┌┬───────────────────────────2024年9月
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│└┼┐ 資産家のための資産税ニュース 第153号
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└──┴┴────── 辻・本郷 税理士法人 www.ht-tax.or.jp/
辻・本郷 税理士法人の資産税の専門家が
相続・贈与税、資産にかかわる最新の情報をお届けする
「資産家のための資産税ニュース」 毎月15日配信です。
(※15日が休日の際は、前営業日に配信いたします)
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■□ 令和4年最高裁判決後、総則6項適用事案に関する初の裁判例 ■□
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総則6項適用事案である、令和6年1月18日東京地裁判決(納税者勝訴、いわゆる「仙台薬局事件」)の控訴審で、令和6年8月28日に東京高等裁判所の判決が言い渡され、またもや納税者勝訴という結果になりました。
【1.事案の概要】
本件は、M&A準備中の非上場株式の相続税評価に関する事案で、納税者が、
相続により取得した財産の価額を財産評価基本通達(評価通達)の定める方法により評価して相続税の申告をしたところ、V社へのM&Aにつき基本合意がなされたO社株式の価額について、評価通達の定めにより評価(本件通達評価額、
1株当たり8,186円)することが著しく不適当と認められるとして、評価通達6に基づく評価(本件算定報告額、1株当たり80,373円)により、相続税の各更正処分等を受けたことから、その取消しを求めた事案です。
原審は、納税者の請求を認容したところ、国側がこれを不服として控訴していた
ものです。
【2.相続等における財産評価と総則6項】
総則6項とは、財産評価の例外を定めている通達で、次のような適用関係です。
相続等における財産評価をするうえでは、「相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、…時価…による。」(相続税法第22条)と規定され、その時価とは「客観的交換価値をいうものと解される」(最判平成29年2月28日)といいます。
また、その評価方法は、「この通達の定めによって評価した価額による。」
(財産評価基本通達1項)としており、その例外として、通達評価が「著しく不適当」である場合に「国税庁長官の指示を受けて評価する」(同6項)と定めています。
この例外的条項がいわゆる「総則6項」です。
【3.最高裁の判断枠組み】
令和4年4月19日最高裁判決(納税者敗訴)の判断枠組みが原審でも引用されており、概ね以下のように解釈できます。
(1) 財産評価の原則は、相続税法22条に定める客観的交換価値としての時価であるが、当該客観的交換価値を上回る場合に限り、同条違反となる
(通達評価額を上回るか否かによっては左右されない)。
(2) 時価を定めた財産評価基本通達に従って画一的評価を行っている課税庁が、
「特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により
評価した価額を上回る価額による」のは、「合理的な理由がない限り」、
「平等原則に違反するものとして違法」である。
(3) ただし、形式的な平等を貫いて財産評価基本通達を画一的に適用することが、
「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」がある場合には、
「合理的な理由がある」と認められるから、例外的に評価通達によらない
評価額による課税が認められる。
なお、原審の「ただし、本件通達評価額と本件算定報告額との間に大きな
かい離があるということのみをもって直ちに上記事情があるということはできない。」
という最後の部分は、控訴審においては削除されました。
【4.東京高裁の判断】
東京高裁の判断は、原審破棄まではされずとも、判旨のほとんどが補正される
ものとなりました。要旨は以下のとおりです。
(1) 「取引相場のない株式の交換価値は、本来、専門的評価を経ない限り判明し得ないものであって、…売買代金が交換価値を反映しているとは限らないというべきで…、結果的に、専門的評価により交換価値と評価通達180に定める類似業種比準価額とのかい離の程度が著しいと判定された場合においても…評価通達の定める方法による 画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情 (特段の事情)が存在していたということにはならない。」
(2) 「合理的な理由がないのに、特定の相続財産のみについて専門的評価を行い、
これを基にして課税処分を行うことは、平等原則に反するものというべきである。」
(3) 売買契約が未だ成立していない取引相場のない株式の価値について、
「近い将来における売買契約の成立及び売買代金債権への転化の蓋然性の程度を基準にすることは適切でない。」
(4) 「最高裁令和4年判決は、評価通達6の適用の有無に当たり、被相続人が、
相続税の負担を減じ又は免れさせる行為をしたことを考慮しているところ、
本件被相続人及び被控訴人らによるこれに類する行為があったとは認め難い。
すなわち、…O社株式の評価額を下げるような行為がされたことはうかがわれない」から、納税者の「行為に着目した場合に、他の納税者との関係で不公平であると判断する余地はない。」
(5) 他の不公平要素につき、「同種の遺産を相続により取得した者との均衡」からみて、取引相場のない株式は評価通達により評価されるため、取引相場のある株式は遺産の種類が異なるため、いずれも「不公平が生じる余地はない。」
また、引用を補正した部分以外では、下記判断を追加しています。
(6) 「当審における控訴人の主張のうち、評価通達6の適用に当たり、租税回避行為があることは要件とならないとする点については、当裁判所はそのような要件が存するものと説示しているものではないから、同主張に対する判断の必要はない。」
【5.考察】
東京高裁の判断は、今後の裁判において参照される可能性を意識してか、原審をより一般化した印象を受けます。例えば、租税回避行為があることを要件とする旨の判断を避けた点や、最高裁の判断枠組みから削られた文言(かい離は要件にならない旨)について、具体的な当てはめではいずれも考慮要素に含まれていることから、今後を見据えた判決にしたものとも思われます。また、租税回避行為の有無についての要件該当性については、これから更に多くの裁決や判決が出てくることで、議論が進んでいくでしょう。
本件につき国側が上告するかは未定ですが、今後の事例に影響を及ぼす重要な判決になると思われますので、動向にご注目ください。
(担当:清水 一史)
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