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        アロマセラピーによる認知症の予防・改善について

        星薬科大学 先端生命科学研究所 ペプチド創薬研究室

        特任教授 塩田清二

         

        初めに

        超高齢化の進んでいる日本において、認知症患者の急激な増加は

        医療費を圧迫し、看護や介護を行う人たちにも大きな負担となっています。

        最近の新聞報道では、認知症にかかわる医療費は15兆円にもなり、国民経済を大きく圧迫していることが知られています。さらに2025年には、団塊の世代が75歳を迎えることになり、認知症患者数は爆発的に増大していくことは間違いありません。

        認知症あるいはパーキンソン病等の患者さんは、嗅覚が障害されている場合が多いといわれています。

        我々は NIRS(光トポグラフィー)という最近開発された装置を用いて近赤外光を脳に照射してとくに大脳皮質の脳血流量を測定しています。

        アロマセラピーによって認知症およびその前段階の人(フレイル)の脳機能を活性化し、認知機能の改善をはかれるという実験結果が出てきています。

         

        認知症とアルツハイマー病

        認知症は、何らかの外的および内的原因により脳の記憶等に関わる神経細胞の機能低下が生じたり消失したりしたために、記憶力や注意力等の知的能力が障害された状態になることであるといえます。

        認知症の多くは、脳の器質的な変性をその病因としています。

        例えばアルツハイマー病では、全般的な脳の萎縮や脳室の拡大が

        見られ、最も顕著な神経変性は、海馬やその領域にみられ、アルツハイマー病特有の物忘れと対応していると考えられています。

         

        アルツハイマー病と嗅覚障害

        特に近年注目される臨床症状として、アルツハイマー病による嗅覚障害があります。

        これは以前より指摘されており、アルツハイマー病のごく初期に

        嗅脳の委縮とその機能低下が、みられることが注目されていました。

        またアルツハイマー病の重症度が、嗅覚障害の重症度と明らかに

        相関性のあることが多くの研究で報告されています。

        さらに加齢に伴い、健常者でも嗅覚機能の低下がみらえることも

        分かってきています。

         

        香りによる認知症の改善

        認知症の改善に、香りの効果があることが証明されています。

        嗅覚とアルツハイマー病が密接に関係していることが分かってきましたが、すでに香りが認知症患者の周辺症状の治療に有効であることは経験的にいわれていました。

        抑うつや不眠障害については、アロマセラピーが効果的なことは古くから知られています。

         

        しかしアルツハイマー病の中核症状である認知機能障害についての有効性はまだ検討されていませんでした。

        我々は、横浜市にある老健施設において、医師の協力の下で

        交感神経系を活性化するレモンやレモングラス等の柑橘系の香りを用いて毎日2時間芳香療法をアルツハイマー病の患者さんに

        施術しました。

        その結果、患者さんは日中活動的になり、夜は疲れてよく眠れるようになりました。

         

        その結果、生活リズムが整い、物忘れ等の中核症状が改善されることが分かりました。

        認知症の初期、中期、末期いずれの時期においてもレモングラスにより芳香療法が効果的であることが実証されました。

        また、 NIRS装置を使って被検者の患者さんの脳機能を調べた

        ところ、レモングラスの香りは 大脳の前頭葉の脳血流量を有意に

        増加させることが、確認されました。

         

        治験にはレモングラスの低温真空抽出法で作出した天然の細胞水

        セルエキストラクトを使用しました。

        一切化学香料を使用していないのが特徴です。

        仕様後2、3分で大脳皮質前頭葉の脳血流量が上昇し、集中力が

        増加してやる気が出てくるということも分かってきました。

         

        アロマセラピーと認知症の予防・治療法

        我々の臨床研究で、高度のアルツハイマー病患者でもアロマセラピーに一定の効果が見られることが分かりました。

        脳が機能不全を起こしているアルツハイマー病の重症の患者さん

        でも認知症改善効果がみられたことから、アロマセラピーが認知症の症状改善の有望な手段になりうるということになります。

        現在臨床で使用されている認知症の薬は、症状を遅らせる効果はありますが、認知能力をあげる点ではまだ効果が低いといえます。

        アロマセラピーを、従来の西洋医学的治療と併用することで、

        認知症の予防や改善に役立つことが期待できます。

         

        おわりに

        天然の香りを嗅ぐことによって免疫機能の向上や精神安定作用、

        あるいは記憶の神経回路の調節等、ヒトの健康のみならず社会行動にも嗅覚情報は深く関与しています。

        さらに嗅覚に関与する嗅細胞の神経再生の本質的理解が進めば、

        嗅覚障害の予防・治療法の開発、脳や脊髄の神経再生医療にもつながると考えられます。

        今後、 認知症などの精神神経疾患の予防や改善にアロマセラピーが役立つと考えられます。

        またセルエキストラクトを用いたマスクを装着すれば高齢者の

        ドライバーの事故防止やさらにうつ病対策にも使えると我々は考えています。

         

        参考文献:「<香り>はなぜ脳に効くのか アロマセラピーと先端医療」塩田清二著 (NHK 出版新書)2012 刊

         

        制作協力企業

        • ACデザイン
        • 日本クラシックソムリエ協会
        • 草隆社
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