日本企業の主な営業機密漏洩事件は1) 東芝の研究データーを提携先の韓国企業に漏らしたケース(2014年) 2)アシックス元社員が靴の性能データーを不正に持ち出した事件(2019年)3)積水化学元社員が機密情報を中国企業に漏らした事件(20年)4)ソフトバンク元社員が5Gの技術情報を不正に持ち出したとして逮捕などがある。
過去発生した主たる日米情報・特許紛争では1)富士通―フェアーチャイルド社買収事件 2)ハネウエル―ミノルタ事件 3)東芝・ココム事件などが有名だ。
2022年5月に成立した日本の経済情報保護法とも関連し、グロ―バル競争激化、サプライチェイン再構築などの現状下、日本企業の国際競争力強化のためにも、企業の機密保持には一段の留意が要請される。
それにしても1996年施行*の米国経済スパイ防止法違反罰則が個人に対しては50万ドル(6750万円=1ドル135円換算)、もしくは15年の懲役。企業や組織に対しては1000万ドル(13億5000万円)に対し、日本の営業機密侵害罪は個人は10年以下の懲役、もしくは2000万円以下の罰金。海外企業に提供した場合は 3000万円以下の罰金。法人は5億円以下の罰金と米国に比し、罰金や懲役が軽い。企業機密防止のためには日本も米国並みの重罪を科し、今後、国際的な知財、先端技術、IT、AI、バイオ技術競争が激化する国際競争場裏に於いて知的所有権の保護に我が国政官財の一段の尽力が要請される次第だ。
*『知識情報戦略』石川 昭・中川十郎編著(税務経理協会)2008年 pp46~54 参照