ユダヤ人とは
ダビデの星:ユダヤ教の象徴
2023.12.06.
位野花 靖雄
前号ではイスラエルvsアラブ紛争の歴史的背景についてリポートしましたが、今回は
ユダヤ人とは何なのかについて、その一端に触れてみたいと思います。
ユダヤ人とは?
イスラエルは、ユダヤ教を絆として結合されたユダヤ人の国家です。ユダヤ人の人口は約1400万人だといわれ、イスラエルに630万人が居住し、米国に570万人、両国で全人口の約80%を占めています。それ以外ではフランス・英国・カナダ・南米など世界各地に広く在住し、日本にいるユダヤ人は千人程度だと推定されています。
ユダヤという人種はありません。イスラエル国内法は、「ユダヤ人の母から産まれ、あるいはユダヤ教徒に改宗した者*」をユダヤ人としています。ユダヤ教保守派・改革派により、その考え方に違いがあります。
*ユダヤ教は信者を増やすための布教は行わない。ユダヤ教に改宗したい者は、ラビ(導師)の厳しい指導を
受けながら改宗の手続きを取っていく。審査は非常に厳しいといわれている。
ユダヤ人迫害の歴史
ユダヤ人は紀元70年、ローマ軍によりパレスチナから追放され、世界各地を流浪することを余儀なくされるのですが、流浪先各地でユダヤ人に対する偏見で苦しむことになります。なぜ、ユダヤ人は各地で迫害・差別され続けてきたのでしょうか?
色々な説があります:古代から中世にかけ西欧社会で、「キリストはユダヤ人により十字架にかけられた」との俗説が広がり、ユダヤ人は「神を殺した賤民」であるとの認識が西欧キリスト教社会全般に広がったことで、反ユダヤ感情が広がったというのが代表的な説のようです。
・・・その他、強固な選民意識・厳格な律法などが迫害・差別となったとする見方があります・・・ 1/4
職業選択の自由・土地所有などを禁じられたユダヤ人は、キリスト教では卑しい行為と考えらえていた金貸し・両替・質屋・宝石研磨/取引・芸能活動などに生計の糧を求めざるを得なくなります。しかし皮肉なことに、このことがユダヤ人の間を強固にすると共に繫栄させることになります。そして、結果的に反ユダヤ思想を一層増幅させることになったのです。
仏哲学者サルトルは、次のように述べています:
嫌悪の情は奇妙な経済的現象を生んだ。皆殺しすることが出来た筈のユダヤ人を、大目に
見ていたのも、ユダヤ人が絶対必要な経済的機能を果たしていたからである。呪われたユダヤ人は、欠くことに出来ない職業についていたからであろう。
世界各地に離散したユダヤ人は、ユダヤ人の間だけの独自の情報ネットワークを構築し、情報を相互共有し、助け合いました。今日、メディア世界でユダヤ資本が非常に強い影響力を持っていること、またジャーナリストにユダヤ人が多いのも、ここにルーツがあると考えられています。
活躍するユダヤ人
ユダヤ人は優秀で・頭が良いとの話を聞きます。日本人のこれまでのノーベル賞受賞者は、28名でアジアでは抜きんでていますが、ユダヤ系の受賞者は何と300人を超えています。人口比で考えても突出しているといえます。
ノーベル賞を離れて、政治・経済・文化などの分野で世界的に著名なユダヤ系の人々を思いつくままにピックアップしてみると:
・政治:ヘンリー・キッシンジャー、カール・マルクス、ゼレンスキー(ウクライナ大統領)
イエーレン(米財務長官)、トロツキー
・経済:ロスチャイルド(金融)、シトロエン(仏自動車)、リーヴァイ(ジーンズ)、ソロス(投資家)、ラリー・ヘイジ(グーグル)、マーク・ザッカーバーグ(Facebook)
サム・アルトマン(生成AI)
・学問:アインシュタイン、オッペンハイマー、フロイト
・音楽:ベニーグッドマン、ボブ・ディラン、ジョージ・ガーシュイン、レナード・バーンスタイン、グスターフ・マーラー
・絵画:シャガール
映画界では、チャップリン、ケーリー・グラント、ポール・ニューマン、カーク・ダグラス、バーブラ・ストラスサンド、エリザベス・テーラーなどの俳優を輩出。20世紀フォックスのW・フォックス、スティーブ・スピルバーク監督もユダヤ系です。
映画界にユダヤ系の人々が多い背景には、1893年エジソンが映画を見る装置(キネトスコープ)を発明。エジソンは映画製作企業を立ち上げ、市場を独占しようとしました。ユダヤ系資本もこの分野に進出しようとしていましたが、エジソンとの間で特許侵害を巡り数々の法廷闘争となり、嫌気を刺したユダヤ系資本は、未開の土地であった西海岸カルフォルニアに移り、ハリウッドを映画産業の拠点として立ち上げたのです。映画産業は、ユダヤ人により誕生し発展したといえます。映画界と共にカルフォルニアで誕生・成長したマックスファクターもユダヤ系資本の会社です。
教育が第一・頭脳立国
ユダヤ人家庭では、子供が7~8才になると母親が次のような質問をするそうです。
「異教徒に襲撃されて、命からがら逃げだせなくてはいけないとき、何を持って逃げるの?」
今の日本人なら、「キャッシュ」・「宝石」・「カード」・「携帯」と答えるかも知れませんが、すべてNGです。征服者・襲撃者に奪われてしまえば何も残りません。正解は「教育」です。頭の中にある知識・知恵は、誰も奪い取ることが出来ない。いざとなれば、身一つで逃げても生きていけるとの考えに基づいています。
ユダヤ人母親は、日本の教育ママとは比較にならないほど非常に教育熱心です。ユダヤ人はピープル・オブ・ブック(本の民族)とも呼ばれ、生涯にわたって学び続けることを常に心がけているといわれています。
天然資源の少ないイスラエルでは資源は人間だとの考えがあり、生き残るためには頭脳しかないとの考えが根底にあるようです。ユダヤ人が優秀だといわれ背景には、教育が大きな役割を果たしてきたからではないでしょうか。
イスラエルの影
日本とイスラエルとの関係を日常生活の中で感じておられる方は少ないと思います。しかし、意外にもイスラエルとの関係は、私たち身近にあるのです。
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日本の原子力発電所は、外国からのテロ・工作員攻撃から護るための厳重な警備体制が敷かれていますが、それはイスラエル企業の特殊警備技術によりカバーされているのです。ドローンもイスラエル軍が開発したものであり、自動車の自動運転基本技術もイスラエル発の技術が先導をしています。
インテルもマイクロソフトも、イスラエルに拠点を設け新技術開発に余念がありません。
IT・AIの隅々にイスラエル発の技術が組み込まれています。私たちが日常お世話になっているパソコンのソフトの隅々に、イスラエルで誕生した技術が組み込まれています。
参考資料:
・ユダヤ人 サルトル 岩波新書
・BRUTUS 1995.7月号
・知的国家イスラエル 米山伸郎 文春新書
・イスラエルと中東問題 山本七平
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