一色宏E-mail:miraisoandesign@gmail.com
Life Heart Message 2023.10.9
「国民性」の美学
江戸時代(正徳年間)の寺子屋の教科書となった、勝田祐義の金言集に、日本人の精神に感得できるものがある。◎忠言は耳に逆らうといえども、身に行いて必ず徳あり(人の忠言は耳障りなものだが、人の諫めをよく聞いて行動すれば自身の心が正しくなる)。
◎人の知らざるを患えざれ、ただ学の至らざるを患えよ(自分が無名であることを嘆くな。学があることさえ世間に知れば、必ず人から尊敬される。学問に精を出すことだ)。
◎耳に悪声を聴くことなかれ、心に貪嗔を恣にすることなかれ(悪い評判を真に受けてはならない。貪りや怒りや恨みの心を起こさないようにしなさい)。
◎義を行いて以て利とせよ、利を持って利とせざれ(義を行い、やるべきことをやったと思う気持ちを利益としなさい。利益をはかることをもって利益であると思ってはいけない)。
◎人として礼有る者は、一生の間、禍無し(人と交わるときに礼節を尽くせば、一生悪い結果を招くことはない。無礼があれば悪い結果につながることが多い)。
◎小恥を悪む者は、大功を立つること能わず(小さな恥もかきたくないと思う人は、常日頃からつまらないことを気にする。ゆえに大きな仕事を成し遂げることがなく、大功の名声を得ることがない)とある。
明治35年、ドイツの留学から帰国した芳賀矢一が講演で発表した日本人の特質論として、「国民性十論」がある。当時の日本人の特質を表している。(一)忠君愛国。(二)祖先を崇び、家名を重んず。(三)現世的、実際的。(四)草木を愛し、自然を喜ぶ。(五)楽天洒落。(六)淡泊瀟酒。(七)繊麗繊巧(小さいもの、小さい事が日本人のお気に入りだと論じている。盆栽、盆景、箱庭など)。(八)清浄潔白。(九)礼節作法。(手紙の書き方を一例にしている。敬具のような文末の止め詞には何段階かあって、最も丁寧なのが頓首誠恐謹言、とこれで一句、次が誠恐謹言で頓首を省略する。次が恐惶謹言、恐々謹言、その下が謹言で、一番簡単なのが「之状如件」である。「国民性十論」の最後は、(十)温和寛恕。
芳賀矢一は結語として、清浄高潔を喜ぶ風や、礼儀作法を重んじ、現世を理想とし家名を大事にすることは、古代のカミを尊ぶ習いから出た。楽天的、淡泊な気質、自然へのあこがれ、などは、気候風土の影響と共に、やはり根本にカミがある。武士道は、これらの美徳の結晶である。儒教も仏教も、我が国に移し植えられて大いに拡張し、その長所を採り、その短所を捨てた結果、日本特有の国民性を造り上げた。芳賀はこう言って、結びに「よく我過去を知って、よく新来の長所を採る覚悟があらば、今の時は真に多望の前途を胚胎し得る時代である。今の時に之をなし遂げ得ぬ日本人は祖先に対して済むまいとおもふ」。
「優しさ」「親切」「献身」「勤勉」「涙もろい」「忠実」「繊細」「職人わざ」「粋」「わび・さび」「奉仕」「義理がたい」「先師を敬う」日本の美徳を大切にしたい。
未来創庵 一色 宏