2024年4月5日発行
世界の最新トレンドとビジネスチャンス
第740回
「人工知能(AI)は日本社会の救世主になるのか?」
浜田和幸
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日本政府はAIガバナンスを推進する上で優先度の高い政策を見極めようとし、内外の研究機関や専門家との連携を
模索しています。
なぜなら、日本が直面する少子高齢化の波や、そこから
派生する労働力不足など多くの経済、社会的な課題を克服するために、AI技術を有効活用したデジタル化政策が欠かせないと判断しているからです。
特に医療福祉の分野は医師や看護師の不足という緊急事態に陥っており、日本政府は途上国からの人材受け入れも
加速させていますが、抜本的な解決には程遠く、将来へ向けての代替策としてのAI活用路線を歩むのが得策と認識されるようになってきました。
また、日本国民のAIに対する理解や受け入れ姿勢も急速に進んでいます。プライスウォーターハウスクーパース(PwC)が2023年春に実施した世論調査では生成AIを使ったことのある日本人は10%でしたが、半年後の調査では対象者の1000人強の内、「ChatGPT」などAIアプリを使った人が73%にまで急増していました。
そのため、民間企業や特定の産業も、こうしたAI化の流れをビジネスチャンスとして受け止め、新たな収益構造に活かそうと必死です。
例えば、NTTはじめ日本の企業や大学はIBMとMetaが
創設した「AI アライアンス」に参加し、AI技術の向上、安全性や信頼性を高める協働作業に取り組んでいます。
日本政府はスピード感を持って、内外からの情報収集と
戦略的なパートナーシップの構築にまい進中です。
2024年3月18日、韓国が主催する「第3回民主主義サミット」がソウルで開催されました。
日本の岸田首相も上川外務大臣も「生成AIを含む高度なAIシステムが悪用されれば、民主主義の基盤を傷つけることになる」と、警鐘を鳴らし、信頼性の高いAI実現のために各国の理解と協力を呼び掛けたものです。
その後の国連総会では、AI利用を巡る安全性の確保や国家間のデジタル格差の是正などを求める初の決議案が採択されました。
この決議案では貧困や気候変動など世界規模の課題解決に向けたAIの活用や国際人権法を無視したAI技術の
運用停止も求めています。
国連総会の決議は安保理決議と異なり、法的な拘束力はありません。
しかし、加盟国がAIに支配される前に、自分たちでAIを支配する道を選択しようとするものであり、日本政府も
全面的に支持しました。
とはいえ、AIが標的を選択して殺害する「自律型致死兵器システム(LAWS)」に関する国際的なルール作りや禁止を求める動きは反対や慎重な姿勢の国もあり、
国際社会が一致団結するまでには至りませんでした。
日本も大局的な観点から政策の検討や実施において
国際社会の一員として腐心しているところです。
そうした中、やはり連携を組みやすいのはG7に代表される欧米の先進諸国であるため、2023年のG7広島サミットにおいてもAIガバナンスを提唱する「広島AIプロセス」が日本政府の主導の下で採択されました。日本政府の強い意思を反映したものに他なりません。
一方、このところ技術革新が目覚ましく、AI関連技術を活用することで国際的にも影響力を増しつつあるのが中国です。そうした中国とどのように向き合い、世界的な課題の解決策を模索する上で、欧米や日本とは一線を画するような独自の国家戦略を進める中国とどのような協力が可能なのか、しっかりと対峙する必要が出てきました。
グローバル・サウスを味方につける上でも、AI技術の活用を重視する中国の今後の動向を看過することはできません。2024年4月10日にワシントンで予定されている岸田首相とバイデン大統領の首脳会談においても、
対中政策のからみでAIや半導体の研究開発で日米の一層の協力が打ち出されることになっています。
最近、岸田首相や日本のIT企業のトップもChatGPTの開発者であるオープンAIのアルトマン氏との会談を重ねているようです。
国会での質疑応答にもChatGPTを活用してはどうかとの提案も出ているほどです。
政治や経済のあり方を根底から覆す可能性とリスクを秘めた生成AI技術をどう有効活用できるかによって、
日本も世界も未来が大きく変わることになることは間違いありません。
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