私の履歴書・ビジネスインテリジェンス協会事始め
2023年8月10日 中川十郎
(5)スエ―デン・ルンド大学でのビジネスインテリジェンス講演
1991年4月のルンド大学での筆者の講演にデジエル博士はスエ―デンの2新聞社の記者を取材に招待していた。講演後、記者の取材質問を受けた。この講演にはスイス銀行の幹部も講師として参加しており紹介された。デジエル博士によると世界の代表的情報機関はバチカン、スイス銀行、国際石油会社ロイヤルダッチシェルの3機関だということであった。
バチカンは世界中に教会、神父を有し、そこからの情報はCIAをしのぐほどの莫大なものだ。スイス銀行は金融業務に於いて世界中の金融、財務情報の宝庫である。セブンシスターズ代表格のロイヤルダッチシェルは中東を始め世界中のエネルギー、経済、政治情報を収集しておりその情報収集、分析力は他産業の比ではないというのが博士の持論であった。
筆者は講義に於いて、情報化、サービス、ソフト時代には旧来の”Gross National Products”
(国民総生産)GNPに代わり、“Brain Power Products-BPP”(頭脳生産力)が決め手になると強調した。その点、物の生産よりも情報ソフトや、サービス、デザイン、企画などで優れているスエ―デンをはじめとする北欧が今後有利になる。ルンド大学のあるルンドには世界を風靡しているテトラパック工場がある。またお隣のフィンランドにはパルプ製紙工場から世界的な通信機メーカーに転進したノキアがある。スエーデンでも情報化時代に頭脳産業、AI(人工知能)、ソフトサービス産業に注力すべきだと力説した。
翌日の新聞の一面に戦車のキャタピラーの上の脳に大砲を付けた絵が描かれ、日本から
ルンド大学にビジネスインテリジェンス講演に来た商社マンの中川氏は「情報化時代のスエ―デンは頭脳産業、ソフト、サービスに特化すべきと力説した。」と記事が出て驚いた。
たまたま、JETROに出向し、フィンランド・ヘルシンキ所長をしていたニチメン(現双日)の1年先輩のH氏よりほどなくして、フィンランド王立研究所の関係者がこの記事を目にし、中川をヘルシンキに招聘するので、BPP論を含め、日本総合商社の情報収集、分析などについて講演してほしいと要請を受けたと連絡があった。しかし総務部はビジネスに関係ないので、講演にヘルシンキに出張するのであれば、有給休暇をとり、自費で出張するなら許可すると冷たい態度で、結局ヘルシンキ講演は残念ながらあきらめざるを得なかった。
NY駐在から帰国後、1992年4月にNYの得意先の紹介でハーバード大学から「日本の貿易商社は将来の中国市場をどう見ているか」と題し講演してほしいと要請があったときも総務部の対応は同じで、講演を断念した経緯がある。これらの出来事が後年筆者が定年前に退職し、大学への転身を決心する一つのきっかけになったのは事実である。