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        「古武士(もののふ) 67話 父親との再会」

        ________________________________________

         

        愚息から道上に電話があった。

        「お父さんに会いたい。」

        愚息は父親とまともに話をしたことがない。 いつも一方的に道上の話を聞くだけだ。

        一度親子の会話をしてみたい。男の会話を。

         

        道上の許可をとった愚息は20代後半となっており、やっと仕事も軌道に乗ったところだった。 大きなサムソナイト(スーツケース)を二つ。

        中身の七割は道上へのお土産だった。

        柔道着、浴衣、インスタント日本食品、週刊誌、とかなりの重さになった。

        75kgの荷物を持ち成田へ向かう。

        久しぶりの父親との対面にかなり緊張していた。

         

        いつもこちらから話を切り出す事は出来なかった。

        道上がソファに座り、両刻みのジタン(フランスのタバコ)を吸いながら 話すすべてをただ直立不動で聞き入ることしか経験のない愚息雄峰。

        一度は大人、いや、男として扱ってもらいたい一心だった。

         

        当時フランス・フランは下落の一途をたどっていた。

        1フラン75円だったのが53円になりさらに14円に向かって下がって行く。

        箪笥預金をしている道上に是非円と交換し道上に損をさせたくないとの思いで300万円の現金を持っていった。

        ドゴール空港に着くとすぐオステヤリッツ駅に向かう。

         

         

         

        まだTGV(超高速特急、日本の新幹線にあたる)の無い時代だった。

        オステヤリッツ駅からボルドーまで650km、約5時間半の鉄道旅行だ。

        電車の中でもずうっと緊張したまま、ボルドー・サンジャン駅に夜の8時半に到着する。

         

        道上が駅まで迎えに来てくれていた。

        道上の自動車に乗り、道上のアパート(日本で言うマンション)に着く。

        早速道上の手料理による夕食の準備に取りかかる。

        夕食が始まったのは夜の10時半、食べ終わったのが12時半。

        道上の話は愚息に対していつも道上の女房の悪口に終始する。

        駄目な母親のせいで雄峰がろくな男に育っていないという結論に行きつく。

         

        愚息も必死で話題を変えようとする。

        「お父さん田中角栄は如何思いますか?立派な男だと思いますが」

        「お父さんも田中角栄は好きだ。彼は立派だ。日本の政治家はなっていない。国家経綸を考えていない。皆ただの政治屋だ。」

        「そうですねお父さん。」

        「日本人はだらしなくなっている。だから君のような男が育つんだ。」

        「大体教育がなっとらん。アメリカ式放任主義と君のかあさんは言うが、アメリカでも良い家庭は厳しい教育をしている。」

        「欧米の良い家庭では食事中、皆の前でも子供をひっぱたく。君の母親の教育が悪いから君のようなダメな子が育つんだ。」

        よほど女房に対しての恨み辛みがあるのだろう。

        全ての道は女房のいい加減さにあり、結果愚息の誕生である。

         

         

        その一方

        「早く子供を作るんだ。今流行っているだろう結婚しないでも子供を作るのが。出来てから結婚すれば良い」

        「お父さん好きな人が出来てからでないと。」

        「何を女々しい事を言っているんだ。女はみんな一緒だ。」

        ・・・・?だったら何故母親の悪口を言うんだ、と雄峰は思った。

        何かにつけ「君の母親は駄目だ。だから君のような駄目な子が育った。」 それが延々と続いた。

        ラリーの出来ない雄峰はデッドボールの食らいっぱなし。

        最後に言ってはならない言葉をとうとう言ってしまう。

        「お父さん、お母さんを選んだのは僕じゃないですよ!」

        「何を言っているんだ、お父さんでもない。もらってくれ、もらってくれと言って来たんだ。出て行け!」

        打たれ弱い愚息であった。

         

        雄峰はせっかく日本から重い思いをして持って来た荷物をトランクに詰め戻し、朝の3時半雨の中をさまよう事になってしまった。

        土曜日の夜だ。空いているホテルなど無い。

        しかもフランス・フランを持っていない。クレジットカードも持っていない。

         

        「学生真っ赤に焼けた鉄の如し、今学ばずんば終生もろし。鉄は熱い内に叩け」道上の口癖だ。

        雄峰は俺は鉄じゃないぞ叩くな!と心に呟きながら重い荷物を持ってさまよった。

        獅子は千尋の谷に子供を突き落す。這い上がってくる子供だけを育てる。

        これも道上の口癖だ。

        雄峰は心に俺はライオンじゃないぞ!突き落すな!

        とつぶやきながら寂しくやるせない状況を苦しんでいた。

        父親として息子として会話が欲しかった。

        お父さんと心から呼んでみたかった。

        親子の馴れ合いがあっても良いじゃないか。

         

        雄峰は、フランスにずっと住んでいるとフランス人になってしまうのではないか、しかも父親にいつか殺されるのではないか、といつも恐れていた。

        戦国の武将は息子を人質に出した。

         

        今や日本で何も恐れる事無く自由に生きている。最高の幸せをつかんだ。

        親子の対話を求め、調子に乗って父親に会いたいと思ってフランスまで来た。

        雄峰の勘違いは道上と対等の意識であり、気軽に話せることの夢・妄想を抱いていた。しかしやはり妄想であった。

        父子は永遠に縮める事のできない距離が存在する。

        少々商売が上手く行き始めたからといって調子に乗ってはいけない。

         

        寂しさと悲しさの中で足を引きずっている雄峰が ふと目の前を見ると三ツ星のライトが一つ点いている。黄色いランプだ。 日本のホテルでは部屋が一杯だと噴水の色が赤、空き室が有る時は噴水の色が緑。確かそんなホテルがあった。

         

        何と三ツ星のライトの一つのランプが点いている。

        空き部屋があった。 でも金が無い、カードも無い。

        雨の中の野宿を覚悟していた雄峰は駄目もとでホテルに入った。

        60歳くらいのおじさんがフロントに出て来た。

        「道上を知っているか?」

        「おお彼は有名だボルドーで知らない者はいない」

        「僕は彼の息子だ。一晩泊めてくれ、お金は必ず何とかする」

        と言ってパスポートを見せる。

        「ああいいよ」と言って部屋のカギをくれた。

        どんな部屋だったか覚えていない。

        牢屋のような殺風景な部屋だった事は憶えている。

         

        翌朝銀行を探す。日曜日だから銀行はあいていない。

        ましてや日本円をフランに替えてくれるような所が有るはずがない。

        必死で道行く人達に聞いて廻った。

        するとソシエテ・ジェネラルというフランス最大の銀行のボルドー支店が日曜日でもやっている事が分かった。 早速10万円ほど両替して、1万円にも満たない宿代を払ってホテルを出た。

         

        ルユ・ポキュラン・モリエール通りの道上道場を覗いてから日本へ帰ろうと思った。

        勿論道場は日曜日で休みだと言う事を知っての行動だ。

        道路に面した鉄格子の窓が4つ、その内の一つは道上の書斎だ。

        何の気なしに窓を突いて見ると窓が開いた。

        鍵が掛かっていなかった。しめたと思った。

        日本から持って来たお土産を道上の書斎に投げ込む。

        一升瓶は柔道着の帯に絡ませ、1.3メートルほどの高さの窓のヘリからゆっくりと忍ばせ、 床に着くと逆回しして帯を戻し、二本目を同じ要領でゆっくりと下げて行き、帯も部屋に投げ込んだ。

        最後に

        「僕にはいつも叱ってばかりいる人はいたけど父親はいなかった」

        とミミズの這ったような字で書置きをしてその場を去った。

         

        気持ちはすぐれないが、かばんは軽くなった。

        思い出のアルカッションへ行ってみよう。せっかくボルドーまで来たのだから。

        電車で1時間。その後タクシーに乗って我が母校へ向かう。

        急な坂道を登り切り、タクシーの運転手さんに余分に払うから待っていてくれとお願いする。

        玄関でこの高校の卒業生だが中を見せてほしいとお願いしたところ、10年前の教頭が現れ、今は学長だった。

        「ああいいよ、君のことは覚えている」と言った。

        それはそうだろう相当暴れたから知らない人はいないはずだ。

        10分ほど校舎を呆然と見てから再びタクシーに乗り、港のキャフエへと向かった。

         

        12時半を過ぎていた。料理を頼んだが何を食べたか憶えていない。

        ただ食べながら涙が溢れてくる。止まらない。 おまけに握りごぶしが震える。

        周りのみんなが雄峰を見ている。

        僕には腹違いの兄弟がいる訳では無い。本当の息子だ。唯一の息子だ。

        もっと子供の頃から鍛えてくれていればこうはならなかった。

        何が何だかわからない。

         

        別世界に父親という存在があるだけだった。

         

         

         

         

        【 道上 雄峰 】

        幼年時代フランス・ボルドーで育つ。

        当時日本のワインが余りにもコストパフォーマンスが悪く憤りを感じ、自身での輸入販売を開始。

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