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        「古武士(もののふ) 第23 フランスでの指導

        ________________________________________

         

        昭和28年7月(1953年)、南回りで(3日がかり)パリに降り立った道上は、パリ祭を見物後休む間もなくすぐに、レマン湖畔にあるトノン・レ・バン市での講習会に臨んだ。

        講習会は湖畔の古城の庭園につくられた仮設道場で開かれていた。

         

        三十数名の有段者がいて、練習の段取り、乱取りの説明をした後、1時間45分にわたって 直接フランス人たちに稽古をつけた。

        終戦直後にイギリス兵を相手にして以来、初めて西洋人に教えた瞬間だった。

         

        この講習会のあと有段者会会長ジャザラン(元ボクシング・ヨーロッパチャンピオン・フランス柔道界の重鎮) が訪ねてきて、矢継ぎ早の質問を受けた。

        嘉納柔道の「精力善用」「自他共栄」というスローガンの真の意味は何かなどというが、フランス人の片言英語では、意思疎通が中々困難だった。

         

        そこで道上は 戦前上海で言ったように、

        柔道の最終目的は、心技体の錬成を通じて、立派な人間に成ろうと努力することである。

        身体を鍛え強くなろうとすれば、技術の錬成が欠かせない。

        技術を身につけようとするれば、苦しさに耐えて練習を積み重ねなければならない。

        苦しみに耐えてそれを続ければ精神力を強くする。

        このように心と体と技を同時に鍛錬するのが、柔道というものだ。柔道は人間形成そのものなのだ」 と語った。

         

        ジャザランはこの「心技体」にいたく感動して、有段者会の会報に載せて、ことあるごとにその精神を受け売りして歩いた。

        おかげでこの言葉は すっかりフランス柔道界に普及することになった。

        Shin Gi Tai がフランス語に成った瞬間である。

         

        しかし、この事がのちに、フランス柔道界の主導権争いの火種になるとは、道上はこの時、露ほども思わなかった。

         

        レマン湖での二週間の講習会を終えた道上は、列車で西南フランス大西洋沿岸のビアリッツへ移動した。

        さらに同じ大西洋岸の避暑地アルカッションと二か所で二週間ずつの講習会をこなした。

         

        いずれも川石酒造之助が主催する講習会で、バカンスに来ながら柔道の講習会に通うというスタイルは、現在でもフランスではよく見られるものである。

         

        九月、パリーに戻って川石道場で一か月教えた後、十月初めボルドーへ行き、西南フランス柔道の指導責任者という本来の仕事を始めた。

        ボルドーに部屋を借り、開いた道場を本拠にして、二週間に一度ずつボルドーとパリーを往復する生活が始まった。

         

        そのことによってフランス都市対抗の団体戦ではボルドーが連戦連勝をおさめ、 世界中(ヨーロッパ、アフリカ、アメリカ)の柔道家たちがボルドーに集まるようになった。

         

        まさにヨーロッパの武徳会であった。

         

        次回は「十人掛け」です

         

         

         

        【 道上 雄峰 】

        幼年時代フランス・ボルドーで育つ。

        当時日本のワインが余りにもコストパフォーマンスが悪く憤りを感じ、自身での輸入販売を開始。

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