2024年6月9日
今週の所感
村田光平(元駐スイス大使)
6月9日
皆様
日本を取り巻く内外の情勢の展望は人智をもってしては予測困難と言えましょう。哲学の教えに立脚して漠然と日本一新、世界一新の開幕を感じる昨近です。能登半島地震は確実に日本の原子力政策の改変を迫っております。こうした状況下で樋口英明さんからいただいたメッセージを下記お届けいたします。
小泉純一郎元総理にも報告のメッセージを発出し、その中で司法の危機に日本が直面していることを思い知らされたこと、GX政策がグリーンと称して原発を推進するところに行政の危機もうかがい知れること、東京電力は自己の責任を十分認識し反省しているか疑問である旨などをお伝えしました。さらに「天は見ている」と信じて天地の摂理に委ねたい心境である旨付言いたしました。
6月4日
村田光平先生
樋口英明
いつも貴重なご意見をありがとうございます。
先生のおっしゃる通りでございます。必ず来る南海トラフ地震に備えなければならないと言いながら、南海トラフ地震の震源域にある伊方原発や浜岡原発のことが全く触れられていないことに不思議を超えて不気味であります。
三権の中で何のしがらみもない司法の責任は重大だと思っています。司法は「人権擁護の最後の砦」であるにも拘わらずその責任を果たしていないからです。
福島原発事故による被害や元日の能登半島地震による被害が明かになっても、裁判所は「原子力規制委員会の審査を通ったのだから裁判所は口出ししない」というスタンスです。危機感も緊張感も臨場感もない判断(判決や決定)が続いております。
2022年6月17日最高裁第2小法廷は多数決(3対1)で福島原発事故について「国には責任がない」と判決しました。残念なことに、6・17判決後、地裁・高裁で「国には責任がない」という多数意見に従った判決が続いております。
先生もご存じかとは思いますが、多数意見の一人であった裁判長の菅野裁判官は判決の翌月7月に定年退官し、そして、その翌月8月に、東京電力と深い関係のある大手の弁護士事務所に就職しました。更に多数意見の残りの2人の裁判官(草野裁判官・岡村裁判官)は東京電力と深い関係のある大手の弁護士事務所の出身であることが分かっております。東京電力は福島原発事故によって事実上国営化されましたから、国の責任を問う最終的立場にある最高裁の裁判官たちの退官後の就職先や出身母体が東京電力と深い関係がある弁護士事務所であった場合、公平・公正な裁判を期待することは到底できません。
6・17判決を最高裁自ら是正してもらわなければならないと法曹界だけでなく様々な分野から声が上がり「ノーモア原発公害市民連絡会」が結成されました。6月16日・17日に開催される講演会等のご案内を添付致しました。お目を通していただけますと幸甚です。
村田先生のご意見にたくさんの方が励まされていることだと思います。私もいつも励まされている一人です。
多くの裁判官たちが「原発訴訟は複雑困難訴訟だ」との先入観を持ってしまっています。これを払拭してもらうために、「原発の危険性」を諦めずに訴えてまいります。今後ともご指導くださいますようよろしくお願いいたします。
季節の変わり目ですのでどうぞご自愛ください。
急がれる原子力政策の見直し
皆様
頻発する能登半島地震が今後の日本の原子力政策に及ぼす影響に関する所感をお届けいたします。
これまでも度重ねて示されてきておりますが、原子力に関しては
専門家の知見よりは市民社会の直観の方が信頼できることが、能登地震の震源地近くに建設予定だった珠洲原発を2003年に阻止した市民運動が決定的に立証いたしました。
我が国の原子力政策は事故の再発を許すものであり、根底から見直しを行うことを迫るに至りました。
- 原発はその所在国に向けられた原爆であることがウクライナの
ザボリージャ原発に加えられている軍事攻撃により立証されております。脱原発は核廃絶の不可欠の要件であり、その前提条件とするべきです。
2.日本における原発の安全については総理大臣を含め責任の所在が不明のまま放置されております。原子力委員会もその責任を負わないことを明言しております。
無責任体制が放置されているのが驚くべき現状です。
3.原発事故の再発が深刻に憂慮されます。稼働中の原発の基準地震動(きじゅんじしんどう)は600ガルから1000ガル程度ですが、能登半島地震では最大で2828ガルが観測されております。
これまでも度重ねて基準地震動が低すぎることが指摘されてきましたが、旧態依然です。南海トラフ地震の接近を前になすすべがないのが現状です。
4.能 登半島地震は改めて再稼働が不道徳・無責任であることを想起させます。今後10年間で20兆円規模の政府支援を行うとされるGX政策(グリーントランス フォーメーション)は当然修正が求められます。同政策は能登半島地震の教訓を踏まえていないのみならず、市民社会は同政策は原子力と化石燃料の延命・推 進、再エネ・省エネの妨げになると見ております。