第三章 別離の記憶 ⑫ 林正順 8別れ 「僕は一週間後ここを出る。中国の四川省に帰る。お寺の和尚さん ご夫妻にはもうきちんとあいさつしたけど、他の人には一切言っていない。実はね、あと十日したら・・・つまり、 […]
カテゴリーアーカイブ: 謝謝の樹 第三章
⑪林正順7
第三章 別離の記憶 ⑪ 林正順 7 林の胸のうちには、スパイ容疑でたぶん酷い拷問を受けて憤死したであろう兄の正光のことと、心痛のあまり息子を追うように病死した父親正春のことが、ずっと重くわだかまっていたはず […]
➉林正順6
第三章 別離の記憶 ➉ 林正順 6 メガネをかけたヤマニ堂書店の店番の女性だった。 25歳くらいの眉の濃い、顔の小さな女だった。 あの店の娘なのかもしれない。 メガネがキラリと光った。 勝はクビをすくめ、す […]
⑨林正順5
第三章 別離の記憶 ⑨ 林正順 5 赤井のチマチマした集落のまん中に桜の古木があり、その木の下に風雨に晒されて色あせた稲荷の祠がある。 その隣に昭栄館という倉庫のような木造の映画館があった。 いかにも、古ぼ […]
⑧林正順4
第三章 別離の記憶 ⑧ 林正順 4 母のきよのからも林のことを聞いた。 父親は林正春(リンズエンツエン)という中国人だということ だった。 中国はずっと奥地の四川省というところから、家族4人、 昭和10年こ […]
⑦林正順3
第三章 別離の記憶 ⑦林正順 3 林はここでもうひとひざ乗り出して、古びた卓袱台(ちゃぶだい) の上に紙切れを出し、字を書いた。 「良樹細根」 「大樹深根」 習字の苦手な勝だが、そのチビた鉛筆の字が、の […]
⑥林正順2
第三章 別離の記憶 ⑥林正順 2 「勝くん」この絵を描いた絵描きさんたちはね、みんなまずしかったんだ。親兄弟にも恵まれず、まるで申し合わせたように誰もが 孤独だった。ひとりぽっちだった。でもね、自分の好 […]
⑤林正順1
第三章 別離の記憶 ⑤林正順 1 そんな勝のいたずら三昧の行動の一部始終を、それとなく見やっている青年がいた。 常勝院隆生寺の庫裏の裏の見捨てられたような小屋に住む林正順 (はやしせいじゅん)だった。 林は絵を […]
④いたずらトリオ2
第三章 別離の記憶 ④いたずらトリオ 2 いたずらトリオの好奇心や関心の範囲は広い。 高校生のくせにタバコを吸う、酒は食らう、かと思えば女の子を のべつ連れ歩いて得意になっている奴がいた。 とりあえず盤城第一高 […]
③いたずらトリオ1
第三章 別離の記憶 ③いたずらトリオ 1 学校に上がる前から何となく気の合っていた勝とサカエとミノルとは、そのまま赤井第一小学校のいたずらトリオになっていた。 勝を代表者としてよく先生にゲンコツの体罰を食らった […]
②チャンバラごっこ
第三章 別離の記憶 ②チャンバラごっこ 就業中の敷地内にはそれこそ遊び場に最適で、よく仲のいいサカエやミノルを連れて来ては、チャンバラごっこで走り回った。 そのうち、ケンジというのが、一緒に遊ぶようになった。 […]
①1948年(昭和23年)
第三章 別離の記憶 ①1948年(昭和23年) 五十嵐勝は父親を知らない。 母親のきよのは、勝が幼いときに父親の三郎は戦災で亡くなったと、 それとなく話してはくれていた。 が、あまり詳しいことには触れたがらなか […]