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        奥 義久の映画鑑賞記

        2024年6月

         

        *私自身の評価を☆にしました。☆5つが満点です。(★は☆の1/2)

         

        2024/06/01「missing」☆☆☆

        娘が失踪した家族の苦悩と再生を描いた作品。本作は「愛しのアイリーン」で国際結婚、「空白」で交通事故死をテーマに社会派ドラマに定評のある吉田恵輔監督のオリジナル脚本である。母親沙織里は娘の失踪時に推しのアイドルのライブに行っていたことからSNSに育児放棄等と誹謗中傷される。失踪直前に公園で一緒だった沙織里の弟圭吾は何故いつものように家まで送らなかったのかと非難されたり、犯人ではないかと疑われてしまう。必死に娘を探すために情報提供のお願いのチラシを配布する沙織里に未来はあるのか?本作ではマスコミ対応やSNS問題にも切り込んでいるが、娘はみつからないまま中途半端なエンディングになっている。沙織里を演じる石原ひとみの新境地の演技、夫役の青木崇高、TV局の記者役の中村倫也、圭吾役の森優作らの好演は評価できるが、エンディングがどうしても好きになれない作品である。

         

        2024/06/05「バティモン5」☆☆☆☆★

        前作「レ・ミゼラブル」(ヴィクトル・ユゴーの名作とは同名の異なる作品)でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞したラジ・リ監督の最新作。前作は監督のルーツであるパリ郊外の犯罪多発地域モンフェルメイユ(ユゴー作品と同じ場所)を舞台に警官と少年たちの対立を描いたが、本作では同地区でのもう一つ再開発問題をテーマに市政と住民の対立を描いている。華やかなパリの都と違う知らざるパリの姿を描いた問題作である。物語は市長の急逝で臨時市長になったピエールは老朽化した危険な建物を取り壊し、街の再開発と治安改善を政策にかかげ理想に燃えていた。再開発地域の住民は移民家族が多く、団地から追い出されると行き場を失う人々がほとんどだった。ケアスタッフのアビーは行政の怠慢な態度に怒り住民の助けになりたいと活動している。そんな中で市長たちは強制退去に出て対立はエスカレートしていく。アビー役は初主演に抜擢されたアンタ・ディアウが熱演。市長役のベテラン俳優アレクシス・マネンティもいい味を出している。

         

        2024/06/07「ライド・オン」☆☆☆★

        ジャッキ―・チェン50周年記念作品として公開された本作は、ジャッキー映画に必要不可欠なスタントマンに敬意を表して製作された作品。ジャッキー扮するスタントマンルオはかつて超一流のスタントマンとして活躍、後輩からは師匠と呼ばれる存在だった。ある事故から落ちぶれた生活をおくっていたが、愛馬チートゥとエキストラのスタントで食い扶持を繋いでいた。ある日チートゥが借金のかたに取られそうになり、疎遠だった娘のシャオパオに相談することになる。本作でのジャッキーのアクションシーンは70歳と思えない動きを見せており健在ぶりを示している。娘シャオパオを演じるリウ・ハオツンは第15回アジア・フィルム・アワードで最優秀新人賞受賞の注目の若手女優で、ジャッキーとも息の合った親子役を見せている。家族で楽しめるジャッキー映画だが、残念なことは若者には知られなくなっており、映画館の客層も高年齢に見えた。

         

        2024/06/08「関心領域」☆☆☆☆★

         本作は本年度アカデミー国際長編映画賞と音響賞を受賞した傑作である。アウシュヴィッツ収容所の隣に住むヘス家族の日常を描いている。収容所の出来事とは無縁の生活は一般人と変わらずアウシュヴィッツは対岸の火事ということである。本作の意図は平和に暮らす人々がパレスチナ問題、ウクライナ問題を対岸の出来事と捉えている事への警鐘である。平和な暮らしをしている私たちが見るべき作品であり、世界の情勢を再認識して、私たちが出来る事を考えさせられる作品である。主人公ヘス役は舞台俳優出身のクリスティアン・フリーデル、ヘスの妻役は「落下の解剖学」でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたサンドラ・ヒュラーが演じている。実力派二人の主演も本作の魅力である。

         

        ドライブアウェイ・ドールズ」☆☆☆

        兄ジョエルとともにコーエン兄弟として「ノーカントリー」をはじめ数々の名作を手掛けたイーサン・コーエンの初単独監督作品。今回は妻トリシア・クックが共同で脚本・製作を務めている。自由奔放なジェイミーと堅物の友人マリアンがドライブ旅行に行くことになる。お金の節約で車を配送しがてらの旅行だったが、車の中には謎のスーツケースが積まれていた。ジェイミーの寄り道から、スーツケースを追うギャングたちと遭遇して思わぬ事態に進んでいく。コメディタッチのノンストップ・ロードムービーだが、今一つ乗り切れないのは笑いの感覚の日米の違いかもしれない。主人公の二人、マーガレット・クアリーとジェラルディン・ヴィスワナサンは新進スターだが、マット・デイモンが特別出演している。

         

        2024/06/09「あんのこと」☆☆☆

        2020年に実際に起きた事件を基に「AI崩壊」の入江悠監督が映画化。主人公のあんは21歳。幼い頃から母親に虐待され、10代半ばから売春を強いられていた。ある日覚醒剤取締りで調べを受けた刑事多々羅から就職を世話される。見返りを求めない多々羅に次第に心を開いていくが、コロナウィルスの出現から就職先からの解雇から居場所を失っていく。相談相手の多々羅も強制わいせつ罪で同僚から逮捕されてしまう。あんの再生は再び絶望の淵にたたされる。難役あんを若手演技派の河合優実が演じる。多々羅には佐藤二朗、新聞記者・桐野に稲垣吾郎が扮している。社会の歪みを追求した問題作ですが、見終わった後に暗い気持ちになってしまうので好きな作品ではありません。

         

        2024/06/11「遺国日記」☆☆☆★

        ヤマシタトモコの傑作コミックの映画化。人気漫画家の槙生は両親の事故死で行き場を失った姉の子・朝を引き取り、ぎこちない同居生活が始まる。性格の違う大人と中学だが、徐々に距離が縮まり、かげないのない関係へと変わっていく。槙生役の新垣結衣とオーディションで朝役を射止めた早瀬憩が息の合った演技を見せ、夏帆、瀬戸康史、染谷将太、銀粉蝶等の実力派が脇を固めて見ごたえのある作品に仕上げている。「あんのこと」の暗さと違い本作には希望がある。

         

        2024/06/15「ディア・ファミリー」☆☆☆★

        本作は世界で17万人の命を救ったバルーンカテーテルの誕生秘話です。1970年代に心臓疾患は日本人にとって致命的な病だった。坪井佳美は幼い頃に心臓疾患で余命10年を宣告される。小さな町工場を経営する坪井は資金を集め、人工心臓の開発に乗り出すが思うようなものが出来なかった。佳美の病に対応出来ないと知った坪井は佳美と約束した心臓病の人を助ける為の医療器具を開発する事だった。当時心臓手術をするためのカテーテルは外国産で日本人の身体に合わず医療事故が頻発していた。日本人のための国産カテーテルの誕生の物語がここから始まる。坪井のモデルは東海メディカルプロダクツの筒井宣政氏で現在は全身領域のさまざまな医療機器を開発している。しかし、映画でも描いているようにメディカルの実績がない会社が医療現場に入り事は、大変な苦労だったと思う。命に関わる医療現場では、もっともな事とおもうが、それを打ち破った信念には頭が下がる。

        本作の主人公を演じたのは大泉洋、妻に菅野美穂、長女に川栄李奈、次女(佳美)に福本莉子、三女が新井美羽が家族を見事なアンサンブルで描いている。

         

        PSⅡ 大いなる船出」☆☆☆★

        前作で荒波に飲み込まれたアルンモリ王子が一命を取り止め、兄のアーディタ王子、姉グンダヴァイ、騎士デ―ヴァンとともに王朝転覆の危機を救う大河ドラマの後編である。前作以上のスケールで描く戦闘シーンもあり、楽しめるエンターテインメント作品といえる。

         

        2024/06/16「オペラ座の怪人

        リバイバル作品は映画日誌には掲載しないのだが、本作は私の大好きな作品なので特別に寄稿する。公開20年を記念して4Kデジタルリマスター版である。1986年ロンドンでの初演以来、世界各国で上演されている人気ミュージカルであり、映画は2004年に制作され、翌年の日本公開では当時のミュージカル映画の最高興行記録を打ち立てた。ファントム役のジェラルド・バトラー、ヒロインのオペラ歌手クリスティーヌ役のエミー・ロッサム、青年貴族ラウル役のパトリック・ウィルソン。3人の歌唱力は絶賛に値する。元オペラ歌手のエミーとミュージカル俳優のパトリックは、当たり前と言えるが俳優が本業のジェラルドの圧倒的な美声には驚かされた。本作はヒロイン・クリスティーヌが幼なじみのラウルと相思相愛でありながらもファントムに心惹かれることから悲劇が生まれる物語である。私はミュージカル映画の双璧は「ウェストサイド物語」「サウンドオブミュージック」であり、「オペラ座の怪人」は第3位の位置づけである。テーマ曲はオペラ座の怪人が一番の名曲で心に残るが、ウェストサイドの多くの名曲と愛の物語、サウンドオブの美しいアルプスに響き渡る歌声にはオペラ座の怪人の悲劇は敵わない。それでもミュージカル映画の名作として☆☆☆☆☆の評価を与える作品なので、ぜひ多くの人に鑑賞して欲しい。

         

        2024/06/17「蛇の道」☆☆☆★

        「スパイの妻」でヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞した黒沢清監督の最新作。本作は黒沢監督が1998年に公開した同名作品のリメイクである。前作は娘を殺された男.香川照之の復讐に哀川翔扮する謎の男が協力する復讐物語のVシネマでした。かねてから「蛇の道」を本格作品として再映画化を希望していた黒沢監督が日仏合作映画として蘇らせました。本作では娘を殺された男にダミアン・ボナール、彼に協力する精神科医に柴咲コウが演じています。柴咲のフランス語は初めて思えないほど流暢です。ボナールに協力する謎の女医の本当の目的は?復讐をテーマにした一流のサスペンスドラマです。共演は、フランスの名優マチュー・アマルリク、日本からは西島秀俊と青木崇高が参加している。

         

        2024/06/19「東京カウボーイ」☆☆☆☆★

        マーク・マリオット監督が日本での生活体験を基に異国文化との交流を描いた作品。東京の高層ビル街、冒頭の買収企業とのやりとり、会議室での打合せ、どのシーンも日本映画と思える。脚本を書いたのが、日本語が話せるデイヴ・ボイルと日本育ちで米国に移住した藤谷文子と聞いて納得。そして一転して場面は大自然のモンタナの牧場。主人公坂井はビジネススーツにアタッシュケースで牧場の利益改革をプレゼンするが全く通じない。数字しか見てこなかったサラリーマンが大自然に目覚めていく姿が異文化との交わりを教えてくれる。坂井を演じる井浦新が本作で見せる演技は最高と言って良いだろう。本作はアメリカ映画だが、アメリカ人が作った日本映画の傑作が誕生したと言っても過言でない。

         

        2024/06/22「バッドボーイズ RIDE OR DIE」☆☆☆☆

        おなじみのマイアミ市警のバットボーイズことマイクとマーカスの活躍を描いたシリーズ最新作。今回は元上司のハワード警部に麻薬カルテルとの汚職疑惑がかけられる。故人の名誉挽回のため真相を追求しようとするが、今度は二人が殺人犯としての容疑者となり、逃亡しながら黒幕を追い詰める。ウィル・スミスとマーティン・ローレンスのコンビも4作目なので息の合った演技が見れる。アクションも期待通りである。

         

        朽ちないサクラ」☆☆☆★

        「孤狼の血」の柚月裕子原作の人気シリーズの映画化。「孤狼の血」はマル暴の刑事が主役のハードアクションだが、本作は広報課の事務職員が親友の死の真相を知るために独自捜査をする異色の警察作品である。主人公泉を演じるのは若手演技派女優NO1の杉咲花、同期の協力者に萩原利久、泉の上司で元公安刑事に安田顕、捜査一課長に豊原功補が扮している。良質の警察ドラマに仕上がっている。

         

        2024/06/26「ザ・ウォッチャーズ」☆☆☆★

        ホラー映画の鬼才M・ナイト・シャラマン監督の娘イシャナ・ナイト・シャラマンの初監督作品。原作はA・M・シャインの小説。28歳の孤独な女性が配送の途中に森に迷い込んだ。その森でガラス張りの部屋で先客3人とともに監視されることになる。監視者の目的は?異色ホラー・サスペンスが誕生。主人公の女性にはダコタ・ファニングが扮している。

         

        2024/06/27「フィリップ」☆☆☆★

        原作はレオポルド・ティルマンドの自伝的小説で、1961年の出版後に発禁となり2022年に出版された曰く付き作品です。内容はナチスに恋人を殺されたユダヤ人青年フィリップが復讐のためにフランクフルトのホテル従業員として暮らしながらドイツ人女性と関係し捨てていくが、ある日リザと知り合い本当の愛に目覚めていく。愛に飢えていた男が愛を知った時に起こす行動の不条理を描く問題作。主人公のエリック・クルム・ジュニアが監督は唯一のフィリップ候補として主人公を演じさせたが、私個人的には女性が夢中になる美しさと知性があるとは思えなかった。過去のアラン・ドロンのような存在が欲しかった。今なら砂の惑星で主人公を演じたティモシー・シャラメが相応しいと思う。主人公のミスキャストがなければ☆一つを増やせる作品と言える。

         

        2024/06/28「ボーン・トゥ・フライ」☆☆☆★

        中国での第4世代戦闘機開発に携わるパイロットたちの情熱と友情を描いたスカイアクション。中国では第3世代機が主力で他国の持つステルス戦闘機は開発途上であった。この戦闘機を実用化するために七人の若者が選ばれるが、危険と隣り合わせの実験では事故が起こり、指導役の隊長の命も亡くなってしまう。隊長の意思を継いだパイロットは悲しみを乗り越えてテストを続けていく。空の迫力ありシーンと主人公を演じたワン・イーボーの人気が、世界興収177億円という記録を打ち出し、満を持しての日本公開となった作品である。

         

        2024/06/29「クワイエット・プレイス:DAY1」☆☆☆

        音を立てるものに襲い掛かる謎の生命体を描くシリーズ第3作。

        本作は謎の生命体がニューヨークを襲った1日目を描いている。ニューヨークでこの生命体に遭遇したサミラは唯一の家族といえる愛猫を抱えて逃げ惑う。音を立ててはいけないということにたどり着き、途中で知り合った青年とともに最後の目的に向かって進んでいく。主演はルビタ・ニョンゴ、ジョセフ・クイン、第1作と第2作の主演のシャイモン・フンズーも同役で出演している。無名俳優たちの熱演とDAY1というアイデア興味で鑑賞したB級作品。

         

         

        制作協力企業

        • ACデザイン
        • 日本クラシックソムリエ協会
        • 草隆社
        •                 AOILO株式会社

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