第三章 別離の記憶 ③いたずらトリオ 1 学校に上がる前から何となく気の合っていた勝とサカエとミノルとは、そのまま赤井第一小学校のいたずらトリオになっていた。 勝を代表者としてよく先生にゲンコツの体罰を食らったが、彼らは 登校拒否をするどころか、どちらかというと意気揚々と学校にやってきた。 勝はじっとしていない。 どんなことにも自分から一歩踏みこんでいく。 善いことはともかく、周りからヒンシュクを買いそうなことにも ためらったり怯んだりすることなく積極的にかかわっていくのだ。 しかも、負けず。めげず、性懲りもなくといった具合で、その 勝の性根が他の二人にも伝染していて、いたずらトリオの結束は日々堅くなるようだ。 しかしそれは、寂しがりやの勝の、どうやら裏返しの行動とも言えた。 黙ってじっとしていれば間違いなくひとりぽっちになる。 勝はみすみす孤独の穴ぼこに落ちる事を避けるために、手っ取り早いいたずらに情熱をそそいだ。 赤井第一小学校の背後は小高い丘になっていた。 それほどうまくはないが、食べられる実のなる野草や樹木が密生していた。 3人はせっせと駆けずり回って手当たりしだいに手をのばし、その時々の野生の実を食べ歩く。 それが面白くてよく始業時間に遅刻した。 おきまりのゲンコツである。勝の体を大とすると、ミノルは中、 サカエは小という具合で、3人が並んで体罰を受けると、級友たちは われ関せずとその風景を楽しげに眺めやった。 3人は3人で級友たちにウケようと、殴られた瞬間にわざとおどけた顔をしたり、先生の目を盗んで得意になって、「ヨッ!」と手を上げたりして、またぞろゲンコツをプラスされ、顔をしかめるのだ。 磐越東線に沿ってつかず離れず、ゆったり夏井川が蛇行している。 広々とした川幅に透明な水がたっぷり流れていた。 厳寒の冬はともかく、3人があり余るエネルギーを発散する場所として夏井川は絶好の解放区だった。 赤井第一小学校の向う側に監視人室を備えた堰が設けられていた。 その名は愛谷堰(あいやぜき)。 水門の下流にゆるいスロープがあり、水がしぶきを上げている。 梅雨の季節になると、そこで鮎が獲れた。 前身ずぶぬれになりながらも、そのスロープの下の深みに入って鮎を追う。 たも網と棒切れで面白いようにピチピチした鮎が獲れるのだ。 危険だからということで、監視人に見つかれば追いかけられる。 しかし、3人は委細かまわず悠然と鮎獲りに熱中するのだ。 「どうせ、おっちゃんがここへ降りてくるまでには、おれたちはさっさと向こう岸につくもんな」 「おっちゃんも、ワアワア怒鳴るだけで、下にはおりてこねえもん」 まさにタカをくくっている。 それに、岸辺には地元の人間が毎晩、うなぎとりの梁を仕掛ける。 その位置はほぼ一定している。 勝たちはしめし合わせて、朝まだ明けやらぬうちにそれらの梁に入っている、うなぎをひと足先に回収して歩いた。 「きょうは、獲物少ねえな」 「うなぎの日曜だっぺよ」 「日曜日だと、うなぎはどこに遊びに行くんかなあ」 大まじめな3人の会話だが、梁の仕掛け人が聞いたら湯気を立てて怒るはずだ。 夏になると、夏井川の浅瀬には幼い子供たちが水浴びに来た。 母親たちや先生につきそわれて子供たちは町なかからやってくるらしい。 手持ちぶたさの3人は、そのまま川上に行ってフルチンで水に飛び込む。 そして、そこで悠々と大小便の用をたして、涼しい顔をして対岸の平窪側の岸に上がる。 そのまま、トマト畑へ行って熟れたのを選んでもぎとり、また川へ戻って冷たく冷やしてかぶりつく。 「おれたちのアレは「、もう流れちまったもんな」 「川下のほうに、どんぶらこっこだもんね」 そんなとぼけた会話をして、また3人は西瓜畑をめざす。 「ことしは平窪の西瓜の出来はいいぞ」 「おう。治助んとこの西瓜はとくに甘えぞ」 3人は決して西瓜を丸ごと盗まない。 西瓜をひっくり返して青白い尻から竹の細い筒を突き刺す。 そして唇をすぼめてチュウチュウ中身を吸い出す。 中身はなま暖かくてもうひとつ、のどごしが良くないが、たっぷり甘いので満足する。 「終わったら西瓜をちゃんと元の位置においとけよ」t勝がいつものように命令する。 何がちゃんとなのか、分からないが、少なくとも見た目には異変や 異常はない。 続く