古武士(もののふ) 第79話
place des quinconces
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2000年のある日、道上は愚息とカンコンス広場※を歩いていた。
突然愚息に「お父さんはもう死んでもいいか」と言う、
愚息は慌てて「なぜですか」
「もう老いぼれて世の為になっていないが」
愚息「そんな事ありません。存在しているだけで十分役立っています」
愚息は20年前に、道上はいつか腹を切るのではないかと母親から聞かされていた。社会に貢献できなくなると死ぬのか。
それとも、やれるだけの事は精一杯やったが、無念が残るのか。
愚息にはわからなかったが、やりかねない道上だけに愚息は焦ってしまった。
道上の思いとは裏腹に愚息は腹を切る事を評価していなかった。
その中には恐れもあった。
腹を切ると言う事は天に向かっての反逆なのか、それとも命を天に捧げる事なのか。
無言の散歩が続いた。愚息は息がつまりそうだった。
つい心にもない馬鹿な事を言ってしまった。
「お父さん頑張って下さい」
その瞬間しまったと思った。
「おお頑張ってるぞ」
人生を戦い続けてきた道上には言ってはいけない言葉だった。
その2年後、一時帰国中、日本で息を引き取った。
* ボルドーのカンコンス広場は西ヨーロッパ最大の面積を誇る都市広場で世界遺産にも登録されている。
【 道上 雄峰 】
幼年時代フランス・ボルドーで育つ。
当時日本のワインが余りにもコストパフォーマンスが悪く憤りを感じ、自身での輸入販売を開始。