気候変動の波は中東にも
雨雲に覆われるドバイ:GulfNews
2020.3.28.
位野花 靖雄
昨年9月関東地方を襲った台風19号は、24時間で1000ミリ以上の降雨をもたらし多くの河川が氾濫し、千葉県を中心に甚大な被害をあたえました。今年の冬は、暖冬のため多くのスキー場が閉鎖を余儀なくされました。
降雨量が年間100ミリにも満たない乾燥地帯の中東各地でも、異常気象*による深刻な被害があちこちで見受けられます。
*異常気象とは、30年に一回以下のまれな気象現象(大雨・大雪・熱波・寒波)のことを意味する。
乾燥地帯の中東
欧州が厚い氷の下にあった約一万五千年前、中東地域は豊かな降雨に恵まれ、湿潤で緑豊かな草原が広がり河川には絶え間なく水が流れ、大型の哺乳動物が躍動していました。
しかし地球の気候変動でヨーロッパの氷が解けると共に、五千年前頃から中東では乾燥化が進み、森や草原が姿を消し、徐々にサバンナ・砂漠化していきました。
イスラームが生まれたころには、降雨量は劇的に減少し、水は何よりも大切なものとなりました。コーランでも、「水から一切の生きものをつくったのである」と水の重要性に触れています。
口先だけでなく約束したことは必ず実行することの大切さを、「雨」を使って表現したアラブの諺・「言葉は雲。行動は雨」にも、水の重要性を見ることができます。
鉄砲水
降雨量が極めて少ない中東でも、かれ谷(ワジ)の鉄砲水で犠牲者がでることは、それほど珍しいことではありませんでしたが、異常気象の影響でしょう近年鉄砲水の発生頻度が急増しています。
中東地域の山々は草木が見られない岩山が圧倒的です。砂漠の多くは、いわゆる砂砂漠ではなく、岩石が露出した岩石砂漠、あるいは礫砂漠が多いのです。
:シナイ山塊・筆者撮影
短時間に集中して降った雨は、地表面が乾燥しクラスト(皮殻)でおおわれているため地下に滲みこまずに、大半が地表面をながれます。その結果、大量の降雨は鉄砲水となって流れ下り、被害をあたえることになります。
筆者も鉄砲水でもうダメかと思った経験があります。シナイ半島を横断していた時、突然大規模な鉄砲水に見舞われ、大きな岩石がゴロゴロと流れてきました。
幸運にも地勢を熟知しているベドインの運転手が小高い場所を見つけ、そこに避難し九死に一生を得ました。ガタガタ震えるほど気温が急降下し、死を覚悟したことを覚えています。
世界遺産ペトラでの鉄砲水。観光客は岩山に登り避難:朝日新聞
都市水害
中東の大都市の多くは沿岸部にあり、その上各都市は地勢的にフラットで海水面との差が殆どありません。ドバイ、アブダビ、ジッダ、クエート・・・いずれも最新の建築技術・デザインを取り入れた超高層ビルが林立する近代都市です。
しかし、これらの都市の排水ポンプや下水道の雨水処理設備は、“今まで経験したこともない”降水量を想定し設計・建設されていません。そのため、ここ数年に見られる地球規模の気候変動による豪雨には対応することができず、海水上昇も重なり街全体が水没するケースが続発しています。
UAE・GulfNews
UAE・GulfNews
ベイルート
異常降雨は災害だけをもたらしているのではありません。UAEの不毛だった荒野は草木に覆われた緑のじゅうたんに変身し、緑豊かなオアシスがあちこちに誕生し、自然豊かな風景を楽しむため、現地の人や観光客が押し寄せているとのことです。
緑に覆われたUAE東西部GulfNews
地中海に面したチュニジアは、世界最大のオリーブ輸出国です。チュニジアのオリーブは主としてイタリア・スペインに輸出され、そこでその国のオリーブと混ぜてオイルに加工され、イタリア・スペイン産のオリーブオイルとして世界に輸出されています。昨年は異常な降雨が続いたお陰で、収穫量が倍増しましたが、価格が半値になり農家に深刻な打撃を与えました。しかし今年は干ばつが続き、収穫が激減し凶作になるとのことです。
異常気象は降雨だけではなく、この地域ではきわめて珍しい降雪をももたらしました。サウジアラビアは数度にわたり寒波に襲われ、北部一帯に雪が降り積もり、リヤド・メディナでは、零度近くまで気温が下がりました。今年二月には、バグダードで100年ぶりに雪が降り、人々を驚かせました。
サウジ NEOSシティ
UAE JabelJeis
バグダード
昨年から今年にかけて,欧州・オーストラリアなど世界各地で異常高温が観測されましたが、夏本番を迎えつつある中東の今年の気温はどうなるのでしょうか・・・