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        第二章  出会い     ④ 再会
        
        次の日の同じような時間に、あの留学たちが現れた。
        三人かと思ったら一人増えている。
        ~ あれ?味をしめて、仲間を増やしやがった。
        そう思った、勝だったが、決して不快に思ったわけではない。
        考えてみたら、若者たちとあまり接したことがない。
        ましてや日本人以外の外国の青年たちと、じかに話したこともなかった。
        たとえ商売物のジャガイモやバナナやタマネギを通じてのことであっても、勝にとっては何となくウキウキするようなユニークな体験である。
        ~キャベツをただでくれてやって、嬉しがって握手を求めてきた
        あいつに、おれが謝、謝!と言うことはネエンダヨナ。
        そんなよしなきことを考えていた勝に、グループのなかの新顔の
        留学生が親しげな声をかけてきた。
        「ニイハオ!コノ間ハ、アリガトウゴザイマシタ」
        卸売市場でも店でも、いつもさまざまな顔と出くわす勝は、いきなり親しげに礼を言ってくる若者をまじまじと見返した。
        そういえば見覚えが有ると、ちょっといらついた。
        「フナバシ駅前のバスニ乗ルトキ、イロイロ助ケテモライマシタ」
        そのことばで、勝は船橋北口のバス停での暮の酔っぱらいの一件を
        思いだした。
        「そうそう、えーと、何て名だっけ?」
        「陳、デス」
        「チェン?」
        「陳ト書イテ、チェン」
        「陳さんか」
        「ソーデス!陳!」
        「よし、チェンとおぼえておくよ」
        勝は、われながら、うまいシャレだと思って「呵、呵」と大口を
        ひらいて笑ったが、留学生たちはポカンとしているので、拍子抜けした。
        あの夜、陳を呼ばわりした、猪首の酔っぱらいを、結局タクシーに乗せて二人で自宅に送り届けた。
        夏見台団地の12号棟の住人で、気を取り戻した男は、酔いもさめたのか居心地悪そうにしていたが、モソモソと礼も言わずにタクシーから降りて行ったのだった。
        「お父さん!」
        フミが呼んでいる。
        「倉庫からキャベツ出してください!」
        勝がまた、中国の学生たちとダベッているのが気に入らないのだ。
        時間をムダにしているということもさることながら、それとなく
        留学生達にサービス過剰になっている事も、フミにはもう一つ気に入らない。
        「陳さんは、やっぱり学生かい?」
        「ハイ」
        「なに勉強しているの?」
        「物理、センコーシテマス」
        「へえ。学校はどこ?」
        「トーダイ」
        「ほう!三浦三崎か犬吠埼かだ」
        勝はまた派手に笑ったが、留学生たちは一人も笑ってくれなかった。
        「何してんですよッ、おとうさん!キャベツ」
        フミの少しとがった、その声をしおに、学生たちが帰って行った。
        彼らが口々に言う陽気な「謝、謝!」という言葉が、勝のこころを
        奇妙に弾ませていた。
        
                                 続く
        

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        • 日本クラシックソムリエ協会
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