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        第二章  出会い     ③八百春の店でⅡ
        
        翌日、夕方の混雑する時間より、やや早めに、店頭に留学生が現れた。店の奥の事務机にいた勝は、チラと見たが、そのまま知らん
        ぷりをして伝票整理をしていた。
        「スミマセン、コノバナナ、100円、マケテクダサイ」
        あの太っちょである。勝は「来たな」とニヤリとして口に出して言い、おもむろに椅子を立った。
        じつは、一房6本のバナナ、仕入れ値は150円。
        だから売値は200円でもいいのだが、あえて300円の値札をつけておいたのだ。
        勝は「ニイハオ」と声をかけてから言った。
        「またジャンケンするかい?」
        「ハイ、シマス!」
        太っちょは、その気だ。
        「もし俺が勝ったら値札の値段。もし負けたら100円引だ」
        つまり、それでも八百春としては、ちゃんと商売になる計算だ。
        勝がパーで勝った。三人組は無念と未練のまなざしでバナナを見直している。
        こんどは、タマネギ一山200円をジャンケンで勝ったら100円二してやろうと勝は言った。
        メガネの若者が代表で前に出てきた。
        勝はチョキを出し、彼はパーを出した。
        勝った、勝はワザとはやしたてて値札どおりに買わせた。
        だが、メガネはたちまちケチョンとしおれてしまった。
        しきりにグループのメンバーにあやまっている。
        その姿が真に迫っていて、勝はいきなり哀れになってしまった。
        キャベツ1個150円を100円にするということで、再びジャンケンをした。
        今度は太めの若者が代表になった。
        勢い込んだ太っちょは、グーを出し、勝はチョキで負けた。
        三人は文字どおり飛び上がって嬉しがった。
        「グーで勝ったよ!」と目尻を下げた顔がチヤウに似ている。
        その子供っぽい表情やしぐさを眺めていて、勝はふと、何となく怯む思いを味わっていた。
        おれはこの中国の若者たちを、結局はだまし討ちにしている・・・・。
        勝は心の底でそう呟いた。そして、
        居ても立ってもいられないような重ったるい気分に襲われた。
        いそいそと帰りかけた三人組の背中に、思わずでかい声を張り上げた。
        「おい・・・・ここにあるキャベツ、ちょっと傷んでいるが十分に食える。サービスにあげるから持っていきな」
        三人は交互に顔を見わせ、速足で戻って来て「謝、謝!」と口々に言った。
        太っちょは大仰に握手を求めてきた。
        八百屋がキャベツをサービスして客に、握手されたケースはない、と勝は咄嗟に考えて、ちょっとためらった、が、太っちょは、自分の方から勝の右手を掴みにきて。再び「謝、謝!」と大きく上下に振った。
        勝も思わず、「謝、謝!」と応えてしまった。
        その間に、細っこい顔の学生は備え置きのビニール袋にキャベツを入れて、ちゃっかりぶらさげていた。
        キラキラまぶしいような笑顔を見せて、全員がペコリと頭を下げた。
        こいつら。図々しいのか純情なのか、さっぱりわからねえな。
        勝は首をひねった。
        
        
                                 続く
        
        
        
        

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