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        第一章  亀裂        ⑧離婚の危機
        
        「いま取りこんでいるから明日にしてくれないか。明日・・・あしただ。細かいことはその時にしてくれ。じゃあね」
        勝は受話器を置いた。それを待って実博が言った。
        「母さんとの話がもう少し整理されるまで、中国とか留学生とか言うの一切オフ・リミットにしたらどう?」
        このところグンと背丈を伸ばした実博が、フミをかばうように立ちはだかって言った。電話の相手が中国留学生と知って妙に優しくなった勝に、実博も肚を立てているようだった。
        「それはそれ、これはこれだろ」
        「そう開き直るなよ、親父」
        そう言った実博も度胸を据えたようだ。
        「いいかい、とうさん。かあさんは、ゆっくり話したいと言っているんだよ。耳を貸してほしいと言ってるんだよ」
        勝はまた腕組みして天井の蛍光灯をにらんだ。すすけた蛍光灯の一本が弱りきっていてチカチカと不規則に明滅している。それもまた、勝が店に対して十分な気配りを怠っている一つの証しである。
        チカチカと息切れしている蛍光灯はひたすら侘しい。
        「ねえ、とうさん、ちょっと前までは良く、とうさんとかあさん、一仕事終わった夜中の一時ごろ、二人で一緒に風呂入ってからだ流しあいながらベチャベチャ喋っていたろ」
        フミが思わず実博の顔を見上げた。なんとなく首をすくめるようにして羞じらいの表情を見せる。実博はかまわずことばを続ける。
        「あれは良かった。ああいうこと、いましないだろ、とうさん」
        勝はわけもなく頭をかいた。
        「風呂場でイチャイチャすることだって、ちゃんと夫婦のコミュニケーションに役立っているんだ。かあさんだって、淋しいんだよ」
        「おい!分かったようなゴタク並べやがって・・・ロクに勉強しない高校生が、自分の頭の蠅を追えっていうんだ、この・・・」
        勝の声音がまた不機嫌に戻っている。
        「おとうさんは、見ず知らずの中国留学生と自分の家族と、どっちが大事なの」
        
        こんどは幸子が尖った声を出した。
        フミが幸子の袖を引いて止める。
        それがかえって幸子の気持ちを昂らせたようだ。
        「何が友情よ、日中友好よ、自分の奥さんの結婚指輪を売り飛ばしたり、子供の机まで持ち出して中国人留学生に注ぎこんでさ、
        その上、自宅マンションも都賀駅前の支店の権利も手放して、
        さらに借金だらけ!」
        「うるさい!」
        勝が幸子に手を上げかけた、実博が勝の手をつかんだ。
        「やめろよ」
        「お母さんが怒るの当り前よ、わたしたちだって、お父さんのやっている事、ハラハラドキドキして見ているのよ、そうじゃないわよ、
        もう見ていられないのよ!」
        フミが、「幸子、やめなさい」とたしなめる。
        勝が実博の手を振り払った。
        「いい加減に黙れ。三人して、うるさい!」
        「黙れとかうるさいとか、ちっとも人の言うことを聞かないんだから、お父さんは横暴よ!」
        勝が幸子に掴みかかろうとする、実博がその勝を羽交い絞めにして抑えた。
        「いいかげんにしてというのは、こっちの言うことよ!」
        フミがまた勢いを取り戻して叫んだ。
        「まるで封建時代のバカ殿様みたい!時代錯誤もいいとこよ、
        まったく!」
        「バカ殿様とは何だ、おい。言うことにこと欠いて、まったく・・・
        俺はな。心を込めて人に尽くそうとしているんだ。私利私欲や打算でやっているわけじゃないんだ。困った人を助ける。
        行きくれてへたばっている人を元気づける。人のことは人のことじゃない。自分のことでもあるんだ!。
        いま目の前で水におぼれている人に手をさしのべるのは、人間として当然のことだろう。平気で人を見殺しにできるか。それを、
        バカ殿様だなんて、冗談じゃねぇ!」
        勝が拳をブルブルとふるわせて、三人を睨みつけた。
        「言いかたが悪かったらあやまりますよ。あやまればいいんでしょ」
        「こらッ。その言いかたは何だ!あやまればいいんでしょと言いながら、本当に申し訳ありませんでっしたという気持ちのカケラもない!あやまるときは、腹の底からあやまるんだ!」
        八百屋として船橋中央卸売市場の競売(セリ)や店頭の呼び込みで
        鍛えた勝の声は、それでなくともビンビン響く。
        その勝が頭のテッペンから湯気を立てんばかりにいきり立っているのだから、その大音声は通りの向うにある夏見台団地にまで聞こえているはずだ。
        「そういう威圧的な態度をとるから、バカ殿様って言われるのよ」
        幸子がゆっくりと押し返すように言う。
        勝は一瞬、ウッと唸って沈黙した。
        子供に対しては、勝の勢いはそがれる。
        実博も幸子も、もう、一丁前のおとななのだ。
        「おとうさんはいつも、俺はウマ年、フミはネズミ、ほんとうはまるで相性が悪いって言ってるでしょう。それならそれで、ウシでもヘビでもいいから相性のいい人を見つけてやり直しゃあいいのよ」
        幸子のこんなせりふを実博が引きとる。
        「そうだよ。別れりゃいいんだよ。俺たちは、かまわないよ。なんとかやってゆくから」
        「そうよね」と幸子がしみじみとした口調になる。
        「おとうさんにすれば、ぶん殴らなきゃ分かってもらえないような女房と一緒にいたってしょうがないだろうし、おかあさんにすりゃあ、暴力をふるう旦那さまなんかと暮らすのは、まっぴらだろうしね」
        たまりかねた勝が、ものをぶん投げるように言う。
        「二人はあっちへ行け。これは夫婦の問題なんだから。おまえら越権だ。内政干渉だぞ」
        「いいわよ。子供たちにも立ち会ってもらいましょうよ」と、フミ。
        「じゃ何か、ここで離婚の話でもしようってのか、フミ」
        「いまはそんなつもりはないけど、今後のお父さんの出方しだいで、そうならないとも限らないわね」
        「何だこの野郎、カッコつけやがって!」
        勝がまたカッとして手を振り上げかけた。実博がその手を押さえた。こんどは勝が体を振り向けて実博を突き放した。実博はよろけて壁に当たった。勝があらためてフミに殴りかかろうと構えた。幸子が
        ズイと出てフミをかばって立った。
        
        「暴力、イケマセン!暴力、ハンターイ!」
        いきなり甲高い声があがった。両手にスーツケースとバッグを下げた若者が入り口に立っている。
        「楊デス!オジャマシマス」
        勝は苦い顔をして、振り上げた拳をしぶしぶ引っこめた。
        「何だい、電話でいま取りこんでいるから明日にしてくれと言ったろうが」
        「スミマセン。スグソコノ赤イ電話カラカケテイタノデス」
        「そういうの、困るんだよ」
        「僕モ困ッテマス。五十嵐サン、助ケテクダサイ」
        「助けるってね・・・だから、いまは忙しいの」
        「忙シイ?奥サンニ暴力、ソレ、忙シイコトデスカ?」
        楊のことばに、勝はムッと唇をとがらせる。
        「暴力ハ、野蛮デス。人間ハ、話セバワカル。コトバデ、一生懸命、話セバワカル」
        「そうだ!」と実博が間の手をいれた。
        「日本ノ男、ズット昔カラ、イバッテキタ。イマハ、民主主義ノ世ノナカ、暴力デイバル、最低デス」
        
        
        

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