奥 義久の映画鑑賞記
2023年12月
*私自身の評価を☆にしました。☆5つが満点です。(★は☆の1/2)
2023/12/01「ナポレオン」☆☆☆★
巨匠リドリー・スコットが「ジョーカー」でアカデミー賞を受賞したホアキン・フェニックスと組んで英雄ナポレオンの生涯を描く。
ナポレオンが名声をなしたトゥーロンの戦いから最後のワーテルローの戦いをカメラ11台で最大のスペクタル映画に仕上げている。一方では最愛の妻ジョセフィーヌとの愛の葛藤を描いているが、本作のスコット監督には全盛期の切れがなく、ただ長いだけの英雄伝記になっている。ホアキンの熱演とジョセフィーヌ役のヴァネッサ・カービーが好演しているだけに惜しまれる。
2023/12/04「ADAMIANI アダミアニ 祈りの谷」☆☆★
本作の主人公は19世紀に移民としてジョージアのパンキン渓谷に住むキスト人。9.11以来アルカイダとの関係を疑われ、パンキン渓谷はテロリストの巣窟と呼ばれていた。この題材に引かれて映画を観に行き、冒頭の台詞でびっくりしてしまった。なんと下手な演技だと、少し経って映画がドラマでなくドキュメンタリーと気づいた。私としたことが・・・。(笑)作品の主人公は、たくましく生きるキスト人のゲストハウスのオーナー女性とその娘。従兄弟で戦士の血が流れる寡黙な山岳ガイド等。美しいコーカサスの山々を紹介し、負のイメージを払拭するための力強く生きる姿を描いていた作品である。このドキュメンタリーを製作したのは日本人という異色作である。決して面白い作品ではないが、一見の価値はある。
2023/12/07「JFK/新証言 知らざる陰謀」☆☆☆☆
1991年に名匠オリヴァー・ストーン監督はケヴィン・コスナー主演の「JFK」を世に出し、ケネディ暗殺の陰謀説を説いた。映画の大ヒットにもかかわらず、真相は闇の中だった。その後新たに解禁された資料を基に長期間にわたる独自の調査を続け、事件の目撃者と新たな証拠からオリヴァー・ストーン監督が導いた最終回答である。また、それ以上にこの映画で語られているのはジョン・F・ケネディが素晴らしい政治家であったことが証明されている。本作は12月7日で公開終了なので、お薦め作品として紹介できなかったのは大変残念である。
2023/12/08「怪物のきこり」☆☆☆★
第17回“このミステリーがすごい!”大賞を受賞した倉井眉介の問題作の映画化。凶器の斧で連続猟奇殺人を行う殺人犯と、狙われたサイコパス弁護士の対決を描いている。主人公の二宮弁護士に亀梨和也、警察の天才プロファイラーに菜々緒、二宮の婚約者に吉岡里帆、容疑者役に中村獅童が演じている。ミステリーエンターテインメント作品として楽しめる作品。
2023/12/09「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら」☆☆☆★
泣ける小説とSNSを中心に話題になったベストセラー小説の映画化。女子高生・百合が1945年の太平洋戦争末期にタイムスリップして、特攻隊員の彰と知り合う。彰に惹かれいく百合だが彰の特攻の日が近づいてくる。現代の女性との悲恋にしているが、当時は同じような状況下の人たちが多くいたと思われる。この作品の根底に流れるものは反戦だが、あまり重くならずに見られる作品に仕上げている。百合役の福原遥が30代なので童顔でも、ちょっと無理があったのがマイナス点。共演は水上恒司、松坂慶子、出口夏希、伊藤健太郎等。
「エクソシスト 信じる者」☆☆☆★
1973年に制作されたウィリアム・フリードキン監督の「エクソシスト」は史上最恐のホラー映画として、今も語り継がれる名作である。「エクソシスト」の大ヒットは続編が何作か制作されたが、50年ぶりの本作が正当な続編と言える。オリジナル版で悪魔に取り憑かれた娘リーガンを救うため死力を尽くした母親クリス・マクニールは、本作では悪魔に取り憑かれた父親ヴィクターの手助けをする。もちろんクリス役はオリジナル版同様にエレン・バーンスティンが演じている。エレンの出演なしに本作を作ることは無かったという。リーガン役を演じたリンダ・ブレアもリーガンとしてラストに出番が設けられている。本作の主人公ヴィクター役はレスリー・オドム・Jr、娘アンジェラ役はリディア・ジュエット、アンジェラと一緒に悪魔に取り憑かれるキャサリン役は映画初出演のオリヴィア・オニール。悪魔に取り憑かれた少女の顔の怖さはオリジナル版を超えていた。
2023/12/11「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」☆☆☆☆
「チャリーとチョコレート工場」の工場長ウィリー・ウォンカはいかにしてあのチョコレート工場を作ったのか?この始まりの物語をミュージカルとして、「ハリーポッター」のプロデューサーが製作。ファミリーで楽しめるミュージカルが出来上がった。特筆すべきは、注目の若手スターのティモシー・シャラメが自らの歌声を聞かせている事。ティモシーの歌と魔法と感動のファンタジーを楽しんで欲しい。
2023/12/12「マエストロ:その音楽と愛と」☆☆☆☆★
高校生時代にクラシック音楽にはまっていた私の推しはニューヨーク・フィルのレナード・バーンスタインだった。ベルリン・フィルのカラヤンと並ぶ2大指揮者である。そのバーンスタインの映画をNETFLEXが製作した。(私は1週間の限定公開で鑑賞)
プロデューサーには主演・監督のブラッドリー・クーパーとともにスティーヴン・スピルバーグ、マーティン・スコセッシら巨匠の名前がある。本作は音楽映画というより、バーンスタインとその妻フェリシア・モンテアレグレ・コーンとの愛のドラマである。フェリシアも舞台俳優として活動し、妻としてバーンスタインを支え、母として3人の子供を育てあげている。夫の周りには常に大勢の人がおり浮気相手もいた。二人の愛の葛藤の中でバーンスタインは、指揮者だけでなく作曲家としても名声を得ていくが、フェリシアには病魔が迫ってくる。この壮大な愛のドラマは過去をモノクロ、現代をカラーで表現したアイデアは良かったと思う。バーンスタインを演じたブラッドリー・クーパーとフェリシアを演じたキャリー・マリガンはともにアカデミー賞の複数のノミネートがある。この二人の名演も必見の価値がある。本来ならば映画館(12月8日から1週間の限定公開)で見て欲しいが、NET配信でも充分楽しめるはずと思う。個人的には映画鑑賞時に購入するパンフレットがない事(配信ドラマのため)が大変残念だった。
2023/12/13「バッド・デイ・ドライブ」☆☆☆★
リーアム・ニーソン101本目の最新作は、アクションとは無縁の平凡なビジネスマンを演じる。子供の送り迎えをする車に爆弾を仕掛けられた父親マットは運転席に座った瞬間にスイッチが入り、席を立つと爆発する仕組み、遠隔操作でも爆発するため通報も出来ない、後部座席には子供たちが座っている。この最悪の危機をどう乗り越えるか?派手なアクションシーンはないが一級のサスペンス映画になっている。
2023/12/15「ティル」☆☆☆☆☆
エメット・ティル殺害事件の映画化。1955年父が戦死した14歳の少年エメットは母と二人、シカゴで平穏に暮らしていた。その年の夏休みにエメットは生まれ故郷のミシシッピ州マネーの親戚を訪ねる。母メイミーからはマネーでの白人との関わりを注意されていたが、白人女性に口笛を吹いたという理由で、拉致されリンチを受け殺されてしまう。メイミーは黒人の生活を脅かすアメリカ社会に対して勇気を持って行動していく。この行動はキング牧師の公民権運動を加速させ、2022年3月のエメット・ティル反リンチ法の成立に結び追いていく。本作は現在まで多くの映画祭で21部門受賞86部門ノミネートの快挙を得ている。特に息子を失った悲しみと勇気の行動を起こす母親役を演じたダニエル・デッドワイラーの演技は高い評価を得ている。68年前のこの事件は私自身も知らなかったが、改めて人種差別問題の現状を知ることになった。
人権を求めて世界を変えた勇気ある女性の実話、この感動を多くの人と共有したい。必見の作品である。(本年の4本目の☆☆☆☆☆作品)
2023/12/24「ハンガーゲーム0」☆☆☆★
世界的なメガヒットシリーズの最新作。今回は前シリーズの敵役・パルムの独裁者スノー大統領の若き日を描いている。18歳の高校生コリオレーナス・スノーは第10回ハンガーゲームでプレイヤーの教育係を任命される。スノーの担当する第12地区のプレイヤーの一人はひ弱な少女ルーシー・グレイだった。闘う事の出来ないルーシーの唯一の武器は美しい歌声。スノーはルーシーを優勝させるため力を尽くすことになる。スノーはトム・プライス、歌姫ルーシー・グレイには「ウェスト・サイド・ストリー」のオーデションでマリア役を射止めたレイチェル・ゼグラーが演じている。ミュージカルの主役で聞かせた美声を本作でも聞かせ、熱演している。前シリーズで主役のジェニファー・ローレンスがスターになったようにレイチェルもスターの道を歩んでいくと思える。この作品も続編がありそうなので期待したい。
2023/12/26「ポトフ 美食家と料理人」☆☆☆★
名匠トラン・アン・ユン監督の最新作。第76回カンヌ国際映画祭の最優秀監督賞受賞作。美食家ドタンはパートナーで料理人のウージェニーとレストランを経営している。二人の作る料理はヨーロッパの国々でも評判になっている。料理への情熱で強く結ばれた二人は幸せの日々を過ごしていたが、ある日ウージェニーが倒れてしまう。ウージェニーに名女優ジュリエット・ビノシュ、ドタンにはブノワ・マジメルが扮している。100年前の極上メニューが再現されているので料理好きには見逃せない作品になっている。